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融資を申し込むベストなタイミング|年度調達と当座貸越の使い方|銀行取引の教科書 #13

    こんにちは!
    株式会社T&Aフィナンシャルマネジメント代表の齋藤高広です。

    連載「中小企業のための銀行取引の教科書」の第13回をお届けします。

    前回は、メインバンクの選び方と複数行取引のバランスを取り上げました。
    メインバンクは宣言して決まるものではなく融資シェアと情報提供の実態で決まること、1行依存も横並びの分散も避けるべきこと、そして各行のシェアは決算書の内訳明細や借入金残高推移表を通じてすべての銀行に見えていること。
    そんな内容でした。

    その最後に、「体制を整えるには時間がかかる」とお伝えしました。では、いつ動けばよいのか。

    今回のテーマは「借りるべきタイミング」です。

    この連載では毎回のように「早めに相談を」とお伝えしてきました。
    今回はそれを正面から扱い、なぜ早いほうがよいのか、そしていつ動くのが最適なのかを、銀行側の仕組みから説明します。

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    「お金が足りない」と気づいた時点で、すでに遅い

    まず、時間の話から始めます。

    融資を申し込んでから、実際に資金が入金されるまで、どれくらいかかるとお考えでしょうか。

    第5回でお伝えしたとおり、稟議には時間がかかります。
    支店長決裁で済む案件でも数日から1週間、本部審査に上がれば2〜3週間、信用保証協会が絡めばさらに時間を要します。

    しかし、これは稟議が始まってからの話です。
    実際には、その前後にも時間がかかります。

    • 銀行への相談と、必要資料の確認:数日〜1週間

    • 決算書、試算表、資金繰り表、見積書などの準備:1〜2週間

    • 担当者による資料の読み込みと、稟議書の作成:1週間程度

    • 稟議・決裁:1〜3週間

    • 契約手続きと実行:数日〜1週間

    合計すると、実際には1〜2か月を見ておく必要があります。
    初めて取引する銀行であれば、口座開設や会社の理解から始まるため、さらに数か月かかることも珍しくありません。

    つまり、「来月の支払いが厳しい」と気づいてから動いたのでは、構造的に間に合わないのです。

    そして、ここが重要なのですが、切迫した状態での申込は、それ自体が評価を下げます。
    急いでいることは、資料の準備不足や説明の粗さとして表に出ます。
    担当者から見れば「計画性がない会社」と映り、稟議書もそのように書かざるを得ません。

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    業績が良いときほど、借りやすい

    次に、もう一つの大原則です。

    融資は、必要性が高いときほど受けにくく、必要性が低いときほど受けやすい。

    これは逆説ではなく、銀行の立場からすれば当然の帰結です。

    業績が好調で、利益が出ていて、債務償還年数も短い。
    そういう会社には、銀行は貸したいと考えます。
    金額も出せますし、金利も有利に提示できます。
    第3回でお伝えしたプロパー融資への階段も、このタイミングでこそ上れます。

    一方、業績が悪化してから申し込むと、同じ会社であっても話はまったく変わります。
    格付けが下がっていれば、金額は絞られ、金利は上がり、担保や保証を求められるかもしれません。

    「銀行は晴れの日に傘を貸し、雨の日に取り上げる」と言われることがあります。
    経営者の立場からすれば、理不尽に感じる言葉かもしれません。

    しかし、これは銀行の冷淡さの問題ではなく、仕組みの問題です。
    銀行は預金者から預かったお金を貸しており、貸倒れを避ける責任を負っています。
    返済が危ぶまれる状況で貸し込むことは、その責任に反します。
    第5回でお伝えしたとおり、担当者が応援したくても、稟議が通らなければどうにもなりません。

    ですから、この性質を嘆くのではなく、前提として織り込んで動くことが大切です。

    晴れているうちに、傘を借りておく。
    これが鉄則です。

    「必要ないのに借りる」という発想

    ここから、今回いちばんお伝えしたい話に入ります。

    多くの経営者は、「必要な額を、必要なときに借りる」とお考えだと思います。
    無駄な利息は払いたくない。借入は少ないほうがよい。ごく自然な感覚です。

    しかし、銀行取引の観点からは、別の発想をおすすめします。

    借りられるときに、借りておく。

    手元資金は、経営の安全装置

    手元に現預金があるということは、時間を買っているということです。

    売上が急減しても、大口の取引先が倒れても、設備が壊れても、手元に資金があれば、考える時間が確保できます。
    逆に手元が薄ければ、冷静な判断をする前に資金が尽きてしまいます。

    コロナ禍を思い出してみてください。
    あのとき生き延びた会社の多くは、平時に手元資金を厚くしていた会社でした。

    債務償還年数の観点からも、不利にならない

    ここで、第8回の内容を思い出してください。

    債務償還年数は、(借入金 − 現預金)÷(営業利益 + 減価償却費)で計算します。

    分子は「借入金 − 現預金」です。
    つまり、借りた資金を使わずに手元に置いておけば、分子はほとんど増えません。

    3,000万円を借りて、それが現預金として手元にあるなら、借入金も現預金も同額増えるため、差し引きは変わらない。
    債務償還年数は悪化しないのです。

    第7回でお伝えした「現預金は月商の1〜2か月分を確保する」という目安とも、この発想はつながっています。
    手元資金を厚くすることは、格付け上もマイナスになりません。

    利息は、保険料と考える

    もちろん、借りれば利息はかかります。

    しかし、考えてみてください。
    仮に3,000万円を年利1.5%で借りれば、年間の利息は45万円です。月あたり約3万7,000円。

    この金額で、資金ショートのリスクを大きく下げられると考えれば、決して高くはありません。
    保険料だと捉えてみてはいかがでしょうか。

    ただし、借りすぎは別の問題を生む

    一方で、「借りられるだけ借りる」という意味ではありません。
    ここは明確にしておきます。

    返済原資を超える借入は、将来の自分を縛ります。
    毎月の返済額が利益を圧迫し、資金繰りをかえって苦しくします。
    債務償還年数も、投資などで資金が出ていけば当然伸びます。

    目安は、やはり第8回の債務償還年数です。
    借入を増やしたとき、この数字が10年以内に収まるか。
    この範囲であれば、厚めに持っておいて差し支えありません。

    「借りられるだけ借りる」ではなく、「返せる範囲で、厚めに持つ」。
    これが適切な距離感です。

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    当座貸越とコミットメントラインという選択肢

    「必要ないのに借りる」とお伝えしましたが、実際には「必要になったときに、すぐ借りられる状態にしておく」という方法もあります。

    まずは、約定弁済付きの融資が基本

    前提として確認しておきたいのですが、中小企業の資金調達の基本は、毎月返済していく「約定弁済付き」の融資です。
    証書貸付と呼ばれる形で、期間を決め、毎月決まった額を返していきます。

    なぜこれが基本なのか。銀行が返済実績を確認したいからです。

    第3回でお伝えしたとおり、保証付きからプロパーへ進む階段は、返済実績の積み重ねによって上っていきます。
    毎月きちんと返済している事実が、次の融資の最大の根拠になります。
    返さない借入では、この実績が積み上がりません。

    ですから、まずは約定弁済付きの融資で、しっかりと実績を作ること。
    これが王道です。

    季節性のある資金需要には、枠が有効

    一方で、資金需要には波があります。

    繁忙期の前に仕入が膨らむ。
    年末に支払いが集中する。
    大型案件の入金まで一時的に資金が必要になる。
    こうした短期的・一時的な資金需要に対して、そのつど融資を申し込むのは、時間的にも手間の面でも現実的ではありません。

    そこで有効なのが、当座貸越です。

    当座貸越とは

    あらかじめ銀行と「極度額」を設定しておき、その範囲内であれば、必要なときに必要な額だけ借りられる仕組みです。
    使った分だけ利息がかかり、資金が入ってくれば返済できます。

    いわば、会社版のクレジットカードの枠のようなものです。

    利点は明確です。

    • 必要なときに、すぐ資金を引き出せる

    • 使わなければ、利息はかからない

    • 資金繰りの波に、柔軟に対応できる

    ただし、当座貸越の枠は、誰でも得られるものではありません。
    銀行にとっては、いつ使われるかわからない資金を確保しておく約束になりますから、相応の信用が必要です。

    第3回の階段でいえば、プロパー融資を安定して受けられる段階に進んだ会社が、次に得られるものと考えてください。
    「当座貸越の枠を設定しませんか」と銀行から提案されたなら、それは貴社への評価が高いことの表れです。

    コミットメントラインとの違い

    似た仕組みに「コミットメントライン」があります。
    混同されやすいので、違いを整理しておきます。

    当座貸越は、枠はあるものの、融資を実行するかどうかの最終的な判断は銀行に委ねられています。
    銀行が応じない可能性は、理論上は残ります。
    また、通常は手数料がかかりません。

    コミットメントラインは、手数料を支払うことで、一定期間、その枠内での融資を銀行が約束する契約です。
    契約期間中は、銀行は原則として融資に応じる義務を負います。

    つまり、手数料を払って、確実性を買う仕組みです。

    使わなくても手数料が発生するため、コストはかかります。
    そのため、中堅規模以上の企業で、資金需要の変動が大きい場合や、確実な調達手段を確保しておきたい場合に用いられることが多い手法です。

    いずれにしても、こうした枠は、業績が良いときにしか設定できません。
    困ってから「枠を作ってください」と頼んでも、まず通りません。
    これもまた、平時に動くべきことの一つです。

    散発的な借入は、かえって不信を招く

    ここで、実務上とても重要な点をお伝えします。

    資金が必要になるたびに、そのつど銀行に申し込む。
    一見、合理的に思えるかもしれません。必要な分だけ借りるのですから、無駄がないように見えます。

    しかし、銀行から見ると、これは好ましい姿ではありません。

    年に何度も、ばらばらのタイミングで融資の相談が来る。
    しかも金額も時期も場当たり的。銀行員はこう考えます。

    「この会社は、資金繰りをきちんと計画しているのだろうか」

    第10回でお伝えしたとおり、銀行は資金繰り予定表を見たがります。
    先の見通しが立っている会社は、いつ、いくら必要になるかを事前に把握できているはずです。
    それができていれば、散発的な申込にはなりません。

    さらに、前回お伝えしたとおり、各行の借入残高の動きはすべての銀行に見えています。
    「A社は先月B銀行から借りて、今月はうちに来た」という事実は、筒抜けです。
    これが続くと、資金繰りに追われている会社という印象を与えかねません。

    基本は「年度調達」で考える

    では、どうすればよいか。おすすめするのは、年度調達という考え方です。

    決算後に、1年分をまとめて設計する

    決算が確定したタイミングで、向こう1年間に必要な資金を見積もり、まとめて調達の設計をするという方法です。

    具体的には、こう進めます。

    1. 決算が確定したら、資金繰り予定表で向こう1年の資金の動きを見通す

    2. 年間で必要となる調達額を決める(運転資金、設備投資、既存借入の返済分を考慮)

    3. その総額を、各行の借入シェアに応じて配分する

    4. 決算説明と同時に、各行へ同じ内容を説明し、調達を進める

    前回お伝えしたシェアの考え方が、ここで実務として効いてきます。
    メイン行には多めに、サブ行にはそれに応じた金額を。
    全行に同じ説明をし、同じタイミングで動く。

    年度調達の利点

    この進め方には、いくつも利点があります。

    1.銀行からの評価が変わる
    「この会社は年間の資金計画を立てている」と受け取られます。
    場当たり的な申込との差は歴然です。

    2.各行が納得しやすい
    シェアに応じた配分であれば、各行とも「自行の立場に見合った金額だ」と理解できます。
    説明も簡潔に済みます。

    3.最も良い材料で相談できる
    決算直後は、最新の決算書を持っている時期です。
    前期の実績と今期の計画を一緒に説明できる、年間で最も説得力のあるタイミングです。

    4.手間が減る
    年に一度まとめて動くほうが、そのつど資料を作るより、経営者の負担は軽くなります。

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    季節的な波は、枠で吸収する

    年度調達で基本の資金を確保し、季節的な資金需要は当座貸越の枠で吸収する。
    これが、整理された資金調達の姿です。

    もちろん、期中に想定外の大型案件や設備投資が出てくることはあります。
    それは別途相談すればよい話です。
    大切なのは、基本の設計があったうえでの追加なのか、設計のない場当たりなのか、という違いです。

    借りるべき4つのタイミング

    ここまでを整理し、具体的なタイミングを挙げます。

    1.決算が出た直後

    年間で最良のタイミングです。
    前述の年度調達は、ここで行います。

    決算説明と一体で相談できるため、銀行も動きやすく、担当者も稟議書を書きやすい時期です。

    2.業績が伸びているとき

    売上が拡大しているときは、第4回でお伝えした増加運転資金が必要になります。
    売掛金も在庫も増えるため、成長している会社ほど資金が要るのです。

    これは前向きな資金需要であり、銀行にとって最も説明しやすい案件です。
    遠慮する必要はまったくありません。

    3.設備投資を検討し始めたとき

    購入を決めてからではなく、検討段階で相談してください。

    見積もりを取る前でも構いません。
    「こういう投資を検討しているのですが」と早めに伝えておけば、銀行も準備ができます。
    補助金の活用など、有益な情報を得られることもあります。

    4.何も起きていない平時

    新規行の開拓、当座貸越の枠の設定。これらは平時にしかできません。

    今すぐ必要でなくても、将来に備えて選択肢を広げておく。
    前回お伝えした複数行体制の構築も、このタイミングで進めるものです。

    逆に、避けたいタイミング

    • 決算直前の駆け込み:翌期の数字が見えない時期は、銀行も判断しにくくなります

    • 資金繰りが逼迫してから:前述のとおり、時間的に間に合いません

    • 複数行への同時申込:第9回でお伝えしたとおり、切迫感が伝わってしまいます

    年間のスケジュールに組み込む

    最後に、運用の提案です。

    資金調達を「必要になってから考えること」ではなく、「カレンダーで動くこと」に変えてください。

    たとえば、3月決算の会社であれば、こんなイメージです。

    • 5〜6月:決算確定。資金繰り予定表を更新し、年度調達の設計。全行へ決算説明と調達の相談

    • 8月:第1四半期の試算表を提出

    • 11月:中間期の試算表を提出。計画との乖離があれば説明

    • 2月:第3四半期の試算表を提出。着地見込みと、翌期の方向性を共有

    • 随時:設備投資の検討が始まったら、その時点で相談

    このサイクルが回っていれば、資金が必要になるタイミングは、常に数か月前に見えています。
    慌てて駆け込む必要がなくなります。

    そして、このサイクル自体が、第10回・第11回でお伝えした「情報提供」の実践でもあります。
    調達と報告は、同じ流れの中にあるのです。

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    まとめ

    融資は、申込から実行まで1〜2か月かかります。
    そして、業績が良いときほど借りやすく、悪化してからでは条件が変わります。

    ですから、借りられるときに、返せる範囲で厚めに借りておく。
    手元資金を厚く持っても、債務償還年数は悪化しません。

    調達の基本は、決算後の年度調達です。
    1年分の必要額を見積もり、各行のシェアに応じて配分し、同じ説明を全行に行う。
    季節的な波は、当座貸越の枠で吸収する。
    そのつど場当たりに申し込むことは、かえって銀行の不信を招きます。

    まずは、自社の資金繰り予定表を開いて、向こう1年で資金が最も細る月はいつかを確認してみてください。
    そこから3か月前が、動くべきタイミングです。

    次回は「金利・条件交渉は可能か、どう進めるか」をお届けします。
    余裕を持って相談できるということは、条件を交渉できるということでもあります。
    金利は交渉できるのか、できるとすれば何を材料にするのか。
    踏み込んでお話しします。ぜひ続けてお読みください。

    お問い合わせ・ご相談について

    「銀行との交渉にいつも不安がある」「自社の財務戦略や資金繰りの体制をプロの視点で見直したい」とお考えの経営者様へ。

    弊社、株式会社T&Aフィナンシャルマネジメントでは、貴社の財務部門を強化し、銀行取引の最適化からキャッシュフロー管理、資本政策までを総合的に手厚くサポートする「社外CFO」サービスを提供しております。

    単なる顧問にとどまらず、銀行員が「稟議書を書きやすい」状態を貴社の中に構築し、円滑な資金調達と持続的な成長を伴走支援いたします。
    今回お伝えした年度調達の設計、各行へのシェア配分、そして年間スケジュールの運用は、私たちが最も力を入れている支援の一つです。

    また、貴社の銀行取引の現状を銀行の目線で点検する「銀行取引ドック」と、銀行取引の基本から実践までを体系的に学べる「オンライン勉強会」も始めました。
    今の手元資金は十分か。調達余力はどれだけ残っているか。当座貸越の枠は設定できる段階にあるか。
    こうした点を具体的な数字で明らかにするのが、銀行取引ドックの役割です。

    私たちは、中堅・中小企業の経営者様のいちばん近くで、同じ目線に立って考えるパートナーでありたいと考えています。
    「こんなことを聞いてもいいのだろうか」という小さな疑問で構いません。
    資金繰りや銀行取引、財務戦略に関するご相談がございましたら、いつでもお気軽にお問い合わせください。
    ご連絡を心よりお待ちしております。

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    社長の「右腕」になる社外CFO。メガバンク出身。プライム上場企業執行役員経験。中堅中小企業には銀行との付き合い方を、ベンチャー企業には資金調達と成長の財務戦略を。銀行・コンサル・上場企業の現場で見てきた「お金の勝ち筋」をnoteで発信中。

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