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【倏目挱石④】『倢十倜』第䞀倜の癟幎は、ひず晩だった─女はなぜ死に、癟合ず暁の星は䜕を告げたのか

    ※この蚘事はアフィリ゚むトリンクを含みたす

    授業で『倢十倜』の第䞀倜を読んで、モダモダしたたた終わった人も倚いず思いたす。

    女はなんで死んだの 癟合っお結局なに 癟幎っお、本圓に癟幎埅ったの

    どれも、もっずもな疑問です。なにしろ物語は、こんなお願いから始たるのですから。

    「癟幎埅っおいお䞋さい」

    死にかけた女の人に、そう頌たれたらどうしたすか。私なら、たず聞き返すず思いたす。癟幎っお、あの癟幎ですか、ず。

    ずころが、男は匕き受けたす。そしお最埌に、こう気づきたす。

    「癟幎はもう来おいたんだな」

    この癟幎。じ぀は、ひず晩だったのかもしれたせん。

    先に、䞉぀の疑問に぀いお

    『倢十倜』は、倏目挱石が1908幎明治41幎の倏に朝日新聞に連茉した、十の倢の話です。
    有名な曞き出し「こんな倢を芋た。」は党郚の倜にあるず思われがちですが、これで始たるのは第䞀・第二・第䞉・第五倜の四぀だけです。

    第䞀倜の䞉぀の疑問には、よく知られた答えがありたす。

    女がなぜ死ぬのかは、本文にひず蚀も曞かれおいたせん。
    最埌に咲く癟合は、女の生たれ倉わりず読むのが䞀般的です。
    暁の星は、倜明け、぀たり埅぀時間が終わった合図だず説明されたす。

    ただ、私にはもうひず぀気になるこずがありたす。物語の途䞭では、䜕床も日がのがっおは沈みたす。ずころが、お墓を䜜る堎面では月の光が、結末では暁の星が印象的に描かれおいたす。この違いが、癟幎ずいう時間の正䜓を考える手がかりになりそうです。

    月ず星に気を぀けながら、順番に芋おいきたしょう。

    女はなぜ死ぬのか──答えは「倢だから」

    枕元に座っおいるず、女が静かな声で蚀いたす。

    「もう死にたす」

    ずころが、顔色がいい。頬には血の色がさし、唇も赀い。
    健康蚺断なら、たぶん「異垞なし」です。

    それでも、女の瞳に映っおいた「自分」の姿は、がうっず厩れおいきたす。女の目がぱちりず閉じ、長いた぀げのあいだから涙がこがれる。もう死んでいたした。

    病気なのか、寿呜なのか。死ぬこずで玄束が氞遠になる、生たれ倉わるためにいったん死ぬ、ずいった読み方もありたす。

    でも私は、死因にそれ以䞊の説明を求めなくおもいいず思っおいたす。理由はひず぀。倢だから、です。

    倢の䞭では、理由より先に「そうなる」こずが決たっおいたす。空を飛んでも、昔の同玚生がなぜか担任の先生になっおいおも、倢の䞭の自分は少しも疑いたせん。死にそうにない人が「死にたす」ず蚀えば、死ぬ。それが倢のルヌルです。

    そしお、女が死ななければ、癟幎の埅ちは始たりたせん。この話の䞻圹は、死ではなく「埅぀こず」なのです。

    真珠貝ず、星のかけら

    女は死ぬ前に、お墓の䜜り方たで现かく泚文しおいきたす。

    死んだら、埋めお䞋さい。倧きな真珠貝で穎を掘っお。そうしお倩から萜ちお来る星の砎片かけを墓暙はかじるしに眮いお䞋さい。そうしお墓の傍に埅っおいお䞋さい。たた逢いに来たすから

    真珠貝のスコップに、萜ちおきた星。どちらも、ホヌムセンタヌには売っおいたせん。それでも男は、ちゃんず党郚そろえたす。倢ですから。

    ちなみに、挱石の『草枕』にも、身を投げお浮いおいる自分の姿を「奇麗な画にかいお䞋さい」ず頌む女性が出おきたす。『倢十倜』の二幎前に曞かれた䜜品です。この二人、死に際たで泚文が倚いのです。

    数えるほど、癟幎は遠くなる

    女は癟幎を、日の出ず日の入りで語っおいたした。日がのがっお、沈んで、たたのがっお、沈む。そのくり返しのあいだ、埅っおいられたすか、ず。

    男は苔の䞊に座り、その日を数えはじめたす。赀い日がのがっお、沈む。䞀぀。たたのがっお、沈む。二぀。けれど、いくら数えおも癟幎にはなりたせん。

    数えれば数えるほど、埅぀時間は長くなりたす。

    ちなみに『倢十倜』は新聞の連茉でした。圓時の読者は、䞀倜ず぀届く次の倢を、男ず同じように埅っおいたこずになりたす。

    そしお、぀いに男は疑いはじめたす。

    自分は女に欺だたされたのではなかろうかず思い出した。

    無理もありたせん。癟幎ですから。

    癟合ず、暁の星

    その盎埌です。石の䞋から青い茎がのびおきお、぀がみがひらきたす。

    真癜な癟合が錻の先で骚に培こたえるほど匂った。

    男は、露のしたたる癜い花びらに口づけをしたす。顔を離しお、ふず遠い空を芋るず、

    暁の星がたった䞀぀瞬いおいた。

    女は玄束どおり、花になっお逢いに来たのです。

    私が泚目したいのは、女の墓暙が「倩から萜ちお来る星の砎片」だったこずです。地䞊には、萜ちおきた星のかけら。空には、ただ萜ちずに光っおいる星が䞀぀。墓の䞊の星ず、空の星が、癟合をはさんで向かい合っおいる。䞀枚の絵のような堎面です。

    疑った、そのあずに

    男は、癟幎が来る瞬間を芋おいたせん。気づいたずきには、もう来おいた。「来た」ではなく「来おいた」です。

    では、なぜ男は癟合に䌚えたのか。日を埋儀に数えたからではありたせん。

    疑いながらも、座り぀づけたからです。

    ずころが、この結末。読み方が正反察に割れたす。
    玄束が果たされた「ハッピヌ゚ンド」ず読む人がいる䞀方で、癟幎に気づいた男自身が、そのずきもう死んでいるのだ、ず読む人もいたす。
    ハッピヌ゚ンドが、䞀行でホラヌに倉わりたす。

    私は、ハッピヌ゚ンドで読みたい掟です。癟合の茎は、わざわざ男のほうぞ向かっおのびおきたした。男はその花に口づけをし、匂いは「骚に培える」ほどだった。死んだ人どうしの再䌚にしおは、あたりにも生々しいのです。

    癟幎は、ひず晩の倢だった

    さお、最初に曞いた月ず星の話です。

    たず、本文に曞かれおいるこずを確かめたす。男が真珠貝で穎を掘ったずき、貝の裏には月の光が差しおいたした。お墓を䜜り終えるず、すぐに日がのがりたす。そこから癟幎のあいだ、描かれるのは、のがっおは沈む赀い「日」ばかり。月も星も、䞀床も出おきたせん。そしお最埌の最埌に、男は暁の星を芋たす。

    始たりに月の光、終わりに暁の星。そのあいだに、日ばかりの癟幎がはさたっおいる。ここたでは、本文のずおりです。

    ここからは、私の読みです。

    タむトルは『倢十倜』。第䞀倜は、ある倜に芋た倢です。倢の䞭では、たしかに癟幎が過ぎたのでしょう。男は日を数え、疑い、それでも座り぀づけたした。その癟幎は本物です。

    でも、その倢を芋おいた人の時間はどうでしょう。

    月の光で始たった倢が、暁の星ずずもに終わる。倜が明ければ、倢は芚めたす。倢を芋おいた人にずっお、癟幎はたったひず晩の出来事だった。癟幎を埅った男の時間ず、ひず晩の倢を芋た人の時間。この二぀が、第䞀倜には重なっおいるのではないでしょうか。

    長い倢を芋たず思っお時蚈を芋たら、五分しかたっおいなかった。そんな経隓がある人も倚いず思いたす。

    そう読むず、結末も少し違っお芋えたす。癟合に口づけをした、いちばん幞せな瞬間に、倜が明けおしたう。そしお倢から芚める。そんな終わり方だったのかもしれたせん。うれしくお、少しさびしい。いかにも倢らしい結末です。

    「癟幎はもう来おいたんだな」は、倢から芚める盎前の蚀葉だった。そう思っお読み返すず、第䞀倜はたったく違っお芋えおきたす。


    『文鳥・倢十倜』倏目挱石新朮文庫

    『倢十倜』の党十話に加えお、挱石が飌った文鳥の日々を曞いた「文鳥」なども入っおいたす。

    䞀話が数ペヌゞなので、寝る前に䞀倜ず぀読むのがおすすめです。明治の新聞読者のように、䞀日䞀倜ず぀埅ちながら読むのも楜しいず思いたす。ただし、こわい倜もあるので、第䞉倜あたりは昌間に。

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