
その人に、何が起きたら「成功」なのか。——医療職が企画を考えるとき、最初に決めたいこと
最近、病院と地域をつなぐ新しい取り組みについて、話し合う機会がありました。
誰を対象にするのか。
どんな内容にするのか。
講習会にするのか、説明会にするのか。
どのような支援やサービスを紹介するのか。
誰が担当するのか。
どれも決めなければならないことです。
でも、話し合うほどアイデアが増え、企画の輪郭が見えにくくなっていきました。
そのとき、立ち止まって考えたことがあります。
この企画は、何をもって「成功」とするのだろう。
参加者が集まることなのか。
情報を伝えることなのか。
相談につながることなのか。
次の支援先が決まることなのか。
企画を考えるとき、最初に決めるべきなのは「何をやるか」ではありません。
この企画によって、誰に、どんな変化が起きてほしいのか。
そこから考えなければ、企画は簡単に迷子になります。
アイデアが増えるほど、目的が見えなくなる
会議では、具体的な案が出ると話が進んだように感じます。
セミナーを開こう。
資料を配ろう。
専門職から説明しよう。
相談できる時間をつくろう。
アンケートを取ろう。
どれも間違いではありません。
ただ、「やること」が増えるほど、企画の中心が見えにくくなることがあります。
セミナーを開催することが目的なのか。
参加者を集めることが目的なのか。
サービスを知ってもらうことが目的なのか。
実際の相談や支援につなげることが目的なのか。
目的が曖昧なまま内容を決めると、終了後に残るのは「無事に開催できた」という事実だけになりがちです。
僕自身、企画を動かすことに意識が向きすぎると、この順番を間違えます。
日程を決める。
関係者へ声をかける。
会場を押さえる。
資料をつくる。
やることは次々に出てくるので、動いている感覚はあります。
でも、ふと立ち止まると、
「これによって、誰がどう変わるのだろう」
と説明できない。
そんな状態になることがあります。
主語を「企画」から「一人の人」に戻す
今回の話し合いで大切だと感じたのは、対象者を人数や属性だけで捉えないことでした。
高齢者。
退院を控えた人。
地域での生活に不安がある人。
次の支援先を探している人。
こうした表現だけでは、まだ少し広すぎます。
例えば、一人の人を思い浮かべてみる。
退院後も運動を続けたいけれど、どこへ行けばよいか分からない人。
介護保険の対象ではないため、使える支援がないと思っている人。
働くことや社会参加を諦めかけているけれど、本当はもう一度挑戦したい人。
その人が企画へ参加したあと、何が変わっていたらよいのか。
知らなかった選択肢を知る。
自分にも使える支援があると分かる。
専門職へ相談できる。
次に行く場所が具体的に決まる。
少しだけ先の生活を想像できる。
ここまで考えると、必要な内容も少しずつ見えてきます。
企画の主語を、
「私たちが何をするか」から、
「一人の人に何が起きるか」へ戻す。
それだけで、会議の見え方は大きく変わります。
KPIは、つくりたい変化を確認するためにある
企画を考えると、「KPIをどうするか」という話も出てきます。
参加者数。
満足度。
相談件数。
紹介件数。
次の支援につながった人数。
数字で確認することは大切です。
ただ、数字だけを先に置くと、本来つくりたかった変化とずれることがあります。
参加者が30人集まっても、次の行動につながった人が誰もいなければ、その企画は成功だったのか。
一方で、参加者が少なくても、一人が必要な支援につながり、生活の選択肢を取り戻せたなら、その価値をどう捉えるのか。
数字を軽視したいわけではありません。
むしろ、「誰に、どんな変化が起きてほしいのか」が決まって初めて、確認すべき数字も決まるのだと思います。
知ってもらう企画なら、認知の変化を見る。
相談してもらう企画なら、相談件数を見る。
次の支援へつなぐ企画なら、その後の行動を見る。
KPIは、企画を評価するために後から付ける数字ではなく、つくりたい変化を関係者で共有し、確認できる形にしたものなのだと思います。
「何をするか」は、そのあとでいい
企画の話し合いでは、具体的な内容を早く決めたくなります。
形が見えたほうが安心しますし、準備にも取りかかれます。
でも、少し遠回りに見えても、最初に確認したいことがあります。
誰のための企画なのか。
その人は今、何に困っているのか。
企画のあと、何が変わっていてほしいのか。
その変化を、何によって確認するのか。
ここまで決まってから、ようやく「何をやるか」を考える。
講習会がよいのか。
個別相談が必要なのか。
資料を渡すだけでよいのか。
別の支援者につなぐ必要があるのか。
場合によっては、最初に考えていたイベントそのものが必要ないと分かるかもしれません。
それも、企画が失敗したのではなく、目的に近づいた結果だと思います。
以前、人に何かを伝えるときも、最初に決めるのは内容ではないと書きました。
地域連携について考えるときも、つながること自体を目的にしないよう意識しています。
講義でも、地域連携でも、新しい企画でも、共通しているのは、手段から考え始めないことなのかもしれません。
大きな言葉の先にいる、一人を見る
社会参加。
地域共生。
健康づくり。
医療と地域の連携。
どれも大切な言葉です。
ただ、大きな言葉だけでは、実際の行動を決められません。
その言葉の先にいる一人を思い浮かべる。
その人が今どこで困っていて、企画を通じて次にどこへ進めたらよいのかを考える。
そこから逆算して、必要な人、場、情報、役割を組み立てていく。
僕自身、いつもこの順番で考えられているわけではありません。
会議の途中で目的を見失うこともあります。
アイデアを出すことに夢中になることもあります。
実施すること自体が目標になりかけることもあります。
だからこそ、企画が迷子になったときには、この問いに戻りたいと思います。
この企画によって、誰に、どんな変化が起きてほしいのか。
「何をやるか」を決めるのは、そのあとでいいのだと思います。
病院の外で専門性をどう活かすか、自分の経験や違和感から整理したい方に向けて、7つの問いと書き込み用ワークをまとめています。