
重力喫茶|一回限定【ショートショート】
窓際の特等席には、今日も二人の老紳士が座っていた。
「見たまえ、アイザック!」
ガリレオは大小二つの角砂糖をつまみ上げ、同時にティーカップへ落とした。
ぽちゃん!
「ほら! 重さが違っても同時に落ちる!」
「ガリレオさん、空気抵抗を無視すれば当然でしょう」
ニュートンは林檎のタルトをつつきながら、ナプキンに数式を書き始めた。
「万有引力とは、質量の積に比例し、距離の二乗に反比例して……」
「君は何でも数式にしたがる!」
「あなたは何でも落としたがる!」
見かねたマスターが近づいてきた。
「お二人とも、実験はピサの斜塔か林檎の木の下でお願いします」
二人は揃って鼻を鳴らした。ニュートンが得意げに言い放つ。
「そもそも、なぜ物が落ちるのか、あなたには説明できんでしょう!」
するとマスターは、カウンターの下から小さな実験装置を取り出した。

「マスター! 唐突になんだ、その装置は!」
「ちょっとした趣味です。お気になさらずに……」
「スルー出来んわ!」
マスターは涼しい顔で、木枠にピンと張られた布の中央へ重い球を置いた。布がぐっと沈み込む。続いて、小さなビー玉を転がした。ビー玉は重い球の周りをくるりと回った。
「ほら、布がへこむと、ビー玉の進む道も変わるでしょう?」
ガリレオは目を丸くした。
ニュートンは腕を組んだ。
「それがどうしたというのだ?」
「空間も、これと似たように曲がるんですよ」
「……君は空間まで曲げるつもりか!」
「あなたがたは、落としたり、数式にしたりしたがるじゃないですか」
「なんだと!」
「失礼しました」
マスターは涼しい顔で実験装置を片づけた。
「さて、お二人とも。そろそろ閉店のお時間です」
「何っ! まだ議論の途中だぞ!」
「続きはまた明日にしましょう」
「まったく、君は時間まで勝手に決めるのか!」
「いえいえ。時間は相対的なものですから」
「また訳のわからんことを!」
二人の老紳士は、ぶつぶつ言いながら席を立った。マスターは、店先に置かれた大きなメニュー看板を抱え、店内へ運び入れた。



スンスンさんの企画に参加させていただきます。
meinaさんの投稿を拝見してこちらの企画を知りました!
meinaさん、ありがとうございます✨