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狂骚玅籠 明治幻想奇譚 第九話 昔話の䞭身党30000字

    話目ず目次

    第九話 昔話の䞭身

    「さお、旅行です」
    「旅行 どこにいくんだ」
    「髑髏がいる堎所に。哲䜐君の暪たわるべき棺桶に。きちんず愛し合っお䞋さいね」
     鷹䞀郎は誂うようにくふふず笑う。
    「冗談じゃねぇ。それで、あれは䜕なんだ」
    「笊ふ州刀の嚘、麗卿れいきょう。元代のお化けです」
     そんな蚀葉ずずもにレグゲヌト商䌚の䌝手で汜船に乗り蟌んだそばから、カタリカタリずいう振動に俺の意識は混濁しかける。鷹䞀郎の囁くような蚀葉に朊朧ずした頭を䞊げればず、屋代から借り受けた䞀冊の綎じ本を眺めながら楜しそうな錻歌が挏れおいた。眠さず苛぀きで悪態を぀く。
    「盞倉わらず嬉しそうだな。俺が死にかけおるっおのによ」
    「䜕を仰るのです。哲䜐君の髑髏を払うための旅ですよ。それにこれが私の目的ですから。これほど遠くたでお迎えに䞊がるのはい぀ぶりでしょうねぇ。焊がれるずはこういう思いでしょうか」
     鷹䞀郎はどこ吹く颚だ。
    「浮気じゃねぇのかよ」
     鷹䞀郎にも幌い頃に心に決めた盞手がいるらしい。
    「䜕をいうのです。哲䜐君ならわかっお頂けるず思っおいたしたのに」
     そう蚀っお、鷹䞀郎はにやにやず笑いながら窓の倖を指差し、そしお再び手元の線み物を再開した。鉄板の䞊で焊がされるような気持ちは十分に味わっおいるずも。窓ににや぀く鷹䞀郎が反射しお芋える。よほどはしゃいでいるのか、俺に察しおたで先皋から倖行きの話し方をする。
     気力ず䜓力の限界だ。髑髏の姿はいよいよ明らかで、目を閉じなくおも存圚を近くに感じるほどだ。そしおそれは気の所為だけではないらしい。そしおそれから䌝わる感情は、焊げ付くように俺を求めおいる。
     だめだ、もう意識が保たない。
     トトトトず振動する汜船の背もたれはやけに柔らかく、深く倒れ蟌みながら鷹䞀郎の話に耳を傟ける。船窓から垣間芋れる海の䞊に浮かぶあの髑髏の矜織の端が、ゆらゆらず芖界にチラ぀く。その目玉のない芖線は既に俺を正面から捉え、鷹䞀郎が僅かに俺の魂をその結界で守っおいるず蚀う惚状だ。だんだん䞖界が暗くなる。
     チリンず目の前で鳎らされた涌し気な鈎の音で、はたず正気に匕き戻される。芖界には揺れる鈎。その腕の先のシャツの向こうは鷹䞀郎の顔。よく芋れば涌しげな目元に少しの隈ができおいた。
     ここ䜕日か、鷹䞀郎も屋代に借りた剪灯新話ず様々な資料を芋比べながら、倜を培しおいた。
     「しっかりしおくださいよ。近づけば近づくほどに麗卿の力は匷くなる」
    「そうはいっおもお前の泚文は難しすぎる」
    「い぀も通りじゃぁありたせんか。だたっお食べられおおしたいなさい。い぀も通りキワで守っお差し䞊げたすから」
    「キワすぎるんだよ」

     鷹䞀郎は剪灯新話をさらりず読んで麗卿を祓う蚈画を立お、俺にアレコレ指瀺をした。
     䞀぀、麗卿に決しお抵抗しないこず。
     䞀぀、麗卿を吊定しないこず。
     䞀぀、こちらからは麗卿に呌びかけおも反応しおもいけない。
     そんなこずいったっおなぁ無茶苊茶だ。腐臭挂う骚に䜓を撫で回させるのはなかなか忍耐がいるんだぞ
     結局の所、俺は確かに鷹䞀郎に守られおいる。その匏神が薄皮䞀枚、麗卿ずやらから俺を守るおかげで䌊巊衛門のように生気を奪われたりはしおいない。けれども毎倜毎倜髑髏に絡み぀かれお䜓は疲劎困憊、粟神は疲れ果お、この䜕日かは䞀睡もせず、垞に寝おいるも等しい状況だ。
     なんずか意識を保ずうず鷹䞀郎が広げる綎じ本に目を移すず、そこにはひたすら挢字が䞊んでいた。眠い。
     その芖線に気づいた鷹䞀郎が淡々ず解説を始める。
    「剪灯録は明の瞿䜑くゆうが遞集したもので、これがその匐巻。ここに牡䞹灯籠のもずずなる牡䞹燈蚘がたんずうきが掲茉されおいたす」
    「うん」
    「圓朝の怪談は仇蚎ちの因果物語ですが、原点は䞍条理な怪奇」
     確かに䞍条理で怪奇だな。
     それにしおも、だ。なるべく盎芖しないようにチロリず窓の端っこを芋れば、芋慣れぬ袖がふわふわず浮かんでいる。思わずため息を぀く。その髑髏に察する感情は、少しばかり倉化しおいた。

     あの噎氎のそばで、俺はうっかり髑髏ず目が合ったのだ。なるべく合わぬようにず蚀われたが、ベンチに寝かされ真䞊を向けば、目を合わさぬなどできぬだろう。だっおその圱以倖は陜陜ず陜の光に照らされおいるのだから。あの時あの髑髏は、たるでその日射から守るようには俺の目の前に浮かび䞊がったのだ。
     その瞬間、俺は死を芚悟した。髑髏に取り憑かれ、衰匱しおいた。だから髑髏は俺を殺そうずしおいるず思っおいた。けれどもその芖線からはなぜだか憎しみや殺意ずいったものが芋えなかったのだ。
     ずはいえそれは、ほんの䞀瞬のこずだ。
    「哲䜐君、別に殺したいから死ぬわけではありたせん」
    「どういうこずだ」
    「䟋えば哲䜐君は海の䞭では生きられたせん。呌吞できたせんからね。生者ず死者は䜏む䞖界が異なるのです。人は普通であれば、生きたたた死者の囜に行くこずはできたせんから」
     あの時、䞘の䞊の居留区から眺めた神接湟は綺矅綺矅ず茝いお芋えたが、確かにその䞋では生きられない。そうしおふず隣を芋れば窓の倖にはやはり海が広がっおいる。そしお髑髏が昌の光を泳いでいた。これたで色々怪奇な珟象に巻き蟌たれおきたが、こんな違和感を芚える光景もない。なんだか銬鹿になったみたいだ。
    「そしお哲䜐君や䌊巊衛門氏が陥ったのはさらなる䞍条理」
    「なんだそれは」
    「党くいい目をみおないでしょう 剪灯新話では喬生きょうせいずいう劻を倱ったばかりの男が麗しき麗卿に匕っかかっお懇ろになっお痩せこけたずころを隣人が髑髏ず芋砎る」
    「ふん。どうせなら俺もその前段階が欲しかったぜ」
    「前段階がない理由もなんずなくわかりたす。䞭囜にいたころは新鮮だったんですよ」
     ほら、ず鷹䞀郎は本を指で指し瀺す。黄ばんだ玙に滲む墚。目がしょがくれる。

    女の死䜓ず暪たわり與女之屍俯仰臥斌內
    女は生きおいるようにみえた女貌劂生焉

    「なんだそれは」
    「剪灯新話で最埌に発芋された喬生ず麗卿の姿です」
    「生きおるようなのがなんで骚になっおるんだよ」
    「さすがは哲䜐君ですよね。最初から寒いずころにいるようだずずっず蚀っおいたでしょう」
    「死䜓は凍っおでもいたのかよ」
     みゃぁずいうカモメの鳎き声が聞こえ停泊のためか船の速床がガタリず萜ち、その反動で䜓が斜めに厩れ萜ちかける。䞍本意にも鷹䞀郎に支えられ、哲䜐君は駄目人間ですねぇず呟かれる。䞍本意だがなんだかもうフラフラしっぱなしだが、䞋船しお土の地面を螏みしめるずずもに鷹䞀郎の声は真剣味を垯びる。
    「流石に堎所から考えれば凍ったはないでしょうね」
    「堎所」
    「この話の舞台は浙江省せっこうしょう寧波ねいはの月湖げっこです。比范的枩暖な気候で冬は肌寒くはなりたすが雪が降るこずはあたりない。そうですね。神接より少しだけ枩かいくらいでしょうか。麗卿は歳で亡くなった埌、そこに十二幎も攟眮されおいたそうです。倏も来たすし普通に考えれば腐りたす」
    「十二幎か。それはなんだか  䞍憫だな」

     ずっず考えおいたこずだ。髑髏は鷹䞀郎が祓っおも祓っおも戻っおくる。その執念たるや凄たじい。だから  この深い泥に匕きずり蟌たれるかのような重だるさをもたらしおいるのがあの髑髏、麗卿だずしおも、その䞀途さに䜕やら少し、䞍憫になっおくるのだ。ひょっずするず、䌊巊衛門を远いかけるのにそれほどの理由があったのかもしれないのだず。
     なんだかもう、あの麗卿は日がな䞀日ずっず俺に぀いおくるし、俺もずっず麗卿の事を考えおいる。なんだか長幎連れ添っおいるような気すらしおくる。それもおそらくあのぜっかりず空いた県窩を芋おしたったせいなのだろうが。
    「ううん だが麗卿は骚の姿を芋砎られたんじゃなかったか」
    「この話、ちょっず倉なんですよ」
    「倉」
    「喬生が棺に匕きずり蟌たれた埌があるんです」
    「埌」
    「そう。喬生ず麗卿ず、あず金蓮きんれんずいう藁人圢の童子が出おくるのですが、それが近所に灜いを振りたくんです。それで魏法垫ぎほうしずいう道士が珟れお人を捕たえ調䌏しお地獄に萜ずすんです」
    「なんだ、そりゃ。たるでお前みおぇだな」
    「倱敬な。けれどもそれたでの話ず突然流れが倉わるんですよ」

    次話

    #劖怪 #陰陜垫 #明治時代 #生莄 #あやかし #ホラヌ小説 #牡䞹灯籠



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