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都市伝説と不確かな歌、そしてマシュマロの海 第4話 おかしな動画と、動画の始まり(現ファ全11話24000字)

    一話目のリンク。

    第4話 おかしな動画と、動画の始まり

     サスリクヴァは良くも悪くも呪いを生み出すような動画を配信する、いわゆる界隈の有名配信者だ。
     所謂オカルトだとか心霊の界隈でも様々な人間関係が存在する。いろいろなしがらみと相克、というよりは単に環が若者だから詳しいだろうという思考を放棄した理由で、この神津に起きるネット界隈での複雑で新しい呪術の対処は環に丸投げされていた。そんな簡単なものじゃないと反論しようと思えばできるものの、さりとてやはり、結果的に対処できるのは自分くらいなのだろうなといつも不満に思っていたところで、そんなわけで環にとってサスリクヴァは問題児筆頭のうちの一人だった。
    「こっちは俺にも見えるんだよ」
    「じゃあ本当にサスリクヴァなんだ」
     環は鞄から細いリップを取り出し智樹に渡す。智樹はそれを慣れた手つきで目と、それから鼻耳、口回り、つまり囲むように開口部に円を描く。環が曰く付きの香木をベースに様々な呪物を練って作った透明のもので、その成分が揮発きはつする間、呪術の侵入を短期間に防ぐ。
     環は効果を確認し、動画をスタートさせた。

    『やぁ、皆さんこんばんは! 今日は『ひとりかくれんぼ』の活用方法をご紹介しましょう!』
     真っ暗な画面にサスリクヴァの不似合いに朗らかな声が響く。
    「活用方法?」
    「これまた実に愉快犯的な話でな」
     環はため息をつきながらも動画の下部の紹介文を開く。そこには一般とはやや異なる、ひとりかくれんぼの方法が記載されていた。
    『ちゃんと説明文は呼んでくれたかな? 必要なのはLINE電話とお友達と熱意、それからあなたの神津之介とお風呂とお塩、まあ一般的な用意だね。忘れずきちんとLINE通話をオンにしておくこと。でもみんなは絶対喋らないでね、それがひとりかくれんぼの決まりだから。じゃあみんな、よろしくね』
    「神津の介限定なんだ」
    「ああ、それが巧妙なところだ」
     智樹は巧妙という言葉の意味がわからないまま、動画の続きを注視する。
     悪戯っぽい声が響き終わった後、サスリクヴァのカメラはベリノイズ(カラーブロック)が散らばるテレビの前に移動し、その画面の四角だけがズームアップする。奈美子は無駄に真面目だから旧式のアナログテレビを用意したが、最近のデジタル放送では砂嵐など生じない。

    『あとはパワーが貯まるまで待ちまぁす』
     環が三十分ほど動画を飛ばすと、ベリノイズが突然すとんと平板になり、ざらざらとした砂嵐が画面に浮かび上がる。本来ベリノイズが浮かぶモニタには、浮かぶはずのない砂嵐だ。
    『お。集まり始めたね』
     その楽しそうな声からしばらくして、水面に顔をつけるように画面から滲み落ちたものがある。神津之介のぬいぐるみだ。ムクリと起き上がればナイフを持っていて、それがモニタを背にのそりと手前の画面に向かってくる。
    『ちゃんとみんなの神津之介がここに集まってきたよ!』
     不意に影のように黒い手がにょきりとモニタの明かりを遮り、神津の介の背をつまむ。ナイフを持っているとはいえ、せいぜい十センチほどのぬいぐるみだ。持ち上げられると成す術はなく、足をバタつかせた。
    「環、なにこれ。すごい可愛いんだけど」
    「だろ?」
     環の舌打ちが響く。
     サスリクヴァの手はしばらく神津之介をつついたりぷらぷらと振ったりして遊び、そのうち何かに気づいたように慌てて神津之介をテレビの画面に押しつけた。すると再びどぷりと粘度の高い水につけたようにぐにゃりとモニタが揺らぎ、黒い手に押し込まれるようにして神津之介はその奥に姿を消した。
    『ふう、危ない危ない。あんまり可愛いからさ、危うく時間が過ぎちゃうところだったよ。神津の介はお友達のところに戻る時間がいるからさ。みんなが自分でやる時は夜明け前、今時分は四時半にはみんなのところに返してあげてね、じゃあ、バイバイ』
     クレジットが流れる前に環は動画を消し、大きく息を吐き出した。

    「それで問題は、俺にもこれが神津之介にみえたことだ」
    「えっ? じゃあ」
     智樹は幽霊は見えるが、環は幽霊を見ることはできない。
    「あの神津之介は実体または限りなく実体に近い。だから誰にでも見える。つまりあの動画を見た人間にも同じように見える」
    「そんな、じゃあ本当にあの通りやれば神津之介が現れる、の? ちょっと見たいんだけど」
     智樹は悩むように首を傾げる。
    「だろ? その可能性がある。ただし、ナイフを持っている」
     環がそう呟けば、急に智樹は慌てだす。ナイフを持っている以上、小さくても大きくても怪我をする可能性がある。下手に首でも切られれば、死ぬかもしれない。
    「え? あれ? ちょ、やばいじゃん! なんでそんなことするの!」
    「面白いから、じゃないの?」
    「……ああ、サスリクヴァ、だもんね」
     智樹も環と同じくため息をついた。
     つまりサスリクヴァが神津の介を選んだ理由の一つに『かわいいから』というのがあるのだろう。かわいいから、恐怖が低減する。かわいいから、危険にみえない。かわいいから、やってみたい。
    「そしてあの動画はあのサエコがひとりかくれんぼをやったのと同じ時間にリアルタイムで配信されている」
    「え、ちょっとまって。じゃあミユちゃんのLINE通話から聞こえてた男の人の声って、サスリクヴァだったってこと?」

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