メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

【短線小説時蚈の詩】高台ず花火ず歌ず 4000字

    [HL時間の経過は䞀瞬でも100幎でも代わりはないず思う]

     ここから真っすぐ西に芋える籠屋山かごややたの端に萜ちる遠い倪陜の光は氎平方向に拡散しお、ここからすぐ東に広がる神接こうづ湟の氎面をキラキラず䞍思議な色に染めおいた。䞖界の藍色は静かに浞透しおゆき間も無く蚪れる倜を静かに埅っおいる。けれど今日はい぀もず違っお隒がしく、僅かに陜を反射する波間にいく぀かの小舟が浮いおいる。そしおその手前の海岞沿いには、い぀もよりさらに数倍ずいった人だかりができおいた。
     そうか。今日は花火倧䌚か。
     おそらく私が芋る最埌の花火倧䌚だろう。
     そう思っおいればふず、この高台に登っおくる圱に気が぀いた。そうしお圌は私に接しお蚭眮されたベンチに座る。
     私はおよそ幎ほど前から、カチカチず時を刻む音を鳎らしながらこの海を望む高台に立っおいた。芋䞋ろす神接湟にはかっおは軍需工堎が立ち䞊び、爆撃を受けお野原になっお闇垂が立った。そこから幹線道路が䌞びおいき、地面から土筆が生えるように现々ず倉庫が立ち䞊んだ埌、そうだな、幎ほど前にきれいに敎備された湟岞区域になった。今ではたくさんの人間が蚪れ埀時の賑わいを取り戻しおいる。
     けれど最近、䜕人かの䜜業員が私を調べた結果、私の朚の倖装は朮颚で深く痛み、躯䜓はもう長くは保たないだろうず結論づけた。私が眺める景色もこのようにくるくるず倉わったものだから、私もこの堎所から消え去るのは仕方のないこずだろう。そう少しだけ寂しく思っおいた。
     そういえば私の足元のベンチも随分叀く、私ず䞀緒に幎を取っおきた。そういえば昔は䜕人もの人間がここに座っお海を眺めおいた。私ができた圓初はベンチの前の朚もそれほど倧きくなかったから海の向こうたで芋枡せおいたけれど、今では幌かった朚々も生い茂っお空くらいしか芋えなくなっお、花火もベンチに座れば䞋の方は朚陰に隠れおしたう。少し離れれば花火が海面に反射する光景が䞇華鏡みたいに芋える。だから私の䞋に最近やっお来るのもこの人くらいだったが、人はい぀もこのベンチに座っお朚々の真䞊に䞊がる花火を芋䞊げおいた。
     その様子は毎幎少しづ぀違っおいた。そしお今幎はこずさら、い぀もより違っお芋えた。

     初めお来たのは確か幎前だ。
    「ねぇここ 空いおるよ」
    「空いおるったっおよく芋えないじゃないか」
     人は高台の䞋の人だかりから逃げおきた様子で、長い階段を肩で息をしながら登っお来た。ただ子䟛で、小さい。倧人に埋もれおしたえば䜕も芋えなくなる。疲れた様子の青い济衣を着た男の子の手を赀い济衣を着た女の子が匕っ匵り、私の䞋のベンチに座った。
    「やっぱり芋えない」
     むラむラしながら男の子が叫んだその声ず同時にドンずいう砎裂音が鳎り響き、぀られお芋䞊げた顔は、目がたん䞞くなっおいた。ここからは高台の䞋の方は芋えないけれど、䞊を芋る分には良く芋える。
     そこから分ほど、人はただ、ぜかんず色を倉える空を芋䞊げお、私からは人がずっず手を繋いでいるのが芋䞋ろせた。

     次に来たのはその翌幎だ。
     人は少しだけ倧きくなっおいた。今床は花火が始たる随分前に、かき氷を持っお珟れた。やっぱり女の子が男の子の手を匕っ匵っおいた。
    「ここ、䞋の方は芋えないじゃん」
    「でも花火は党郚芋えるよ」
    「たあそうだけどさ」
     今床も男の子の方がブツクサず䞍平を蚀っおいたけれど、結局人はかき氷を食べながら花火を芋䞊げた。その時䞁床、赀い花火が䞊がっお長く尟を匕き、それが人の瞳に映った。
     それからしばらくは毎幎、人で蚪れた。

     そういえばこんな時もあった。
    「なぁ、もう歌うのやめろよ。なんか恥ずかしいじゃん」
    「ここは誰もいないんだからいいじゃない」
    「っ぀っおもさ」
    「今床文化祭で歌うんだから応揎しおよ」
     楜しそうに歌う圌女を芋ながら、圌が、応揎なんおできるかよ、ず小さく぀ぶやくのが聞こえた。文化祭ずいうものが䜕かはわからないけれど、花火が打ち䞊げられるのに合わせお玡がれる圌女の声は、花火の音に負けずに矎しく響く。圌女は私の前のベンチに腰掛け、時には立ち䞊がっおくるくるず回りながら。
     それたで同じくらいの身長だったのに、そのころから圌女より圌の方が倧きくなっお、手を繋ごうずする圌女の手を圌が匟くようになった。その時圌女は確かに僅かに顔を䌏せ、その背䞭は悲しそうにみえた。

     次の幎、圌はこれたでより少し霞んだ玺色の济衣を着おいた。圌女は茜色に金魚の暡様の济衣を着おいた。
    「なぁ、隣のクラスの男子に告癜されたんだっお」
    「あ、うん、そうだよ。でも断ったし」
    「そっか」
     圌の声に圌女は䞍満そうに眉を顰めた。
    「うちら、぀きあっおんじゃん」
    「それは、たぁ、そうなんだけどさ」
     でも、なんで付き合っおたんだっけ。その呟きは倚分、花火の音に玛れた。その幎の圌女は歌わずにただベンチに座っお空を芋䞊げるのを、花火が矎しく照らしおいたのを芚えおいる。
    「来幎受隓じゃん。そしたらさ、䞀緒に神接こうづ倧に行くんだよね」
    「神接倧か」
    「そう蚀っおたじゃん」
    「そうだな」
     その幎くらいから、私の䞋のベンチに座る人の䌚話は少しず぀枛っおいた。人ならんでその瞳に花火を映すのはかわらないのに。
    「ねぇ、来幎はどうしようか」
    「なんで お前は実家だろ」
    「たあ、そうなんだけどさ。あんたが県倖に出るず疎遠になるのかなっお、思っお」
    「県倖っお蚀っおも隣じゃん。ちょくちょく戻っおくればいい」
    「たあ、そうなんだけどね」
     圌は来幎から県倖の倧孊ずいうずころに行くらしい。だから圌女ずあたり䌚えなくなるらしい。
    「花火っおたった日じゃん、だからその日に合わせおさ」

     その次の幎、人はよそよそしくなっおいお、私の足元のベンチに座っおただ黙っお花火を芋䞊げた。
    「ねぇ、あたしたちっおこのたたでいいのかな」
    「䜕蚀っおんだよ、奜きなや぀でもできたのか」
    「いや、そんなわけじゃないんだけど」
     ぶっきら棒な圌の声に、圌女は瞌を僅かに閉じる。
     その埌、幎間人は来なかった。だからもう来ないのかず思っおいた。これたでも人の前に䜕人かの人間が私の前のベンチに座っお花火を芋䞊げたけれど、そのうち来なくなったから。去幎も私の䞋のベンチには誰も座らずに、ただ様々な色の花火が真䞊の空に散っおいた。
     それで今幎ももう来ないのだろうず思っおいたずころだった。
     花火が始たる随分前に圌だけが海岞から高台に䞊がっおきた。絣の暡様の茶色の济衣を着おいお、ベンチに腰を掛ける。そしお静かに黙ったたた分ほどが過ぎおから、小さく呟いた。

    「どうしたらよかったんだろうな。県倖に行かなきゃよかったのかな。それよりもっず、昔からなのかもしれない。皆の前で歌なんお歌っおほしくなかったんだ。ただそれだけ」
     ただ䜕もない空を芋䞊げる圌はぜろぜろず呟いおいた。
     ぎゅういず海鳥の鳎く声がした。朮颚ずずもに高台の倧階段を駆け䞊がっおきた音だろう。
    「けど、思い通りになんかなるはずないじゃないか。違う人間なんだから。でも嫌われたくもなかったんだよ。だから歌うななんお蚀えなかった。倢だっお蚀っおたし」
     それは埌悔ずいうものなのかもしれない。私の前のベンチで、いろいろな人間がそう語っおいた。
    「そのうち思ったようにいかないのに慣れたんだ。だから倚分、話し合いをやめおしたっお、俺は県倖に逃げたんだよ。銬鹿銬鹿しい」
    「そんな事は知っおたよ」
     圌はうろたえおあたりを探った。
     癜に菖蒲の暡様の济衣を着た圌女は、圌が来るよりずっず前に私の裏に隠れおいた。
    「お前、䜕で」
    「知っおた」
     その蚀葉ず同じように圌女の瞳から涙が流れた。けれどもそれは俯く圌には芋えなかったず思う。
    「私たちはもうおしたい」
    「䜕でだよ。俺はお前が奜きなんだ。ただ」
    「そう、ただ、奜きなだけ。そのうちその『ただ』もなくなっおしたう。だから今、別れたしょう。『ただ』奜きな間に」
     圌の䜜った握りこぶしは僅かに震えおいた。歯を食いしばっお、そうしお私は男の子からも涙がこがれたのが芋えたけれど、それは唐突に䞊がった倧茪の花火の圱になっお、それを芋䞊げた圌女にはよく芋えなかったのだろう。

     この子たちはきっずもう、䞀緒にこの高台を䞊がっおきお私の前のベンチに座るこずはない。なんずなく、そう思った。私も恐らく来幎はいない。時間ずいうのはい぀しか過ぎ去っおいく。この子たちにずっおは幎ず少し、私にずっおは幎。長さの単䜍は違っおいおも、私の刻む時蚈の時間ずいうものは同じように䜕かを流し去っおしたう。
     その時、私は鐘を鳎らした。随分久しぶりのこずだ。
     皆も、私自身ももう鳎らないずいっおいたのに。
     圌ず圌女は同時に振り向き、芋䞊げる。
    「この時蚈塔っお動いおたの」
    「初めお聞くな  。あれ、少し開いおる」
    「入っおも、いいのかしら」
     私の入り口は普段は厳重に斜錠されおいる。けれどもその日はたたたた、盎近の点怜の時に鍵はかけ忘れられおいた。
     おそるおそる人は私の扉を抜けお、螺旋階段を昇っおいく。真っ暗の䞭、はぐれないようにお互いに手を繋いでいた。最初に高台に䞊がっお来た時ず同じように。私のおっぺんの鐘楌の鐘の脇からは花火ず、それからそれを映す海面が芋えるはずだ。
     人の回りに塩っぱい颚が拭きぬけた。それは海から䞊がっおくる颚で、花火が起こした颚で、䞖界がぐるぐるず自転しおいる颚だ。
     私の階からは私がい぀も芋おいる景色が芋えるだろう。少し先ではるかに広がる神接湟ずその䞊空に煌めく倧茪の花ず、それを鏡写しのように䞇華鏡のように映し出す海面。そしお私の盎䞋にある小さなベンチを。
    「すごく綺麗だ」
    「本圓。こんなに綺麗だったのね」
    「そうだな。俺はたた、芋おいなかった。芋ようずもしおいなかった。『ただ』」
    「私もそう。『ただ』」
     その倜の花火倧䌚はい぀もよりも短いような、長いような気がした。最埌に、倏の終わりを告げる匷い颚が吹く。
     しばらく埌にすっかり静たり返った高台を人が降りお、そしお別々の方向を歩き出すのを私は眺めおいた。私ず私のベンチががもう芋るこずのないこの先の未来を。

    Fin

    #い぀もの堎所に座っお
    応募したすヌ。これは分類ずしおは小説ではなくお詩なんです。無䞻物芖点の描写しかないから。

    画像

    この話は枯湟区の旧居留区にある灯台の話です。

    画像


    ★䌌た系列の話

    智ちゃんがこの灯台関連で幜霊に絡たれる話。この灯台の話は他にもあったような。

    ★短線小説のマガゞン

    #小説 #短線小説 #ショヌトショヌト #私の䜜品玹介


    この蚘事が参加しおいる募集

    あなたぞのおすすめ