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『存圚しない地䞻』第5章「予定衚には、残っおいる」

    廃止されたはずの蚭備に、今も定期䜜業が組たれおいる。
    地䞋ぞ届く電気、氎、掗剀、そしお回収されるゎミ。
    真壁は、人ではなく「予定された仕事」を远い始める。

    前回たで
    図面䞊では廃止された地䞋蚭備で、電気ず氎が今も䜿われおいるこずが分かった。
    蚭備点怜が入った日の倕方、地䞊の配管ピットには、午埌䞉時前にはなかったシヌルテヌプの芯が残されおいた。
    地䞋に暮らす者たちは、どうやっお地䞊ず぀ながっおいるのか。
    真壁ず把は、もう䞀床その仕組みを远う。
    今回の䞻な登堎人物
    真壁遌
    停の地䞻本人を䜜り䞊げる「本人蚭蚈者」。
    把盎人
    真壁ず行動する実働担圓。珟堎の出入りや蚭備を远っおいる。
    倉橋柄江
    「芊原矎代子」を挔じるために遞ばれた、元舞台女優。
    久我慎䞀郎
    土地を取埗する䌁業偎で、本人確認を進める甚地取埗郚長。
    氎城菜月
    久我の郚䞋。本人確認や蚭備に関する蚘録を確認しおいる。
    埡堂埁叞
    土地取匕を進めるため、真壁偎ずの調敎を担う人物。
    【前話】
    第4章「生きおいる回路」

    第5章 予定衚には、残っおいる
    その倜、真壁遌ず把盎人は、もう䞀床地䞋ぞ降りた。
    前倜ず同じ保守点怜口から、把が先に入る。
    真壁が続いた。
    旧蚭備点怜通路には、前倜ず同じ垞倜灯が点いおいた。
    換気扇の音も聞こえる。
    䜎く、䞀定だった。
    旧ポンプ宀たで進む。
    若い女の姿はない。
    板の䞊には掗った食噚が䌏せおあり、壁際の衣装ケヌスも前ず同じ䜍眮にある。
    把が懐䞭電灯を配管ぞ向けた。
    「どこ、盎したんですかね」
    地䞊のピットでは、午埌䞉時前にはなかったシヌルテヌプの芯が、倕方には萜ちおいた。
    だが地䞋偎には、新しく巻き盎された継手も、取り替えられた郚品も芋圓たらない。
    真壁は配管に觊れなかった。
    床を芋る。
    工具箱。
    延長コヌド。
    掗面噚。
    どれも、前に芋た䜍眮から倧きく動いおいない。
    「䞋じゃないんですか」
    把が蚀った。
    「䜕が」
    「昌に觊った堎所です」
    「分からない」
    真壁は奥の鉄扉を芋た。
    前回、若い女が、
    「開けたら、閉たらなくなりたす」
    ず蚀った扉だった。
    把手には觊れなかった。
    「開けたす」
    「開けない」
    「じゃあ、増えないですね」
    真壁は通路を戻った。
    「だから出る」
    把が振り返る。
    「もうですか」
    「䞭を芋おも、誰が觊ったかは出ない」
    地䞊ぞ戻る。
    把が保守点怜口の蓋を閉め、鉄の栌子蓋を戻した。
    雑草を元の向きぞ倒す。
    車ぞ戻ったずころで、把が時蚈を芋た。
    日付は倉わっおいた。
    「埡堂さん、䞉日埌でしたよね」
    「もう二日だ」
    真壁は珟地事務所の方を芋た。
    「明日は昌を芋る」
    「人ですか」
    真壁は答えなかった。
    
    翌朝、倉橋柄江は質問祚の䜙癜ぞ、自分で質問を曞き足しおいた。
    真壁が眮いおいった玙には、答えの欄だけが空いおいる。
    ここ数日、柄江は資料を読み返しながら、新しい問いを足しおいた。
    ――物眮の鍵は、どこに眮いおいたか。
    ――回芧板は、どこの家から来たか。
    ――䞻人の芪戚ず、最埌に䌚ったのはい぀か。
    答えを曞くためではなかった。
    答えられない質問が、どこにあるかを知るためだった。
    途䞭で、手が止たった。
    「近所の方ず、最埌にお話しされたのはい぀ですか」
    真壁が䜜った質問だった。
    答えの欄には、短く指瀺がある。
    ――芚えおいない、で止める。
    柄江は声に出した。
    「芚えおいたせん」
    湯呑みぞ手を䌞ばす。
    冷めおいた。
    もう䞀床、質問を芋る。
    長く衚ぞ出おこなかった女が、近所の人ず最埌に話した日を芚えおいない。
    自然だった。
    自然すぎた。
    柄江はボヌルペンの尻で、真壁の指瀺の䞋を二床叩いた。
    「本人なら、そこは怒りたす」
    誰もいない郚屋で、自分の声だけが返った。
    近所づきあいを聞かれたずき、
    芚えおいない、
    で終わる女ではない。
    話すこずがない。
    柄江は答えの欄ぞ、䞀行曞き足した。
    ――話すような人は、もういたせん。
    真壁の指瀺は消さなかった。
    その䞋に、自分の答えを眮いただけだった。
    質問祚の芋た目が倉わった。
    柄江はしばらく芋おから、台所ぞ行った。
    流しの棚に財垃を出したたたにしおいる。
    小銭入れの口から、折り畳んだ玙の角が出おいた。
    指で抌し蟌み、留め具を閉じた。
    午前九時前、把が来た。
    野菜ずパンず掗剀の入った袋を台所ぞ眮く。
    「真壁さんは」
    「珟地です」
    「今日もですか」
    「今日もですね」
    把は窓を開け、換気扇を回した。
    䞀床、矜の音を聞いた。
    それから、自分でおかしそうな顔をする。
    柄江は質問祚を䌏せた。
    「把さん」
    「はい」
    「前の人は、䜕を間違えたんですか」
    把は窓の桟に手を眮いたたた、少し黙った。
    「それは、本圓に知らないです」
    「間違えたこずは知っおるんですか」
    「それも知りたせん」
    把は空になった袋を畳んだ。
    「あの人、前の仕事の話はしないんで」
    「あなたにも」
    「俺も長いですけど、聞いたこずはないです」
    柄江は頷いた。
    それ以䞊は聞かなかった。
    把も、六幎前の写真の話はしなかった。
    
    昌の珟堎は、人が倚かった。
    真壁ず把は、管理通路の出口が芋える路䞊に車を止めおいた。
    正門を入った車は、珟地事務所の前を通り、資材眮堎ぞ回る。
    生コン車。
    匁圓を積んだ軜自動車。
    工事䌚瀟のバン。
    どれも予定衚に茉っおいる。
    十二時を少し過ぎお、蚭備䌚瀟の癜いバンが入っおきた。
    把が䜓を起こす。
    「あれ、昚日の点怜ずは別ですよ」
    「巡回だ」
    「毎週ですか」
    「掲瀺に出おる」
    バンから男が䞀人降りた。
    腰に工具袋を提げおいる。
    事務所の䞀階で受付を枈たせ、倖ぞ出た。
    そのたた管理通路ぞ向かう。
    把がドアぞ手をかけた。
    「芋おきたす」
    「そこにいろ」
    男は建物の陰ぞ消えた。
    倖からは、管理通路の奥たでは芋えない。
    数分埌、男が戻っおきた。
    バンの埌郚を開け、青いポリ容噚を䞀぀䞋ろす。
    容噚を持っお、たた管理通路ぞ入った。
    䞃、八分で、手ぶらで戻っおきた。
    事務所ぞ入り、しばらくしお出おくる。
    バンは、そのたた正門から出おいった。
    把が蚀った。
    「眮いおきたしたね」
    「そう芋える」
    「䜕をです」
    「分からない」
    十䞉時。
    枅掃の軜トラックが入っおきた。
    二人降りる。
    可燃ず䞍燃のポリバケツを台車ぞ茉せ、事務所の裏ぞ回る。
    管理通路の入口脇にある小さな集積小屋の前で止たった。
    䞀人が扉を開け、䞭から袋を二぀出した。
    台車ぞ茉せる。
    軜トラックぞ運ぶ。
    それだけだった。
    誰も急いでいない。
    呚囲を気にする様子もない。
    仕事が終わるず、二人は煙草を䞀本ず぀吞った。
    把が身を乗り出す。
    「あの小屋、昚日の倕方は空でした」
    「芋たのか」
    「芋たした」
    「䞭たで」
    「開いおたんで」
    軜トラックは出おいった。
    真壁は远わなかった。
    午埌も、珟堎には普通の仕事だけが続いた。
    擁壁の䜜業。
    資材の敎理。
    譊備員の巡回。
    誰も点怜口ぞ忍び蟌たない。
    誰もフェンスを越えない。
    十六時半を過ぎるず、車が順に出おいった。
    工事車䞡甚の正門が閉たる。
    譊備の車だけが残った。
    
    十䞃時過ぎ、真壁ず把は管理通路ぞ回った。
    分電盀の箱を開ける。
    十二個のブレヌカヌ。
    十䞀個が䞋がり、䞀぀だけ䞊がっおいる。
    朝ず倉わらない。
    ピットの蓋を持ち䞊げた。
    底に、癜いシヌルテヌプの芯はなかった。
    把が懐䞭電灯を圓おる。
    「なくなっおたすね」
    真壁はピットの底を芋た。
    呚囲の埃は残っおいる。
    芯が眮かれおいたずころだけ、薄い円が抜けおいた。
    「掃陀じゃないですね」
    真壁は答えず、蓋を戻した。
    散氎栓の枡を開ける。
    氎面が、前に芋た䜍眮より䞋がっおいた。
    枡の瞁には、䞞い濡れ跡がある。
    把がしゃがむ。
    「䜕か眮いおたすね」
    「䜕を」
    「底の䞞いものです。バケツか、ポリ容噚か」
    昌に男が持っおいた青い容噚ず、よく䌌た倧きさだった。
    把が管理通路の奥を芋る。
    「あれ、どこに眮いたんでしょうね」
    壁際にはない。
    消火栓の箱の脇に、畳たれた段ボヌルが䞀぀立おかけおあった。
    昌には芋えなかったものだった。
    偎面には業務甚掗剀の商品名が印字されおいる。
    把が錻から息を吞った。
    「地䞋の匂い、これですかね」
    「同じずは限らない」
    「䌌おはいたす」
    「掗剀だ」
    真壁は集積小屋ぞ芖線を移した。
    扉には南京錠が掛かっおいる。
    「昌の袋、回収されたしたね」
    把が蚀った。
    「回収の仕事だからな」
    「でも、昚日の倕方はなかった」
    真壁は管理通路の入口から集積小屋たで歩いた。
    小屋から、既知の保守点怜口たで。
    その間には珟地事務所の窓がある。
    日䞭は人がいる。
    把が蚀った。
    「昌に誰か運んでたら、芋えたすね」
    「芋える」
    「じゃあ、い぀です」
    真壁は散氎栓の濡れ跡を芋た。
    「昌に眮かれたものが、䜜業が終わるたでに消えおる」
    「俺たち、芋おたしたよ」
    「だから分からない」
    把が黙った。
    真壁も、それ以䞊蚀わなかった。
    
    翌朝、把が珟地事務所の掲瀺板を撮った。
    車ぞ戻り、画面を真壁ぞ芋せる。
    「蚭備巡回、毎週氎曜です」
    「昚日が氎曜だ」
    「枅掃回収は、月氎金」
    把は画面を拡倧した。
    「氎曜だけ重なる」
    真壁は画面を芋た。
    蚭備巡回。
    枅掃回収。
    擁壁工事。
    消防蚭備点怜。
    陀草。
    すべお予定された䜜業だった。
    把が蚀う。
    「あの蚭備屋、名前を取りたす」
    「いらない」
    「じゃあ䜕を」
    「䜜業指瀺」
    把が顔を䞊げる。
    「人じゃなくお」
    「人を埅っお䞀晩䜿った」
    真壁は画面を指で戻した。
    「地䞋ぞ届くものの䞀郚は、予定衚に茉っおる仕事ず䞀緒に動いおる」
    「蚭備屋が知っおるっおこずですか」
    「そこたでは蚀っおない」
    「枅掃も」
    「分からない」
    「じゃあ、䜕が分かったんです」
    真壁は掲瀺板を芋る。
    「人を远っおも足りない」
    把は画面を䞋ぞ送った。
    小さな文字が䞀行あった。
    北偎付垯蚭備・消耗品確認。
    次回予定は、翌週の氎曜。
    把が蚀った。
    「埡堂さんに返すの、明日ですよね」
    「そうだ」
    「間に合いたす」
    真壁はスマヌトフォンの画面を消した。
    「間に合わせる」
    それ以䞊は蚀わなかった。
    
    䞉日目の朝、旧管理棟の図面が届いた。
    蚭備郚門が蚀っおいた、最短の日だった。
    氎城菜月は玙管から図面を抜き、䌚議宀のテヌブルぞ広げた。
    叀い青焌きの耇写だった。
    珟行の管理区画台垳を暪ぞ眮く。
    台垳では、
    旧受氎槜・ポンプ宀。
    撀去、埋め戻し枈み。
    呚蟺の付垯蚭備も、廃止扱いになっおいる。
    旧図面には、別の線が残っおいた。
    再開発蚈画にある将来の地䞋通路予定線ずは違う。
    旧管理棟の蚭備点怜通路だった。
    受氎槜の脇から東ぞ延びおいる。
    途䞭に、保守点怜口の蚘号が䞀぀ある。
    前日に確認した区画の近くず、おおむね重なる。
    氎城は珟行台垳をもう䞀床確認した。
    点怜通路の蚘茉はない。
    保守点怜口もない。
    氎城は曞類の䜙癜ぞ鉛筆を眮いた。
    ――旧図面旧蚭備点怜通路・保守点怜口の蚘茉あり。
    ――珟行台垳蚘茉なし。
    その䞋に、
    ――䜍眮関係は未確認。芁珟地確認。
    ず曞いた。
    掚枬は曞かなかった。
    蚭備郚門ぞ内線をかける。
    「旧図面が届きたした」
    「点怜口、ありたした」
    「ありたす」
    「前に探した堎所ですか」
    「近いです。ただ、瞮尺が違うので、珟地で確認が必芁です」
    「察象地偎ぞ行っおたすか」
    氎城は図面を芋る。
    旧蚭備点怜通路の線は東ぞ延びおいる。
    珟圚の境界図ずは、そのたた重ならない。
    「確認できたせん」
    「珟地、入れたす」
    「取埗枈み区画偎たでです」
    「その先は」
    「所有者偎の確認が芁りたす」
    蚭備担圓が息を吐いた。
    「じゃあ、そこからですね」
    「お願いしたす」
    電話を切る。
    䌚議宀を出たずころで、久我慎䞀郎ずすれ違った。
    「図面、来たしたか」
    「はい」
    「本人確認の資料に入れたすか」
    氎城は少し考えた。
    「蚭備の件です。別で䜜りたす」
    久我が足を止める。
    「別にしないでください」
    「二぀の案件は――」
    「同じ土地です」
    久我はそれだけ蚀い、階段を䞊がった。
    氎城は䌚議宀ぞ戻った。
    手垳の衚題を曞き盎す。
    その日の午埌。
    蚭備郚門から、定期䜜業䞀芧の写しが回っおきた。
    委蚗先ごずに、月単䜍で䜜業内容ず日皋が䞊んでいる。
    氎城は旧蚭備台垳を暪ぞ眮いた。
    台垳では、
    旧受氎槜ずポンプ宀は撀去枈み。
    呚蟺付垯蚭備も廃止。
    䜜業予定䞀芧を䞋ぞ远う。
    北偎付垯蚭備。
    巡回、消耗品確認。
    翌月の欄にも、同じ行があった。
    氎城は台垳の「廃止」を芋た。
    それから、翌月の䜜業予定日を芋る。
    翌々月にも、同じ欄が残っおいた。

    あずがき
    ここたで読んでいただき、ありがずうございたす。
    第6章ぞ続きたす。

    『存圚しない地䞻』は、毎週日曜21時30分に曎新したす。
    次回曎新2026幎8月23日日21時30分予定
    『存圚しない地䞻』をたずめお読む


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    【投皿蚭定】
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    公開タむトル
    『存圚しない地䞻』第5章「予定衚には、残っおいる」
    公開予定日時
    2026幎8月16日日21時30分
    公開圢匏
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    『存圚しない地䞻』

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    第4章「生きおいる回路」

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