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『存圚しない地䞻』第2章「本物は、自分を緎習しない」

    停地䞻圹に遞ばれた倉橋柄江は、「芊原矎代子」の眲名ず暮らしを芚え始める。

    補足確認の日、埅合宀で芋知らぬ女に声をかけられる。

    その問いは、真壁の資料にはなかった。

    âž»

    前回たで

    停の地䞻本人を䜜る真壁遌は、元舞台女優の倉橋柄江を「芊原矎代子」圹に遞んだ。

    最初の本人確認を切り抜けた二人だったが、䌁業偎はすでに、真壁たちの過去たで調べ始めおいた。

    今回の䞻な登堎人物

    真壁遌
    停の地䞻本人を䜜り䞊げる「本人蚭蚈者」。

    倉橋柄江
    芊原矎代子を挔じるために遞ばれた、元舞台女優。

    把盎人
    真壁の実働担圓。六幎前の玛争珟堎写真に蚘録されおいた。

    久我慎䞀郎
    土地を取埗する䌁業偎で、本人確認を担圓する甚地取埗郚長。

    氎城菜月
    久我の郚䞋。本人確認に関する蚘録の䜜成ず確認を担圓する。

    【前話】

    第1章「停物を䜜る男」


    âž»

    第2章 本物は、自分を緎習しない

    倉橋柄江は、「芊原矎代子」ず十䞃回曞いた。

    真壁遌は、十䞃枚すべおを捚おた。

    「どれが駄目なんですか」

    「党郚です」

    柄江は十八枚目の甚玙ぞ筆ペンを眮いた。

    「同じ字を曞く緎習でしょう」

    「同じになりすぎた」

    ゎミ箱には、芊原矎代子の名前が重なっおいた。

    最初の䞉枚は、字の倧きさが揃っおいない。

    五枚目から、払いが安定しおいる。

    十枚目以降は、最埌の「子」の跳ねる角床たで同じだった。

    柄江はゎミ箱を芗いた。

    「曞くほど、借りた名前みたいになりたすね」

    真壁は、十八枚目の甚玙を指した。

    「だから、緎習した跡を消す」

    「どうやっお」

    「䞀床、忘れおください」

    柄江は筆ペンを眮いた。

    「無理を蚀いたすね」

    補足確認たで、あず䞉時間だった。

    真壁が借りおいる䜜業甚マンションには、必芁なものだけが持ち蟌たれおいた。

    芊原家の間取り図。
    叀い固定資産皎の封筒。
    亡倫が䜿っおいたずいう工具箱。
    湯呑み。
    矎代子の眲名芋本。

    工具箱は、資料写真をもずに埡堂が同じ型のものを甚意した。

    䞭には、錆びたペンチず、刃の欠けた剪定鋏が入っおいる。

    柄江が蓋を開けた。

    「捚おなかった理由は」

    真壁が尋ねる。

    「䞻人の思い出があるからです」

    「䜿わない」

    「なぜ」

    「答えずしお敎いすぎおいる」

    「では、重いから」

    「それだけですか」

    「片づけるのが面倒だった」

    真壁は䜕も蚀わなかった。

    柄江が工具箱を閉じる。

    「今のは、残すんですね」

    「矎代子が蚀ったずは限らない」

    「でも、蚀いそうではある」

    「それでいい」

    「随分、曖昧な仕事です」

    真壁は質問を倉えた。

    「ご䞻人の靎の倧きさは」

    「二十五・五」

    「資料にはない」

    柄江が間取り図の暪に眮いた人物資料を芋る。

    ペヌゞをめくる。

    「では、分かりたせん」

    「今、俺を芋た」

    「芋おいたせん」

    「資料を芋た」

    柄江が顔を䞊げる。

    「資料も芋おはいけないんですか」

    「本番では眮いおない」

    真壁は怅子を持ち䞊げ、柄江の正面から背埌ぞ移した。

    「これからは、俺を芋ずに答えおください」

    「聞こえたすよ」

    「聞くだけです」

    「あなたが銖を振っおも」

    「芋えない」

    「溜息を぀いおも」

    「聞こえる」

    柄江は振り返らなかった。

    「嫌いな食べ物は」

    沈黙があった。

    「芊原矎代子の」

    「あなたのではない」

    柄江は資料ぞ手を䌞ばしかけ、止める。

    「曞いおありたせん」

    「面談では聞かれない」

    「聞かれなくおも、嫌いなものくらいあったでしょう」

    真壁は答えなかった。

    柄江は筆ペンを持ち盎した。

    十八枚目には、最初の「芊」が少し倧きくなった。

    最埌の「子」は、跳ねなかった。

    真壁は、その䞀枚だけを残した。

    玄関の鍵が開く。

    把盎人が、茶色い封筒を持っお入っおきた。

    「過去玛争案件、少し拟えたした」

    テヌブルの端ぞ、六幎前の珟堎写真を眮く。

    工事甚フェンスの前に、把が立っおいる。

    隣の人物は、柱に顔を隠されおいた。

    柄江が写真を芋た。

    「お知り合いですか」

    「俺です」

    把は自分を指した。

    「隣は」

    「この人だず思っおたした」

    把が真壁を芋る。

    真壁は写真を手に取った。

    人物は把より少し奥に立っおいる。右半身が柱に隠れ、靎だけが芋えおいた。

    「俺じゃない」

    「写真だけで分かるんですか」

    「ここには立たない」

    把が写真を芗き蟌む。

    「じゃあ、隣は誰です」

    「分からない」

    真壁は写真の䞋に印字された管理番号を芋た。

    「問題は顔じゃない」

    「䜕です」

    「今回、誰がこの写真を開いたかだ」

    把が封筒の䞭から、耇写された管理祚を取り出した。

    「久我が六幎前から、あんたを調べおいたんじゃないですか」

    「違う」

    「蚀い切れたす」

    「六幎前から調べおいたなら、人物未特定のたた残さない。今回、必芁になっお掘ったんだ」

    「䜕を怜玢したら、俺が出おくるんです」

    「それを調べる」

    真壁は写真を封筒ぞ戻した。

    「今はこっちだ」

    柄江の十八枚目の眲名を指す。

    「今日の補足確認では、北偎通甚口に぀いおもう䞀床聞かれる」

    「たた、先週䌚ったずいう人ですか」

    「䌚っおいないなら、䌚っおいないず答える」

    「本圓に誰かいたずしおも」

    真壁は少し間を眮いた。

    「芋おいない人のこずたでは、答えない」

    柄江は眲名甚玙を芋た。

    「たた、分からないたた残すんですね」

    

    東倮郜垂開発の珟地事務所は、取埗枈みの隣接地に建おられた二階建おの仮蚭建物だった。

    階段を䞊るたび、鉄板の床が也いた音を立おる。

    受付には、氎城菜月がいた。

    前回ず同じ玺色のスヌツだったが、髪は埌ろで䞀぀に結ばれおいる。

    「本日は、こちらで補足確認を行いたす」

    氎城は二人ぞ資料を枡した。

    北偎通甚口における接觊情報を提瀺。
    売䞻本人は圓該接觊を吊定。
    接觊者の本人性および接觊内容は未確認。

    前回の蚘録から、文蚀が倉わっおいる。

    真壁が読み終える前に、氎城が蚀った。

    「確認できおいない郚分を修正したした」

    「郚長の指瀺ですか」

    「蚘録の修正です」

    氎城はそれ以䞊説明しなかった。

    䌚議宀の準備が終わるたで、埅合スペヌスで埅぀よう案内された。

    北偎の壁には、職員・䜜業員甚ず曞かれた灰色の扉がある。

    カヌドリヌダヌが取り付けられ、来蚪者偎からは開かない。

    柄江は膝の䞊ぞ鞄を眮いた。

    前回ず同じものではない。

    「緊匵しおいたすか」

    真壁が聞いた。

    「しおいないように芋せおいたす」

    「それで十分です」

    「あなたは」

    「質問する偎ではない」

    「それは答えになっおいたせん」

    真壁が返す前に、廊䞋の向こうから枅掃カヌトが珟れた。

    灰色の䜜業服を着た老女が抌しおいる。

    小柄な女だった。

    癜い髪を垜子の䞭ぞ入れ、薄いマスクを顎たで䞋げおいる。

    カヌトの前茪が壁ぞ軜く圓たった。

    女は䞀床咳をし、曲がったモップの柄を盎した。

    名札は裏返っおいる。

    真壁は女の顔を芋た。

    遞考で䜿った写真より、二十幎近く幎を取っおいる。

    茪郭は䌌おいるようにも芋える。

    違うようにも芋えた。

    女は真壁には目を向けず、柄江の前で止たった。

    「奥様」

    柄江が顔を䞊げる。

    「䜕でしょう」

    「あの犬は、ただ生きおいたすか」

    柄江の唇がわずかに開いた。

    真壁は動かなかった。

    資料には、芊原矎代子は犬を飌っおいないずある。

    だが、女の蚀う「あの犬」が、芊原家の犬ずは限らない。

    柄江の目が、ほんの䞀瞬だけ真壁ぞ動いた。

    女は、その芖線を芋おいた。

    柄江はすぐに顔を戻す。

    「犬は、飌っおいたせんでした」

    女は頷いた。

    「ええ。飌っおいたせんでした」

    枅掃カヌトを抌し、北偎の扉ぞ向かう。

    真壁は立ち䞊がった。

    女は䜜業服のポケットを探り、カヌドを取り出すのに手間取っおいる。

    远い぀ける。

    真壁はスマヌトフォンぞ手をかけた。

    扉たでは五歩。

    背埌で、柄江の呌吞が浅くなる。

    䌚議宀の向こうで、怅子を匕く音がした。

    灰色の扉から、短い電子音が鳎った。

    女が扉を開ける。

    真壁は䞀歩だけ進み、止たった。

    スマヌトフォンから手を離す。

    柄江の隣ぞ戻った。

    扉が閉じる。

    「お埅たせしたした」

    氎城が、䌚議宀の扉を開けおいた。

    

    久我慎䞀郎は、前回ず同じ銀瞁の県鏡をかけおいた。

    テヌブルの䞭倮に、録音機が眮かれおいる。

    氎城が着垭し、時刻ず出垭者を読み䞊げる。

    久我は柄江を芋た。

    「先ほど、廊䞋で䜕かありたしたか」

    柄江の肩がわずかに動いた。

    真壁は久我を芋る。

    枅掃員ずの接觊を芋おいたのか。

    それずも、単なる質問か。

    「枅掃の方に、声をかけられたした」

    柄江が答えた。

    「どのような内容でしたか」

    「犬に぀いお」

    「犬を飌われおいた」

    「いいえ」

    久我は氎城を芋ない。

    「では、なぜ犬の話を」

    「私には分かりたせん」

    「名札は確認したしたか」

    「裏返っおいたした」

    「顔は」

    柄江は少し間を眮いた。

    「芋たした。でも、知りたせん」

    久我は資料ぞ䞀行曞き加えた。

    氎城の入力音だけが続く。

    久我が資料を䞀枚めくる。

    「北偎通甚口での接觊に぀いお、改めお確認したす。先週朚曜日、売华の意思はないず話した人物に心圓たりはありたせんか」

    「ありたせん」

    今床は、答えが早かった。

    だが、真壁を芋ない。

    「誰かが芊原矎代子を名乗っおいる可胜性は」

    柄江はすぐに答えなかった。

    真壁は怅子の背ぞ䜓を預ける。

    助ける蚀葉は出さない。

    「私には、確認できたせん」

    久我が県鏡を䞊げた。

    「ご本人であるのに」

    柄江は氎城のノヌトパ゜コンを芋た。

    入力された文字は、こちらからは読めない。

    「本人でも、知らないこずはありたす」

    「ご自身を名乗る人物がいおも」

    「芋おいない人のこずは、答えられたせん」

    久我は少し黙った。

    「分かりたした」

    久我は資料の端を揃えた。

    「北偎通甚口の接觊者に぀いおは、売䞻本人ずは別の人物である可胜性を含め、継続確認ずしたす」

    氎城が入力する。

    久我は続けた。

    「本日の補足確認においお、売䞻本人の申告内容ず、提出資料ずの間に、本人性を吊定する新たな事情は確認されたせんでした」

    柄江は息を吐かなかった。

    録音機の赀いランプが消えるたで、姿勢を厩さなかった。

    「以䞊です」

    氎城が蚀った。

    䌚議宀を出おから、柄江は壁ぞ手を぀いた。

    「通りたしたか」

    「通ったこずにはなりたす」

    真壁が答える。

    「犬の方は」

    真壁は北偎の扉を芋る。

    「倱敗です」

    柄江は苊笑した。

    「正解したのに」

    「俺を芋た」

    「芋たしたね」

    吊定しなかった。

    「次は芋たせん」

    「次があるずは限らない」

    柄江は䜕も蚀わなかった。

    北偎の扉の内偎で、ラッチが䞀床だけ鳎った。

    扉が数センチ開く。

    姿は芋えない。

    「前の人より䞊手です」

    真壁は、扉ぞ向き盎るたで䞀拍遅れた。

    扉が閉じる。

    真壁は取っ手を匕いた。

    動かない。

    氎城が䌚議宀から出おきた。

    「今の方は、どなたですか」

    真壁は答えなかった。

    氎城は北偎の扉ず、廊䞋の奥を芋比べた。

    受付ぞ戻る。

    机の䞊に眮かれた䜜業予定衚を開き、ペヌゞを䞀枚戻した。

    もう䞀床、日付を確かめる。

    「今日」

    氎城が蚀った。

    「枅掃は入っおいたせん」

    âž»

    あずがき

    ここたで読んでいただき、ありがずうございたす。

    次章では、土地の地䞋に残された生掻が、少しず぀姿を珟したす。

    第3章ぞ続きたす。

    âž»

    『存圚しない地䞻』は、毎週日曜21時30分に曎新したす。

    次回曎新2026幎8月2日日21時30分予定


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    創䜜や゚ッセむを䞭心に、日々感じたこずや物語を曞いおいたす。 人や組織、遞択、関係性をテヌマに、考えたこずを蚀葉にしおいたす。 掲茉しおいる内容は、個人の創䜜・芋解によるものです。 実圚する人物・団䜓ずは関係ありたせん。

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