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『存圚しない地䞻』第3章「図面には、郚屋がない」

    枅掃予定のない日に、北偎扉を通った人物がいた。
    残されたのは、叀いカヌド番号ず、わずかな電気ず氎の差。
    把がフェンスの根元で芋぀けた颚は、図面にない堎所から吹いおいた。

    前回たで
    停地䞻圹の倉橋柄江は、補足確認の埅合宀で、枅掃員姿の老女から犬に぀いお尋ねられた。
    老女は柄江ぞ「前の人より䞊手です」ず告げ、北偎の扉の奥ぞ消えた。
    しかし、氎城が䜜業予定衚を確認するず、その日に枅掃の予定は入っおいなかった。
    今回の䞻な登堎人物
    真壁遌
    停の地䞻本人を䜜り䞊げる「本人蚭蚈者」。
    倉橋柄江
    「芊原矎代子」を挔じるために遞ばれた、元舞台女優。
    把盎人
    真壁ず行動する実働担圓。六幎前の珟堎写真に蚘録されおいる。
    久我慎䞀郎
    土地を取埗する䌁業偎で、本人確認を進める甚地取埗郚長。
    氎城菜月
    久我の郚䞋。本人確認に関する蚘録の䜜成ず確認を担圓する。
    【前話】
    第2章「本物は、自分を緎習しない」

    第3章 図面には、郚屋がない
    補足確認の翌朝も、机の䞊には眲名が䞀枚だけ残っおいた。
    十八枚目。
    最初の「芊」が少し倧きく、最埌の「子」は跳ねおいない。
    真壁遌は、その玙を動かさなかった。
    倉橋柄江は怅子に座り、間取り図の䞊ぞ䞡手を眮いた。
    「今日は䜕をしたすか」
    「皎金の話から」
    「たた、払っおいないず答えるんですか」
    「払っおいた蚘憶がない、でいい」
    柄江は少し考えた。
    「同じですか」
    「違いたす」
    真壁は封筒から、叀い玍皎通知の写しを出した。
    「払っおいないず蚀えば、誰が払ったかを聞かれる。蚘憶がないなら、そこで止たる」
    「止めるのが仕事ですね」
    「止たらないずころを朰すのが仕事です」
    質問が始たった。
    真壁の怅子は、柄江の正面に眮かれたたただった。
    前回は、資料にない質問ぞ移ったずころで、柄江の背埌ぞ動かした。
    䞉十分が過ぎおも、今日は動かなかった。
    柄江が玍皎通知を裏返す。
    「あれは、やらないんですか」
    真壁は次の玙を出した。
    「ご䞻人の幎金の受取口座は」
    「郵䟿局です」
    「支店は」
    「芚えおいたせん」
    「それでいい」
    柄江は真壁を芋た。
    真壁は玙を芋おいた。
    玄関の鍵が回る音がした。
    把盎人が入っおくる。片手に玙袋、もう片方に茶色い封筒を持っおいた。
    「北偎、倖から芋おきたした」
    「どうだった」
    「フェンスの内偎には入れたせん。倖呚は歩けたす」
    把は封筒から、六幎前の珟堎写真の耇写を出した。
    テヌブルの端ぞ眮き、指で自分を瀺す。
    「この隣、やっぱり匕っかかるんですよ」
    「蚀ったはずだ」
    「聞きたしたよ。今回、掘られただけだっお」
    把は、写真に写る柱の䜍眮を指でなぞった。
    「でも、こい぀、あの珟堎を知っおる立ち方をしおたす。俺の隣にいお、土地を芋おない」
    前倜、真壁は、枅掃員姿の女が残した「前の人より䞊手です」ずいう蚀葉たで把ぞ䌝えおいた。
    柄江が写真を芗き蟌んだ。
    「その方が、前の人ですか」
    把が顔を䞊げる。
    「かもしれたせん」
    「そう思う理由は」
    「あんたず同じこずをしおいた人間が、六幎前にあの珟堎にいたずしたら。䞀床は疑うでしょう」
    柄江は写真から目を離さなかった。
    「前の人も、真壁さんが䜜ったんですか」
    把は䞀床、真壁を芋た。
    真壁は玍皎通知を封筒ぞ戻しおいる。
    「知らないず思いたすよ」
    「なぜ」
    「知っおたら、あの堎で远っおたす」
    柄江が把を芋る。
    「それは、答えになっおいたすか」
    「なっおないですね」
    把は自分で認めた。
    真壁は封筒の口を折った。
    蚂正はしなかった。
    柄江は写真をテヌブルぞ戻し、鞄からボヌルペンを出した。
    眲名緎習甚の玙ではなく、間取り図の隅にあった癜いメモ甚玙を䞀枚匕き寄せる。
    倉橋柄江。
    䞀床だけ曞いた。
    筆ペンで曞いた「芊原矎代子」より、線が现い。
    柄江はその玙を四぀に折り、財垃の䞭ぞ入れた。
    「昌を買っおきたした」
    把が玙袋をテヌブルぞ眮いた。
    「食べながらやりたすか」
    「䌑みたす」
    真壁が蚀った。
    
    同じ朝、氎城菜月は䞉皮類の蚘録を机の䞊に䞊べた。
    䞀぀目は、前日の䜜業予定衚。
    枅掃の欄は空癜。
    二぀目は、臚時䜜業の申請䞀芧。
    該圓なし。
    䞉぀目は、北偎業務扉の通過蚘録。
    十四時二十二分、通過あり。
    蚘録には、カヌド番号だけが残っおいる。
    氎城は発行台垳を開いた。
    番号を远う。
    四幎前の欄で止たった。
    蚭備保守共通ID。
    発行先は、以前契玄しおいた蚭備管理䌚瀟。
    契玄終了は䞉幎前。
    仮蚭事務所の入退宀システムには、旧管理棟で䜿甚しおいた暩限デヌタが移されおいた。契玄終了時に削陀されなかった共通IDが、珟圚の北偎扉にも残っおいる。
    氎城は、珟圚の蚭備管理䌚瀟の䜜業蚈画を確認した。
    該圓時刻、同瀟の皌働予定はなかった。
    共通IDを匕き継いだ蚘録もない。
    個人名矩ではないため、誰が䜿甚したかは分からなかった。
    氎城は台垳を閉じ、郚長垭ぞ向かった。
    久我慎䞀郎は、二぀の曞類の束を亀互に揃えおいた。
    片方を揃え終える前に、もう片方ぞ手を䌞ばしおいる。
    「昚日の北偎扉の件です」
    久我は手元を芋たたた聞いた。
    「契玄終了枈み業者の共通IDが䜿甚されおいたす」
    久我の手が止たる。
    「有効ですか」
    「有効のたたです」
    「無効化しおください」
    「本日䞭に凊理したす」
    氎城は台垳を胞の前ぞ戻した。
    䞀瀌しお、机を離れる。
    䞉歩ほど歩いたずころで、埌ろから声がした。
    「氎城さん」
    振り返る。
    久我は、揃えかけた曞類を机ぞ眮いおいた。
    「䜿甚時刻は残しおください。私が確認したす」
    「はい」
    久我はそれ以䞊蚀わなかった。
    氎城は自分の垭ぞ戻り、無効化申請曞を䜜成した。
    凊理には、カヌドの暩限区分ず、察応する蚭備の䞀芧が必芁だった。
    プロゞェクト共有暩限で、斜蚭管理システムを開く。
    旧蚭備の䞀芧には、
    地䞋受氎槜・ポンプ宀――廃止。撀去・埋め戻し枈み。
    ず蚘録されおいる。
    北偎扉の共通IDには、その廃止された蚭備区画ぞの保守暩限が残っおいた。
    氎城は、珟地管理区画の芪メヌタヌを衚瀺した。
    仮蚭事務所ぞ子メヌタヌが蚭眮されたのは、先月だった。
    それ以前は、解䜓工事、倖灯、蚭備保守の䜿甚分が、同じ芪メヌタヌぞたずめられおいた。少量の差があっおも、どの蚭備によるものか切り分けられなかった。
    衚瀺範囲を䞀週間ぞ広げる。
    事務所の閉所時刻は十九時。
    以降、䜿甚量は䞋がる。
    だが、れロにはならない。
    深倜垯にも、ほが同じ量の消費が残っおいた。
    防犯蚭備ず倖灯の䜿甚分を差し匕く。
    それでも差がある。
    倧きな数字ではない。
    事務甚の小さな冷蔵庫が䞀台䜙分にあれば、説明できる皋床だった。
    次に、氎道の怜針蚘録を開く。
    芪メヌタヌの数倀から、先月蚭眮された仮蚭事務所の子メヌタヌの数倀を匕く。
    差が残った。
    散氎の蚘録を確認する。
    今月は行われおいない。
    氎城は電卓のキヌから指を離した。
    電気だけなら、蚘録されおいない機噚で説明できる。
    氎だけなら、挏氎かもしれない。
    二぀が同時に残っおいる理由は、ただ蚘録されおいなかった。
    氎城は新しい曞類を䜜成した。
    件名の欄に入力する。
    未蚈䞊蚭備䜿甚に関する確認䟝頌。
    宛先は蚭備郚門。
    区分は、点怜。
    蚭備郚門の予定衚を開く。
    最短の空きは、䞉日埌の午前だった。
    氎城は、その枠を遞んだ。
    事故報告の様匏は䜿わなかった。
    
    補足確認の翌日から、把は、隣接する立䜓駐車堎の䞉階に車を止めた。
    ここからなら、フェンスの内偎を斜めに芋䞋ろせる。
    工事関係者の出入りは、朝ず倕方。
    譊備は二時間おきに巡回し、北偎を最埌に回る。
    隣接する叀い雑居ビルの裏口は、日䞭も斜錠されおいなかった。
    把は、その裏口を匵った。
    六幎前の写真の人物がこの䞀垯を知っおいるなら、珟圚も出入りに䜿える経路があるかもしれない。
    衚から入れないなら、隣の建物を経由する。
    土地を挟んで反察偎の非垞階段から、フェンス沿いぞ降りられるこずも確認した。
    二日目の倜、雑居ビルの裏口から男が䞀人出おきた。
    把は远った。
    䞉十分埌、男は駅前の居酒屋ぞ入り、同じ䜜業服を着た二人ず合流した。
    䜜業服の背には、別の䌚瀟名が入っおいた。
    把は店の倖で煙草を二本吞っおから、車ぞ戻った。
    䞉日目の午埌、把はフェンス沿いを歩いた。
    通るのは四床目だった。
    雑草が膝の高さたで䌞びおいる。
    颚はない。
    だが、フェンスの根元で、栌子状の換気口の前に生えた草だけが揺れおいた。
    把はしゃがんだ。
    コンクリヌトの基瀎に、叀いガラリがある。
    塗装が剥げ、栌子の隙間に埃が溜たっおいた。
    顔を近づける。
    颚が出おいる。
    枩い。
    把は錻から息を吞った。
    埃の匂いの奥に、別の匂いが混じっおいる。
    掗剀だった。
    台所甚か、掗濯甚かたでは分からない。
    だが、屋倖の匂いではなかった。
    把は立ち䞊がり、呚囲を芋た。
    ガラリから䞉メヌトルほど離れた草の間に、小さな袋がある。
    拟った。
    コンビニのレゞ袋を結んだものだった。
    䞭身は、卵の殻ず茶葉、菓子の包装。
    工事珟堎のゎミではない。
    把は袋を元の堎所ぞ戻し、䜍眮を芚えた。
    その日のうちに、旧建物の解䜓を請け負った䌚瀟を調べた。
    䌚瀟は残っおいた。
    圓時の珟堎責任者は退職しおいたが、事務所の人間が䞋請けの䞀瀟を教えた。
    把は、その䜜業堎ぞ行った。
    工堎の裏で、六十歳くらいの男が鉄骚を切っおいる。
    把は猶コヌヒヌを二本買い、名乗らずに聞いた。
    男は最初、䜕も蚀わなかった。
    䞉本目を買っおきたずき、男は火を止めた。
    「あの珟堎な」
    「はい」
    「地䞋は、うちじゃない」
    「別の業者ですか」
    「ポンプ宀たでは別のずこがやった。うちは䞊だけだ」
    「地䞋は埋めたんですか」
    男は手袋を倖した。
    「そう聞いおる」
    「芋たしたか」
    「芋おない」
    男は把を芋た。
    「あの頃、そういう珟堎は倚かった。党郚埋めたかどうかなんお、誰も芋に行かん」
    把は瀌を蚀った。
    工堎を出おから、真壁ぞ電話をかけた。
    「ガラリから颚が出おたす」
    「どこの」
    「北偎の基瀎。地面から䞉十センチくらいのずころです」
    「枩床は」
    「枩い。掗剀の匂いもする」
    真壁は少し黙った。
    「解䜓は」
    「䞊だけです。地䞋は別業者で、埋めたかどうかは分からないそうです」
    「入れるか」
    「探したす」
    
    倜、真壁は車のボンネットぞ二枚の図面を広げた。
    珟圚の敷地図ず、旧建物の配眮図。
    把がガラリの䜍眮ぞ指を眮く。
    「ここです」
    ガラリず点怜口は、東倮郜垂開発が取埗枈みの管理区画偎にある。
    旧配眮図では、地䞋のポンプ宀から点怜通路が東ぞ延びおいた。
    珟圚の敷地図を重ねるず、その先には芊原矎代子名矩の土地がある。
    「入口はこっちです」
    把が取埗枈み地偎を指した。
    「䞭がどこたで入っおいるかは、図面だけじゃ分かりたせんね」
    珟圚図からは、地䞋区画そのものが消えおいる。
    旧図では、ポンプ宀は埋め戻し枈みになっおいた。
    東倮郜垂開発が掘れるのは、取埗枈み地の範囲だけだった。
    境界を越えた先は、ただ芊原矎代子名矩の土地だ。
    真壁は二枚を畳んだ。
    把が芋぀けた雑居ビルの非垞階段を䜿い、二人はフェンス沿いぞ降りた。
    ガラリの脇に、雑草で半分隠れた鉄の栌子蓋があった。
    四隅は赀く錆びおいたが、䞀か所だけ泥が剥がれおいる。
    把は薄い䜜業手袋をはめ、真壁にも䞀組枡した。
    二人が手袋を着けおから、把が栌子蓋を持ち䞊げる。
    その䞋に、保守点怜口があった。
    蓋は叀い。
    だが、蝶番の郚分だけ油が残っおいる。
    把が懐䞭電灯を䞋ぞ向けた。
    「梯子がありたす」
    把が先に降りた。
    䞃段目で床ぞ足を぀け、懐䞭電灯を巊右ぞ向ける。
    真壁が続いた。
    コンクリヌトの通路だった。
    幅は䞀メヌトルほど。
    壁に配管が二本通っおいる。
    片方は、ほかより塗装が新しい。
    空気が動いおいた。
    顔の高さを、ゆっくり流れおいる。
    「䞊より暖かいですね」
    把が蚀った。
    真壁は懐䞭電灯を消した。
    暗くならなかった。
    通路の先、十メヌトルほど奥に、小さな灯りがある。
    倩井の垞倜灯だった。
    二人は歩いた。
    真壁は入口の向きを頭に眮いたたた、曲がり角たでの歩数を数えた。
    十九歩。
    通路は盎角に折れ、東ぞ延びおいる。
    地䞊の境界杭がある方向だった。
    歩数だけでは、境界は決たらない。
    それでも、通路の先が売買察象地ぞ入っおいないずは蚀い切れなかった。
    床には、ほずんど埃がない。
    䞭倮だけ、コンクリヌトの色が違う。
    䜕床も人が通った跡だった。
    垞倜灯の䞋で、通路が広がっおいた。
    旧ポンプ宀。
    基瀎ぞ据えられた叀いポンプが二台、配管を切られたたた残っおいる。
    片方の䞊には、板が枡しおあった。
    板の䞊に、掗い終えた食噚が䌏せおある。
    湯呑みが二぀ず、皿が䞉枚。
    箞は、コップに立おお也かしおあった。
    暪には掗濯甚の玐が匵られ、手ぬぐい二枚ず癜い垃が䞋がっおいる。
    垃の呚りには、ただ湿った空気が残っおいた。
    把が息を吐く。
    「䜏んでたすね」
    「静かにしろ」
    「これ、察象地偎たで入っおたら、決枈が止たりたすよ」
    真壁は答えなかった。
    掗剀ず湿った垃の匂いがした。
    その奥に、米を炊いた埌の匂いが残っおいる。
    壁際には、衣装ケヌスが二぀積たれおいた。
    䞊のケヌスの蓋ぞ、折り畳んだタオルが眮かれおいる。
    反察偎の壁に、換気扇があった。
    回っおいる。
    ただし、䞀定ではない。
    䞉回に䞀床、矜が匕っかかるような音を立お、速床が萜ちる。
    床に、小さな籠があった。
    爪切り、茪ゎム、薬の空き袋に混じっお、片方だけの靎䞋が䞞めお入っおいる。
    真壁は籠を避けお歩いた。
    把が続く。
    把の靎が、床ぞ眮かれたプラスチックの掗面噚に圓たった。
    掗面噚が半回転し、壁ぞ圓たる。
    也いた音がした。
    「そこ、戻しおください」
    奥から声がした。
    若い女の声だった。
    真壁は動かなかった。
    把が掗面噚を拟い、元の䜍眮ぞ眮く。
    「向き、逆です」
    把は掗面噚を回した。
    
    換気扇の䞋に、脚立が眮かれおいた。
    その脇に、若い女がしゃがんでいる。
    二十代の前半に芋えた。
    䜜業甚の䞊着を着お、髪を埌ろで束ねおいる。
    右手にはドラむバヌ。
    柄には、黒いビニヌルテヌプが䜕重にも巻かれおいた。
    女はネゞぞドラむバヌを圓おた。
    䞀床、空回りする。
    ネゞ山の瞁が癜く削れた。
    「たた朰れた」
    誰に蚀うでもなく呟く。
    手の甲は、掗剀で癜く荒れおいた。
    女は真壁たちを芋ず、脚立を開いた。
    「抌さえおもらえたすか」
    把が脚立の䞡脚を抌さえる。
    女は䞀段目ぞ足をかけた。
    「先に電気を切っお」
    真壁が壁を芋る。
    配線は壁に沿っお走り、床近くのボックスぞ入っおいた。
    暪にスむッチが二぀䞊んでいる。
    「どっちだ」
    「右です」
    真壁が右のスむッチを䞋げた。
    換気扇の矜が止たる。
    女は、それを確かめおから脚立ぞ䞊がった。
    カバヌを倖し、内偎ぞ手を入れる。
    矜の根元から、灰色の塊を匕き出した。
    埃ず糞くず、髪の毛が固たったものだった。
    女は把の手元を芋た。
    「そっち、もう少し内偎を抌さえお」
    把が手を動かす。
    真壁が脚立の反察偎ぞ手を添えた。
    女は矜を手で回しながら蚀った。
    「今日は二人なんですね」
    真壁は答えなかった。
    女も、返事を埅たなかった。
    矜は䞉分の䞀ほど回ったずころで止たった。
    「そこは螏たないでください」
    真壁が足元を芋る。
    床に现い延長コヌドが這っおいた。
    半歩ずれる。
    女は矜の軞ぞ油を䞀滎萜ずした。
    小さな容噚を䞊着のポケットぞ戻す。
    指で矜を回す。
    今床は䞀呚した。
    「入れおください」
    真壁がスむッチを䞊げる。
    換気扇が回り始めた。
    音は、さっきより䜎い。
    女は䞉十秒ほど矜を芋おいた。
    䞀床だけ音が揺れる。
    女は唇を噛み、カバヌの角を抌した。
    音が䞀定になる。
    それから脚立を降りた。
    把が抌さえおいた手を離すず、女は䞀床だけ頷いた。
    脚立を畳み、壁ぞ立おかける。
    そこで初めお、二人の顔を芋た。
    目の䞋に、薄い圱があった。
    真壁が蚀った。
    「ここに、い぀からいる」
    女は空のポリタンクを持ち䞊げた。
    通路の方ぞ歩く。
    途䞭で足を止め、真壁の手を芋た。
    手の先には、鉄扉の把手がある。
    「その扉は開けないでください」
    真壁は手を䞋ろした。
    「なぜ」
    「開けたら、閉たらなくなりたす」
    女は通路の奥ぞ消えた。
    しばらくしお、氎の入ったポリタンクを䞡手で抱えお戻っおくる。
    板の端ぞ眮いた。
    「氎は、どこから」
    把が聞いた。
    女はポリタンクの蓋を開けた。
    「取っおこないず、なくなりたす」
    把は、ポリタンクの底ず、通路の奥を芋た。
    それ以䞊は聞かなかった。
    真壁は、衣装ケヌス、手ぬぐい、䌏せた食噚、籠、延長コヌド、新しく塗られた配管を順に芋た。
    「埡堂さんには」
    把が聞いた。
    「境界ず人数。氎ず電気の出どころが先だ」
    「先に䞊げた方がよくないですか」
    「今䞊げたら、占有案件で止たる」
    真壁は腕時蚈を芋た。
    次の譊備巡回たで、十䞉分しかない。
    真壁は通路の方ぞ歩き出した。
    梯子の䞋で䞀床止たり、振り返る。
    女は、板の䞋から小さな噚を䞉぀取り出し、䞊ぞ䞊べおいた。
    ポリタンクを傟け、䞀぀目ぞ氎を入れる。
    二぀目にも入れる。
    䞉぀目を持ち䞊げ、真壁たちが立っおいた床の方ぞ少し動かした。
    それから、元の䜍眮ぞ戻した。
    氎は入れなかった。
    女は板の前ぞ座り、䞀぀目の噚を䞡手で持った。
    真壁は䞉぀目の噚から目を離し、梯子ぞ向かった。
    把が真壁の脇を抜け、先に䞊がった。
    真壁が䞃段目ぞ足をかけたずころで、䞋から換気扇の音がした。
    䜎く、䞀定だった。

    あずがき
    ここたで読んでいただき、ありがずうございたす。
    第4章ぞ続きたす。

    『存圚しない地䞻』は、毎週日曜21時30分に曎新したす。
    次回曎新2026幎8月9日日21時30分予定
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    創䜜や゚ッセむを䞭心に、日々感じたこずや物語を曞いおいたす。 人や組織、遞択、関係性をテヌマに、考えたこずを蚀葉にしおいたす。 掲茉しおいる内容は、個人の創䜜・芋解によるものです。 実圚する人物・団䜓ずは関係ありたせん。

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