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「文車妖妃のメソッド」第8話:真・嵐文メソッド

    第7話:メソッド審査

    「加藤くん、一人になりたければ30分限定でミーティングルームを使っていいぞ。誰でも使える部屋なんだ。サボり防止のために時間制限はあるけどな」

    「志村さん対策ですね」

    「ふうこん、嫌なこと言うねぇ」

    五十嵐(仮)の言葉が気になり、加藤はノートパソコンを持ってミーティングルームに移動する。意図をわかってくれたのか、五十嵐(仮)もあとに続いてきた。

    (やっと話せるな、加藤)

    「いや、僕はまだ怖いんですけど。なんだか話さなきゃいけない雰囲気だったから」

    (怖がらなくていいぞ。幽霊だけどな。気にするな)

    やっぱり幽霊だ。

    (なに、加藤に害を与えよう、呪ってやろうってわけじゃないから安心していい。それに志村が君を招集した元案は私の意見であるからな)

    「どういうことですか?」

    (審査員はふつうであれ。それが私の審査員選抜基準なのだ)

    「志村さんが言ってた『ふつう』の強みですね。なんだかいい気はしませんけど」

    (志村は私の言葉をそのまま使っているだけだ。そもそも本の編集者は一般的な感覚をもっていないと務まらない。だから加藤は逸材なのだ)

    「そういうもんですか」

    (そういうもんだ)

    幽霊との会話に違和感がなくなってきた己が不安になってくる。今、誰と何を話しているんだ?

    (本題に入ろう。加藤が見た審査マニュアル。あれは偽物だ。私の考えたものではない)

    「え、どういうことでしょうか。マニュアルの偽物なんて意味がないじゃないですか」

    (そうだな。志村が意図をもって書き換えたのだろう。本筋は合っている。が、あれは違う。私の考える審査の基準を教えてやる。話すから書き留めろ。なんせ私は幽霊だからペンが持てん)

    加藤はパソコンのメモアプリを起動し、タイピングを始めた。

    1.タイトルに惹かれないのは即落ち
    2.書き出しが魅力的でないのは即落ち
    3.エピソードが無ければ即落ち
    ※1と2と3が何よりも重要。9割をここで落とせ
    4.読んだ時に「!」もしくは「?」と思うか
    5.文は下手でOK
    6.1000円を出して、この記事を買いたいか?
    7.オチが印象的か
    8.どこかで読んだことがないか
    9.最後まで読めるポテンシャルがあるか
    10.わかりやすい誤字脱字はないか

    「違いますね。タイトルと書き出しの重要性は変わりませんけど、9割も落とすんですか?」

    (そうだ。志村は半分とか言っていたが、ベストセラー本を狙うならもっとシビアに選別すべきだ)

    「エピソードってなんでしょうか」

    (経験談、体験談だな。自分のものでなくてもいい。要は『思考』ではない文章のことだ。実際に起こった出来事だな)

    「考えたことじゃなく、実際にあったことって意味でしょうか」

    (ああ、それでいい。考えたことはな、必ず既に誰かが考えている。古代ギリシャの哲学者が既に考えていたりもする。思考は他人と重複するわけだ。読まれる文章はオリジナルでなければならない。だから思考よりエピソードが優先だ)

    「考えたことを書いてはいけないんですか?」

    加藤はいつのまにか五十嵐(仮)を受け入れ、しかも頼っている。

    (そうでもない。もっと言うと『思考とエピソード』はセットで扱うべきなのだ。思考は何かしらの出来事があり、そこから考えたものだ。思考だけ書くと、なぜ筆者はそう考えるのかが読者に伝わらないのだ)

    「なるほど。自分がおもしろいなって思う文章はたしかにそういう傾向ですね」

    (だろう? そして「!」と「?」だ。「!」は発見だな。読者は未知を知りたい。知っていることは退屈だ。「?」は疑問だ。なぜこの筆者はそういう考えに至ったのだろう。「?」のひとつは筆者からの問いかけだ。昨晩、志村が「おもしろい文章とはなにか」と聞いてきたであろう? あれも「?」だ)

    「聞いていたんですか」

    (暇だからな。よし、これで審査してみろ。困ったら私がアドバイスしてやる。加藤が思う以上に私はプロフェッショナルだぞ)

    「わかりました。志村さんに『嵐文メソッドは間違えていませんか?』と聞いていいもんでしょうか。

    (やめておけ。新人が言ったって説得力はない。それになぜ改変したかは私もなんとなく察しがつく)

    「そうですか。わかりました。やってみます。ありがとうございました」

    (私に慣れてくれてよかったぞ。なんせ幽霊だからな。私が見込んだ最強読者だけある。もし加藤が稀有な書き手なら、幽霊と出会うこんな特殊なエピソードなんてすぐに記事にしてしまうからな)

    「褒めてませんよね?」

    (私が見込んだって言っているであろう? 加藤で2人目だけどな)

    「2人目? 僕の前に誰かいたんですか?」

    (ああ、今は気にしなくていい。今考えるのは文章大賞の審査だ。さぁ、加藤のセンスを私に見せておくれ、「最強読者」よ)

    第9話:最強読者の称号

    第1話:https://note.com/u_yasushi/n/n50fe762ef006
    第2話:https://note.com/u_yasushi/n/n2aefa79ddb17
    第3話:https://note.com/u_yasushi/n/n7766d2efafdd
    第4話:https://note.com/u_yasushi/n/n14db0d504832
    第5話:https://note.com/u_yasushi/n/ne3df7df82afc
    第6話:https://note.com/u_yasushi/n/nce363b3a3b6d
    第7話:https://note.com/u_yasushi/n/n988d2fbbea88
    第8話:https://note.com/u_yasushi/n/nc7891dfdb586
    第9話:https://note.com/u_yasushi/n/nf24d6f4b8133
    第10話:https://note.com/u_yasushi/n/n7df18307a437
    第11話:https://note.com/u_yasushi/n/n3729eec39423
    第12話:https://note.com/u_yasushi/n/n986740e6ffa6
    第13話:https://note.com/u_yasushi/n/ne4d645a75975
    第14話:https://note.com/u_yasushi/n/na38f84e5a63f

    #創作大賞2024
    #お仕事小説部門

     
     
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