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AIで作ったゲームを調整するための「狙い・型・つまみ」の作り方

AIを使ってゲームを作っている人から、最近よく聞く声があります。「動くところまではすぐできるのに、面白くならない」「バランスを直してと頼んだら、別のところが壊れた」「どこを触れば面白くなるのか、自分でも分からない」。この記事を開いた方なら、どれか1つは覚えがあるのではないでしょうか。しかしこれは別にAIでゲームを作ろうが、プロが集団で作ろうが同じことが起きます。

私はゲーム業界に26年いて、100本ほどのタイトルに関わってきましたが、このことを知って実行したからと言っても、面白くなる保証がないのがゲームの世界だということも最初に伝えておきます。

難易度は高く、最初は机上の空論にはなるかもしれませんが、全て感覚で作るよりも、どうやって面白さが再現されているのか?をできる限り先人の巨人たちの言葉をお借りしてお伝えしてみたいと思います。

おもしろさは言語化できるのか?

では、ゲームの面白さは、そもそも言葉にできるのでしょうか。それを確かめるために、今回は桜井政博さん(スマブラ、星のカービィ)のYouTube「桜井政博のゲーム作るには」、任天堂の宮本茂さんたちのインタビュー、パックマンの岩谷徹さんの講演、海外のゲームデザインの理論や講演まで、できるだけ洗い出しました。

すでにご存知の方も多いですが、腕のある作り手ほど、「面白い」を言語化できており、プレイヤーに何を感じてほしいのか、そのためにどんな仕組みを置くのか、どの数値を動かすのかを、驚くほど具体的な言葉で話しています。

この記事では、ゲームを作る人が使える61個の「面白さ」を構成する要素をお届けします。自分のゲームでどれを選び、どう数値にしていくかまでのさわりを書いていきます。少し長くなりますが、お付き合いください。

この記事で持ち帰れるもの
・ゲームの面白さの要素61個の一覧(体験・仕組み・手触りの3つの層に分けた図)
・面白さを「狙い→型→つまみ→触って決める」の4段で言葉にする方法
・AIに作らせる前に書く「狙いのメモ(fun.md)」、設定ファイル、AIへの常設指示の、コピーして使えるテンプレート
・数値を「今・大きく・小さく」の3案で動かして詰める、調整の手順

Ⅰ|AIで作ったゲームは、調整でつまずきやすい

2025年2月、プログラマーのlevelsioさんが、AIを使って作ったブラウザのフライトシミュレーターを公開して、大きな話題になりました。これに対して、Braidの作者として知られるJonathan Blowさんは、画面に何かを出すのは簡単で、難しいのはゲームを良くすることだ、という趣旨の反応をしています。

Ok it's done, you can play it at

✈️ https://t.co/6TyHKaj8lb

I've never ever made a game before and just made my own flight simulator 100% with Cursor in I'd say 3 hours by just telling it what I wanted

It didn't go 100% smooth ofc, but 80% yes, a few times I had to go back to… https://t.co/pSQL37c8zf pic.twitter.com/hEdO7O6pPz

— @levelsio (@levelsio) February 22, 2025


同じ年には、AIを使ってゲームを作るゲームジャム(短期間でゲームを作る大会)が開かれ、1,000本以上が集まりました。1位の作品に付いた審査員のコメントは、車の物理挙動が気持ちいい、というものです。2位には「面白いけれど粗い」、3位には「操作しにくいところがある」というコメントが付いていました。

これが何を意味するか、お分かりでしょうか。AIを使って作っても、最後に評価を分けたのは、触ったときの気持ちよさでした。

日本の開発者が書いた記事にも、似た声が並んでいます。最後の80%から100%に仕上げるところで、余白や色やタイミングの微調整を言葉で伝えられない。ここを直すと別のところがおかしくなる、が何度も起きる。

1週間で経営シミュレーションを作らせたのに、手を入れたらバランスが崩れた。ボス戦の予備動作やダメージ量や隙は、文章の仕様だけでは作れない。どの声も、作るところではなく、面白くするところで止まっています。

私は、その原因が2つあると考えています。
1つ目は、本来は人が決めるべきところを、AIが決めてしまうことです。ジャンプの高さも、敵の数も、アイテムの出る確率も、何も言わなければ、AIはそれらしい数字を入れてくれます。ただ、その数字は「狙った面白さ」から逆算されたものではありません。狙いを渡されていないAIは、もっともらしい無難な値に寄りやすいので、狙った手触りから外れたり、どのゲームも似たような手触りになったりします。

2つ目は、面白さが言葉になっていないせいで、数値がプログラムのあちこちに直接書き込まれてしまうことです。これをハードコーディングと呼びます。「0.3」「12」「1.5」といった名前のない数字が散らばると、どれがジャンプの重さで、どれが敵の固さなのか、作った本人にも分からなくなります。そこへ「もう少し気持ちよくして」と頼めば、AIは関係のない数字まで一緒に書き換えてしまいます。「直すと別のところが壊れる」の大きな原因の1つは、ここにあります。

ただし、この2つは言い方を少し絞っておいたほうが正確です。

自動で決めること自体が悪いわけではありませんし、数値をプログラムに書くこと自体も悪くありません。後で紹介しますが、名作と呼ばれるゲームでも、手触りの数値はプログラムの中に書かれています。問題なのは、狙いを言葉にしないままAIに値を選ばせることと、名前のない数値が散らばることです。

ここで問題になるのが、その「狙い」をどう言葉にするかです。

Ⅱ|面白さは3つの層に分けると言葉にできる

ゲームの面白さを一言で説明しようとすると、たいてい行き詰まります。「爽快感がある」「やめられない」と言ってみても、それで何を作ればいいのかは分からないからです。ところが、いろいろな理論を並べて眺めてみると、面白さは3つの層に分けて考えると、うまく言葉になることが分かってきます。

まず考えるのは、プレイヤーに何を感じてほしいかです。緊張と緩和、発見、挑戦、上達の実感、なりきり。この記事では、こうした言葉の置き場所を体験の層と呼びます。

ただ、体験を決めただけでは、ゲームは動きません。その体験を生むために、どんなルールや数値を置くかを決める必要があります。リスクとリターン、報酬の確率、救済の仕組み。ここが仕組みの層です。そして最後に、押したボタンへどれくらいの速さで、どんな反応を返すかがあります。ヒットストップ、ジャンプの重さ、先行入力。ここを手触りの層と呼びます。

この分け方には元があります。
1つは、2004年にゲームデザイナーで研究者のRobin Hunickeさんたちが発表した「MDAフレームワーク」です。ゲームを、仕組み(ルールや数値)、それが動いたときの振る舞い、プレイヤーが感じる体験の3段で捉え、作り手は仕組みから作り、遊ぶ人は体験から感じる、という向きの違いを指摘しました。もう1つは、Steve Swinkさんの『Game Feel』という本です。操作したときの気持ちよさを、入力、反応、空間、演出などに分けて、試作できる形にしようとしています。

MDAフレームワークは超有名な記事とかありますけど今回は掲載しません。情報が多すぎると混乱しちゃいますので、より学習したい方は調べて見つけてみるといいかと思います。

この2つをつなぐと、体験・仕組み・手触りの3層になります。

分け方自体は私の整理ですが、材料はこうした理論から借りています。MDAとの違いも書いておくと、MDAはゲームを分析するための枠組みなので、仕組みと、それが動いたときの振る舞いを別の層に分けています。

この記事では、その2つをまとめて「仕組み」と呼び、そのうえで、操作に対してどんな反応を返すかを、AIで調整しやすい単位として「手触り」に分けました。手触りの数値と、確率や報酬のような仕組みの数値とでは、触る日も、確かめ方も違います。

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図の下半分には、4つの段を置きました。面白さは、狙う体験を選んで一文で書き、その体験を生む仕組みの型を選び、動かす数値に名前と単位を付け、最後に数値を回して良い値を決める、という順で形になっていきます。このうち3段目までは言葉にできますが、4段目の「良い値」だけは、触らないと分かりません。

この「最後だけは触らないと分からない」が、今回いちばん伝えたいことです。私は、ゲームの面白さは、計算して入れた面白さの芯を、最後は手触りで確かめて、良いと思えるまで磨き上げることで完成すると考えています。言い換えると、狙い・型・つまみまでを言葉で決めて、値は手で決める、ということです。

まずは、体験の層から見ていきます。

Ⅲ|体験の層は、狙いを決めるための言葉

体験の層は、直接いじることができません。この記事で扱うゲームプレイと操作感の範囲でいえば、体験は、仕組みと手触りの数値を動かした結果として、プレイヤーの中に生まれるものだからです。もちろん、物語や映像、音、人とのやりとりから生まれる体験もあります。いずれにしても、作り始める前に「どれを狙うか」を決めて、言葉にしておく必要があります。

いちばん分かりやすいのは、緊張と緩和でしょう。

桜井政博さんは「ギュッとしてパッと解消」という回で、ストレスを与えて、それを気持ちよく解消させることを、面白さの核として説明しています。敵や障害物やパズルで一度ギュッと締めて、倒したり解いたりした瞬間に、パッとほどくわけです。

この考え方は、新しいものではありません。1980年のパックマンにも、追われ続けるだけではない波があります。モンスターには、自分の持ち場をうろうろする時間と、追いかけてくる時間があり、パワーエサを食べれば、追う側と追われる側が入れ替わります。

いくつかの面の後には、コーヒーブレイクと呼ばれる短い休憩のデモも入ります。作者の岩谷徹さんも講演で、展開が変わることや、プレイヤーが主導権を握れることを、面白さの要素として挙げています。私はここに、ずっと緊張させ続けるのではなく、張りつめた状態に切れ目を入れる、という設計を見ます。

2008年のLeft 4 Deadというゾンビのゲームは、その波をさらに仕組みにしました。AIディレクターと呼ばれる仕組みが、プレイヤーがどれだけ追い込まれているかを推定しながら敵の出し方を変えていて、開発者の講演資料では、緊張の山を数秒保ったあと、30〜45秒ほど休ませる作りが示されています。

宮本茂さんも、New スーパーマリオブラザーズ Wii のインタビューで、限界ばかりを遊ばせると興奮はしても気持ちよくはない、緊張感はそこそこがいい、と話しています。時代もジャンルも違う3つの例が指しているのは、同じことです。プレイヤーをずっと苦しめることではなく、緊張と解放の波をどう作るかが、体験を決めています。

体験の層には、ほかにもいくつかの言葉があります。

ゲームデザイナーのRaph Kosterさんは『A Theory of Fun』で、面白さとは脳がパターンを覚えていくときの快感で、覚え尽くすと退屈になる、と書きました。難しさと自分の腕前が釣り合って、不安にも退屈にもならない状態は「フロー」と呼ばれています。自分から寄り道したくなる「発見」については、宮本さんがスーパーマリオギャラクシーの開発で、右に進むのが当たり前のところで、10回に1回くらいは左にオマケを置いて、振り返った人へのご褒美にする、という原則を言葉にしています。

これに挑戦、競争、自己表現、ドラマ、没頭、なりきりなどを合わせて、体験の層には19個の言葉を並べました。桜井さんの話からは、良い行いを歓声や紙吹雪で認める「褒められる」、先に何かありそうだと思える「先を見たい期待」、観戦している側が片方に気持ちを賭けられる「肩入れ」なども加えています。自分のゲームで狙うのは、この中から1つか2つ、多くても3つで十分です。全部を狙おうとすると、どれも薄くなってしまいます。

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Ⅳ|仕組みの層で、面白さの型を選ぶ

体験を決めたら、次はそれを生む型を選びます。ここからが、自分で数値を動かせる層です。

いちばん有名な型は、リスクとリターンでしょう。桜井さんは、ゲーム性とはリスクを冒してリターンを得ることだ、と定義しています。例に挙がっているのはスペースインベーダーで、自分の砲台が敵に近づくほど弾に当たりやすくなりますが、そのぶん敵を撃ちやすくなります。

上の段の敵ほど得点が高く、敵が減るほど動きは速くなるので、危ないことをした人ほど得をするようにできています。そして、リスクとリターンが近くにあって、大きさが釣り合っているほど面白い、と桜井さんは言っています。

Civilizationの作者であるSid Meierさんは、2012年の講演で、ゲームは面白い選択の連続だと話しました。面白い選択には、得るものと失うものがあること、状況によって価値が変わること、結果を予想できるだけの情報があること、という条件があります。強い剣は高い、速い車は曲がりにくい、今すぐ効くものを取るか、将来のために投資するか。こうした迷いがあるから、プレイヤーは考えます。

少し意外な型もあります。桜井さんは、浮遊感は落ちるリスクがあって初めて生まれる、という話をしています。気持ちいい仕様を入れたら、それと反対の要素も一緒に入れる、という考え方です。スプラトゥーンの開発者も、インタビューで同じ構造を語っていて、人の姿ではインクを塗れ、イカの姿では自分のインクの中を速く泳げる、という損得の関係があるから、壁を塗ることに意味が生まれたそうです。

報酬の設計では、確率の感じ方に気をつける必要があります。ゼビウスの遠藤雅伸さんは講義の中で、確率は「まだ出ていない人」の体感で決まる、という話をしています。少し計算してみましょう。

出る確率が100分の1のアイテムを100回引いたとき、1回も出ない確率は、0.99を100回かけた数で、約0.37になります。つまり、100回引いても、およそ3人に1人はまだ出ていません。作り手が「100回引けば出る」と思って決めた数字が、プレイヤーの3人に1人には理不尽に見えるということです。

バランスの取り方にも型があります。桜井さんは「平均と平凡は同じ」という回で、公平さだけを追うと、全部のキャラクターが同じ味になってしまう、と話しています。スマブラSPでは、長所を削らずに個性を残したまま、勝ち目だけをそろえる調整をしていて、報道によると、オンライン対戦の勝率は87体のキャラクターが47%から51%の間に収まっていたそうです。

救済の仕組みも型の1つです。Hadesというアクションゲームのゴッドモードは、オンにすると受けるダメージが20%減り、負けるたびに2%ずつ軽くなって、最大で80%まで減ります。難しさは本体に残したまま、つまずいた人だけを少しずつ助ける作りです。桜井さんも、クリアできずに止まってしまうより、救済があったほうがいい、という立場です。

もう1つ、見落とされやすい型に余白があります。リズム天国は、お手本のリズムをそのまま返すことを求めるゲームで、余計にボタンを押すと減点されます。ゲームについてのブログ「AINAMOOR」では、このシリーズを初めて遊んだ筆者が、意外に窮屈なゲームだったと書いています。

一方で、リズムゲームの元祖とされるパラッパラッパーには、お手本を土台に自分なりの入力を重ねる「アドリブ」があり、リズムに乗れていれば、より高い評価を狙えます。スペースチャンネル5やグルーヴコースターも、譜面の空白に隠しの入力を置いて、音楽に乗って自分から押すように誘っています。

ただ、リズム天国の作り手には、はっきりした狙いがありました。任天堂の「社長が訊く『リズム天国ゴールド』」には「リズム感は鍛えられる」という章があり、ゲームボーイアドバンス版の開発にあたって、開発スタッフ数名が上京してダンスレッスンを受けた話まで出てきます。

プロデューサーのつんく♂さんは、そのレッスンを境に、スタッフから出てくるゲームがまったく変わったと話しています。そう考えると、お手本どおりを求めるのは、訓練という狙いにぴったり合った作りです。窮屈に感じるかどうかは、プレイヤーが訓練を求めているのか、自由に遊びたいのかで変わってきます。

同じ仕組みでも、狙う体験によって良し悪しが逆になる。

これが、体験の層を先に決めなければいけない理由です。仕組みの層には、ほかにも敵の性格づけ、盛り上がりの曲線、強さと値段のつり合いなどを合わせて、25個の型を並べました。

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Ⅴ|手触りの層は、フレーム単位の数値でできている

3つ目の手触りの層は、いちばん数値にしやすく、それでいて、いちばん触らないと決まらない層です。

少しだけ用語の説明をしておきます。ゲームの画面は絵を1枚ずつ切り替えて動いていて、この1枚をフレームと呼びます。1秒間に60枚を切り替えるゲーム(60fps)なら、1フレームは60分の1秒、約0.017秒です。手触りの話はほとんどがこの単位で語られるので、この記事でも「〜フレーム」と書くときは、60fpsを前提にしています。

代表的なのがヒットストップです。攻撃が当たった瞬間に、ほんの一瞬だけ画面を止める演出のことで、これがあるだけで手応えが大きく変わります。桜井さんは「8つのヒットストップ仕様」という回で、スマブラSPのヒットストップの作りを明かしていて、たとえば止める長さは攻撃力に比例させ、止まっている間は、やられた側を大きく、攻撃した側を小さく揺らしているそうです。こうした細かな決まりが、いくつも組み合わさっています。私たちが「ヒットストップ」と一言で呼んでいるものも、実は何本ものつまみでできているのです。

ジャンプも、手触りを決める大きな要素です。桜井さんは、ゲームごとにジャンプの性格がまったく違うことを説明しています。マリオは頂点でふっと止まって速く落ち、ボタンを押している長さで高さが変わります。魔界村は、一度跳んだら空中で向きを変えられません。スマブラは上昇をとても速くして、反応が少し遅れても間に合うようにしているそうです。

2018年のCelesteという2Dアクションゲームは、プログラムの一部が公開されていて、手触りの数値を実際に見ることができます。足場から落ちた後でも0.1秒、つまり約6フレームの間はジャンプを受け付けますし、天井の角に頭が少し引っかかったときは、4ピクセルまでなら横にずらして通してくれます。ジャンプの頂点付近では重力を半分にして、ふわっと止まる時間を作っています。作者のMaddy Thorsonさんは、こうした工夫を、プレイヤーを気づかれないように助ける「寛容さ」として説明しています。

演出で手応えを足す方法もあります。2012年の講演「Juice it or lose it」では、地味なブロック崩しに、画面の揺れや音やアニメーションを1つずつ足していくと、同じルールのまま見違えるほど気持ちよくなっていく様子を、その場で実演しました。Vlambeerというインディースタジオの講演「The Art of Screenshake」でも、弾を大きくする、撃ったときに少し下がる、画面を揺らす、一瞬止める、破片を残すといった30ほどの工夫を、1つずつ足していく様子を見せています。

手触りの層には、こうした要素を17個並べました。体験の19個、仕組みの25個と合わせて、全部で61個になります。

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3枚の図を並べてみると分かるように、自分で動かせる数値の大半は、仕組みと手触りの層にあります。なお、この61個は、ゲームの面白さを網羅した公式の分類ではなく、作るときに使うための、私の実務用の分類です。

Ⅵ|良い値は、触らないと決まらない

ここまで読んで、「それなら、正しい数値を調べて入れればいい」と思った方もいるかもしれません。

しかしこれが、そう簡単ではありません。

桜井さんは「フレームを計れるようになれ!」という回で、担当者が20フレームだと言っていた設定が、実際に見るとずっと短かった、という話をしています。仕様書に書いた数字と、画面で見たときの感じ方はずれるので、作り手は自分の目でフレームを測れるようになるべきだ、というわけです。

企画書には肝心の面白さはあまり出てこない、と桜井さんは「企画は強火でザッと仕上げる」の回で言い切っています。例に挙がっているモンスターハンターも、企画の言葉にすれば「モンスターを狩って、素材で装備を作る」だけで、新しさはありません。実際の良さは、磨き込みで決まります。

Sid Meierさんも、試したアイデアのうち3分の1以上は面白くなかったので削った、と話しています。紙の上では判断できず、遊んで削るしかなかったのです。

しかも、作り手の感覚そのものも疑わなければいけません。桜井さんは、開発者はゲームに慣れすぎているので、開発者がなんとか勝てる難しさは、一般の人には難しすぎると言います。

だから片手で遊ぶなど、自分にハンデを付けて調整するそうです。宮本さんも、自分は立体の空間に慣れすぎていて初心者の気持ちが分からないので、いろいろな人の反応を見るようにしてきた、と話しています。

その宮本さんが、25年以上ずっと直感で決めてきた良し悪しを、スーパーマリオギャラクシーのときに初めて「原理」として言葉にした、という話があります。試遊しながら「ここでこんなに簡単にやられるのはおかしい」と感じたことを、何を許して何を許さないかという原則に書き起こし、関係者全員にメールで共有したそうです。触って違和感を見つけ、それを言葉にし、その原則に沿って数値を直し、また触る。触ることと言葉にすることは、どちらか一方ではなく、行ったり来たりするものなのです。

私自身の失敗談

私自身がこの手触りの天才芸を感じたのは、キャラクターの操作感を作った時です。例えば、マリオカートを遊んだことがある方なら、分かるかもしれませんが、マリオカートはキャラクターに合わせて機体(カート)の性能が変わりますが、軽いキャラクターほど曲がりやすく操作性がすぐに反映される初心者寄りに、重いキャラクターほど操作性が反映されづらく最高速寄りにする傾向があります。

キノピオのような軽いキャラクターは、ハンドルを切るとすぐに向きが変わりますが、ドンキーコングのような重いキャラクターは、ハンドルが重たく、曲がり始めるまでに少し間があるように感じます。

そのかわり、最高速度はドンキーのほうが高い。曲がりにくい重いキャラクターを上手に操れる人ほど、速く走れるという設計です。

仮に、自分のゲームで軽量・中量・重量の3つの機体を作り、それぞれに特徴を持たせるとします。仕様の段階では、まず重さを数字で決めるとします。
ところが、その数字をゲームの中で動かして、コントローラーを握って操作したときの重さや、ハンドルの効きにくさは、実際に触って微調整を重ねないと、はっきりした差になりません。このままでは通常、ただ操作性がどんどん悪くなるなと思うことになり、気持ちいいと思える仕様や設計前落とし込めてないままになってしまいがちです。

ちょっと事例を変えます。
3Dのゲームで人のキャラクターを動かすときも、同じことを強く感じます。私は、カプコンの3Dゲームのキャラクター操作(特に後ろから見たキャラクターの操作性の快適性と気持ち良さ)は、業界でいちばんストレスなく動かせると思っていて、動かしているだけで気持ちいいと感じます。

ところが、あの挙動を自分で再現しようとして、数字の上で操作の制御を組んでも、あの気持ちよさは一生出せませんでした。なんとか近づけられたとしても、アクションをしていないときの歩きと走りくらいで、そこに刀で斬る、物を投げるといったアクションを絡ませると、愕然とするほどの差が出ます。
カプコンのゲームには、想像を超えるほどの計算と調整が入っているのだと、身をもって知りました。

そのとき私は、軽快なアクションは無理だと思って、3Dアクションを作ろうとしたところを諦めて、簡単な脱出ゲームにするところまで、ゲーム性を変えたぐらいでした。(開発期間が少なすぎて調整する時間がなかったため)

そして、そこで初めて捜査に関する「重さ」レベルも、もっと言語化して細かく分けて考えなければいけないと感じました。

例:「重い」を、触れる数字にする

上ではあえて「重さ」という言葉を使いましたが、この重さ、私たちの世界では単位で表すことができますが、ゲームで体験する「重さ」とは非常に曖昧な上、AIにも仲間にも伝わりません。

ここで言う体験した「重さ」は、物理の質量のことではなく、プレイヤーが「重い」と感じる操作感のことです。その正体は、入力してから画面の中の物がどう付いてきて、どう止まるかの組み合わせで、走り出しの速さや、止まるまでに滑る距離、曲がりやすさといった、いくつかの調整可能なつまみに分けて考えられます。

1つだけ例を挙げると、「スティックを倒してから、狙った速さの9割に届くまで何秒かかるか」というつまみがあります。軽い機体なら0.1秒、重い機体なら0.5秒、といった具合です。「加速度を0.8にする」と決めても、それがどんな感触なのかは作った本人にも分かりませんが、「0.5秒で届く」と決めれば、どんな感触を狙っているのかが、人にもAIにも伝わります。
その秒数を、実装に合う数値に置き換えるのは、AIなり自分えやりつつ、最後は人の手で体験を作り込めばいいということです。

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カプコンのゲームを触って私が感じたことも、ここで少し説明できるかもしれません。実際の作りを知っているわけではないので、あくまで操作感からの仮説ですが、重いのにストレスがない操作は、見た目の反応と、移動の反応を分けることで作れるのだと思います。

スティックを倒した瞬間に、体を傾けたり振り向き始めたりといった見た目はすぐに返し、実際の位置や速さだけが、少し遅れて付いてくる。見た目がすぐに返るので、プレイヤーは入力を無視されたとは感じず、遅れを「重さ」として受け取るのではないでしょうか。

もちろん、つまみを決めたからといって、それで気持ちよくなるわけではありません。最後は、先ほど書いたとおり、触って詰めるしかありません。それでも、何を触ればいいかが分かっているだけで、詰める速さはまったく変わってきます。

触って、言葉にして、また触る。この往復を、AIで作るゲームでも回せるようにするには、作り方を少し変える必要があります。

Ⅶ|AIに作らせるときは、調整する値を切り分けておく

 
 
職場で詰んだと感じている人のための仕事設計術|評価・キャリア・報酬の構造を自分で動かす方法を発信||ゲーム業界26年・100タイトルの現場から。ゲームプロデューサー兼マーケッター|

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