
4_ゲームの発表日は、いつ決めるべきか|発売まで告知を出し続けられる時期を見極める
本記事は、ゲームを作って売る立場にある人に向けて書いています。個人開発者、小規模スタジオの代表、プロデューサーやディレクターです。
SteamのComing Soonページ、事前登録、最初の発表、イベントへの応募。こうした「告知を始める日」を、いつ決めるべきか。その実務の話を書きます。
前回の記事では、逆算とは何を先に決めることかを書きました。誰に何を判断してもらうのか。いくらまで賭けられるのか。どこでお金を回収するのか。そして4つ目に、どうやって広まるのかが来る、と書いて終えました。
今回は、その4つ目です。
先に断っておきます。ここに書くのは、公開されている資料と、私が20年以上ゲームの現場で見てきたことからの解釈・提案です。ゲームの種類、既存ファンの有無、販売形態、発売までの期間によって、最適解は変わります。
はじめに|発表日は、準備ができた日ではない
ゲームの発表日は、何を基準に決めていますか。
現場でよく見るのは、次の3つです。発表用の素材ができたから。大きなイベントがあるから。早く出したほうがいいと聞いたから。
どれも理由にはなります。ただし、それだけでは判断基準になりません。なぜなら、発表した瞬間から、発売までの時間を埋め続ける仕事が始まるからです。
発表は、カレンダーに印を付けるだけの行為ではありません。「このゲームは、ここから発売まで動き続けます」と外へ約束することです。
この記事で渡したい結論は、ひとつです。
告知を始める日は、「いつ始められるか」ではなく、「発売まで毎月、出せる材料を途切れずに置けるのはいつからか」で決める。
ただしその期間は3ヶ月よりも短すぎないこと。
重要なのは、始めたあとでネタを考えることではありません。始める前に、発売までどれだけネタが出せそうかを想定しておくことです。
Ⅰ|一番危ないのは、発表してすぐ発売すること
最初に、強く書いておきます。
個人開発や小規模チームで、既存の大きなファン基盤がないなら、パッと発表して、パッと発売するのは、いちばん避けたい動きです。
情報発信が苦手だから、告知期間を短くする。宣伝が得意ではないから、完成したらすぐ売る。この判断は、苦手な仕事を減らしているように見えます。しかし実際には、ゲームを知ってもらい、興味を持ってもらい、買う理由を育てる時間を、まるごと捨てています。
いまは、ゲームを出せば店頭で見つけてもらえる時代ではありません。Steamにページを出し、ウィッシュリストを集め、体験版やPlaytestで反応を見て、配信者やメディアやコミュニティと接点を作り、発売日に「買う理由」が残った状態を作る必要があります。
発売直前に1本だけトレーラーを出しても、そのゲームを初めて知った人は、判断材料が足りません。誰が遊ぶゲームなのか。何が面白いのか。本当に発売されるのか。似たゲームと何が違うのか。そうした疑問に答える時間がありません。
もちろん、例外はあります。すでに大きなファンベースがある。続編である。強いIPを持っている。イベントで大きな露出が確定している。こうした条件が揃っているなら、短い助走でも成立することがあります。
ただ、初作や小規模チームが、その例外を前提にしてはいけません。情報を出すことを怠るのは、宣伝が下手という程度の話ではない。売上を作るための時間を、最初から放棄する行為です。今の市場では、爆死に最も近づく動きだと私は思っています。
Ⅱ|「早く出せ」は正しい。ただし、条件がある
Steamのマーケティングを分析しているChris Zukowskiは、SteamのComing Soonページをできるだけ早く出すべきだと書いています。
彼が挙げる前提は明快です。ジャンルが決まっている。アートの方向が固まっている。見せられる環境が複数ある。Steamで言うカプセル、つまり店頭で最初に見える看板の絵と、ゲームプレイを見せる紹介動画がある。その状態なら、最終版の完成を待たずに出す。
理由も実務的です。開発者は「あと1か月、あと1か月」と言い続け、Coming Soonページをいつまでも出さないからです。Steamの公式ドキュメントでも、ページを公開すると認知を作り、ウィッシュリストを集め、発売時には登録者へメールを送れると説明されています。
早くページを出すこと自体には、私は賛成です。
ただし、「早く出せ」は、出したあとに動き続けることまで含んだ助言です。ページだけ早く出して、その後に何も出せないなら、同じ言葉でも意味が変わります。
早く出すほど、認知を作る時間は増えます。同時に、発売まで供給し続ける期間も増えます。ここを切り離して考えてはいけません。
Ⅲ|発表したら、止まれない
私自身、発表日を大きなイベントに合わせ、同時に事前登録を始めた直後に、クリティカルな延期案件が浮上した経験があります。
発表は済んでいる。事前登録も始まっている。そこから一度なかったことにするのは、現実的ではありません。結果として、発売までの助走は1年に伸びました。
事前登録は最終的に50万アカウントまで積み上がり、発売後は400万ダウンロードまで届きました。ここで自慢をしたいわけではありません。言いたいのは、延期で1年空いても、発売まで情報を出し続けたから持ちこたえた、ということです。
ただし、1年が最善だったとは思っていません。長い助走にはコストがあります。先に登録した人は、登録したことを忘れます。似たゲームが出ます。話題の中心は移ります。プラットフォームの状況も変わります。
登録数のグラフは、放っておいても大きく減らないかもしれません。しかし、数字と熱は別です。登録数が増えている間にも、先に興味を持った人の熱は下がります。
だから発表とは、止められない約束です。延期が起きても、反応が薄くても、素材が想定どおりに揃わなくても、発売まで何かを出し続ける必要が出ます。
始める前に考えるべきなのは、「今日、発表できるか」ではありません。
発売までのあいだ、何を出し続けられるか。
Ⅳ|告知開始日の基準は、材料の数で決める
私がいま告知開始日を決めるなら、最初にやるのは日程を決めることではありません。発売までの月数を出し、その各月に置ける材料を先に並べることです。
ここでいう材料は、新情報だけではありません。同じゲームでも、違う役割の見せ方があります。
ゲームの面白さを一目で伝える材料。短いプレイ動画、GIF、スクリーンショットです。
違いを伝える材料。他のゲームと何が違うのか、どんな遊びができるのかを見せるものです。
信頼を作る材料。実機映像、開発進捗、体験版、テスト結果などです。
参加を作る材料。Playtest、体験版、アンケート、Discord、試遊イベントです。
人に話したくさせる材料。配信で盛り上がる場面、共有したくなる成果、比較・対戦・協力の瞬間です。
発売の理由を作る材料。発売日、価格、ウィッシュリスト、レビュー、セール、アップデートです。
大事なのは、毎月まったく新しい大発表をすることではありません。同じゲームでも、何を見せるか、誰に何をしてほしいかを変えれば、材料になります。
ただし、材料は後から魔法のように湧いてきません。動画を作る。体験版を整える。テスト環境を用意する。配信素材を作る。イベントに出る。すべてに開発時間、人手、予算が必要です。
だから、ネタがどれだけ出せそうかは、最初から想定しておかなければならないのです。
ここからは、材料をどう棚卸しし、いつなら発表してよいかを判定し、延期が起きたときにどう告知計画を組み替えるかを、実務の手順として書きます。