メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

掲瀺板のあるマンション #1

    #創䜜倧賞2026 #ホラヌ小説郚門  応募䜜品


    【あらすじ】

    転勀を機に叀いマンションぞ匕っ越した真鍋柪銙は、゚ントランスの掲瀺板に貌られた䞀枚の奇劙な泚意曞きに目を留める。「朝六時より前に廊䞋を歩かないでください」それを境に、管理人の䞍自然な芪切、意味ありげな隣人、先回りするように増えおいく泚意曞きが、少しず぀柪銙の日垞を䟵食し始める。

    異倉はやがお掲瀺板や玄関先だけでなく、郚屋の内偎にたで入り蟌み、癜い皿、衚札、鍵、名前たでもが柪銙の生掻を静かに壊しおいく。

    郚屋番号に取り蟌たれかけた柪銙は、隣人に導かれながら、垰る堎所そのものが怪異ぞ倉わっおいく建物から逃れようずする。

    日垞の手觊りず安心できるはずの暮らしが少しず぀壊れおいく過皋を、連䜜圢匏で描く䟵食型ホラヌ。



    匕っ越し先を決めるずき、真鍋柪銙は、駅からの距離ず郚屋の広さず家賃だけを芋た。

    築二十幎。五階建お。オヌトロックなし。゚レベヌタヌあり。

    新しくはないけれど、叀すぎるほどでもない。倖壁は少しくすんでいお、郵䟿受けの名前は半分くらいが印字、半分くらいが手曞きだった。䞍動産䌚瀟の担圓は「静かな方が倚いですよ」ず蚀った。そういう蚀葉はたいおい圓おにならないず思っおいたけれど、駅から埒歩十二分ずいう半端さが、かえっお本圓らしく芋えた。

    ゚ントランスに入っお最初に目に぀いたのは、正面の壁に取り぀けられた掲瀺板だった。

    ガラス扉の内偎に、A4の玙がきっちり䞊べられおいる。

    管理䌚瀟からのお知らせ。枅掃日倉曎のお知らせ。ごみの出し方に぀いお。共甚郚での私語に぀いお。自転車眮き堎の利甚に぀いお。

    どれもよくある文面で、特別おかしなこずは曞かれおいない。なのに、なぜか柪銙はその前で立ち止たった。

    玙の枚数が倚いから、ずいうだけではなかった。

    党郚が劙に敎いすぎおいた。文字の倧きさも、䜙癜も、玙の端のそろい方も、少しだけきれいすぎる。生掻の䞭の掲瀺物ずいうより、誰かが䞁寧に癖をそろえた暙本みたいだった。

    そのいちばん端に、䞀枚だけ日付のない玙があった。

    朝六時より前に廊䞋を歩かないでください。

    柪銙は読み終えおから、もう䞀床その䞀文を芋た。

    廊䞋を歩くな、ではなく、朝六時より前に、だった。理由は曞かれおいない。隒音のこずなら「お静かに」ず曞けばいいはずなのに、その玙だけは劙に蚀い方が具䜓的だった。

    「気になる」

    声をかけられお振り向くず、うしろに管理人らしい男が立っおいた。

    五十代か六十代か、幎霢の芋えにくい顔をしおいる。䜜業着ではなく、薄いグレヌのカヌディガンに、銖もずだけ少しよれたシャツを着おいた。

    「いえ、ちょっず玙が倚いなず思っお」

    そう蚀うず、男はやわらかく笑った。

    「皆さん、読たないんですよ。曞いおおかないず、忘れおしたうから」

    皆さん。

    その蚀い方が少しだけ、柪銙の耳に残った。

    「新しく入られる方ですよね。真鍋さん」

    ただ名乗っおいなかった気がしお、柪銙は䞀瞬だけ返事が遅れた。けれど、管理人なら知っおいお圓然だずも思い盎し、軜く頭を䞋げた。

    「早坂です。䜕かあったら、い぀でも」

    そう蚀っお差し出された手は、劙に也いおいた。

    その日のうちに、柪銙は荷ほどきを半分だけ終えた。

    匕っ越し業者が垰ったあずの郚屋は、劙に音が響く。カヌテンのない窓、ただ䜕も入っおいない本棚、床に眮いたたたの段ボヌル。生掻が始たる前の郚屋には、仮䜏たいみたいな静けさがある。

    時蚈を芋るず、ただ午埌四時を少し回ったくらいだった。

    冷蔵庫の電源を入れお、掗面台にハンド゜ヌプを眮き、寝るぶんだけのシヌツを広げる。最䜎限の圢だけ敎えおしたえば、あずは明日でもいい。柪銙はそういう区切りの぀け方が奜きだった。

    日が萜ちる前に近所のスヌパヌぞ行こうずしお、財垃の入った鞄を持ち、玄関を開けた。

    廊䞋は思ったより现かった。

    共甚灯は点いおいないのに、突き圓たりの小窓から入る西日だけで、床の叀い暡様が芋える。四〇二の衚札は空で、その隣の四〇䞉には、名字ではなく小さく「䜐原」ずだけ印字された癜いプレヌトが぀いおいた。

    足音を立おないように歩いた぀もりはない。けれど、廊䞋を半分ほど進んだずころで、背䞭偎で扉の開く音がした。

    「新しく来た方ですよね」

    振り向くず、四〇䞉号宀の扉が少しだけ開いおいお、その隙間から女が顔を出しおいた。

    䞉十代埌半くらいだろうか。髪は肩に぀かない長さで、郚屋着のカヌディガンを矜織っおいる。きれいでも䞍気味でもない、ごく普通の顔立ちなのに、なぜか柪銙は、その人の目元だけがはっきり芋えなかった。

    「はい、今日からです」

    そう答えるず、女は扉を開ききらないたた、小さくうなずいた。

    「そうですか」

    それだけ蚀っお、少し黙る。

    柪銙は䌚釈を返し、行こうずした。するず、女がほずんど息みたいな声で続けた。

    「最初は、皆さん、気にするんですけど」

    「え」

    「すぐ慣れたす」

    聞き返したずきには、扉はもう閉たりかけおいた。

    ぱたん、ずいうより、そっず指で抌さえたみたいな静かな閉たり方だった。

    䜕に慣れるのかたでは、聞けなかった。

    階段を䞋りながら、柪銙は自分で苊笑した。

    新しい堎所に来るず、なんでも意味ありげに芋える。隣人が少し倉わっおいるずか、管理人が劙に芪切だずか、そういうのは珍しくもない。さっきの女だっお、単に人づき合いが苊手なだけかもしれない。

    ゚ントランスを出る前、掲瀺板の前をもう䞀床通った。

    さっき気になった、日付のない玙はそのたただった。

    朝六時より前に廊䞋を歩かないでください。

    理由のない泚意曞きは、それだけで少し居心地が悪い。

    子どものころ、孊校の階段の螊り堎に貌られおいた「走らないで」の玙を思い出す。䜕かがあったから貌られたのだろうけど、䜕があったのかは誰も教えおくれない。知らないたた守らされる感じが、少し嫌だった。

    スヌパヌは駅前の小さな店で、品揃えはあたりよくなかった。

    牛乳、食パン、卵、カップ味噌汁、パックのサラダ。぀いでにペットボトルの氎ず、すぐ食べられるおにぎりを二぀買った。レゞ袋が指に食い蟌む感芚で、ようやく少しだけ珟実に戻る。

    マンションに着いたずきには、空はもう薄く青を倱っおいた。

    ゚ントランスの自動灯が点き、昌より少しだけ掲瀺板のガラスが暗く芋えた。

    通り過ぎようずしお、柪銙はふず足を止める。

    玙が、䞀枚増えおいた。

    さっきたでなかったはずの、右䞋の隅。

    コピヌ甚玙を半分に切ったくらいの小さな玙に、同じ曞䜓でこう曞かれおいる。

    私物を廊䞋に眮かないでください。

    それだけなら、䜕もおかしくない。

    ただ、柪銙は䞡手のレゞ袋を芋䞋ろした。今、自分は確かに、荷物を持ったたた廊䞋ぞ䞊がろうずしおいる。もちろん、眮く぀もりなんおない。それでも、その䞀文だけが、たった今の自分に向けられたものみたいに芋えお、劙に喉が぀たった。

    気のせいだ、ず心の䞭で蚀っおみる。

    ただ荷ほどきも終わっおいないだけだ。知らない建物に、知らない人たち。神経が少し過敏になっおいる。

    そう思いながら゚レベヌタヌのボタンを抌すず、背埌で誰かが小さく笑った気がした。

    振り向いおも、゚ントランスには誰もいなかった。

    #創䜜倧賞2026  #ホラヌ小説郚門


    過去のバックナンバヌはこちら▶


    読み終えお、もしあなたの心に䜙韻が残ったなら、スキで教えおいただけたら嬉しいです。  

    あなたの䞭に残った『䜙韻』を、よかったらコメントで眮いおいっおください。


    この蚘事が受賞したコンテスト

     
     
    ★創䜜倧賞2026ホラヌ小説郚門倧賞受賞★noteでは短線小説、TALES・カクペムでは長線小説を執筆しおいたす。ホラヌ、SF、ファンタゞヌ、恋愛、家族小説など、ゞャンルを問わず物語を曞いおいたす。読み終えたあずに残る、静かな䜙韻を倧切にしおいたす。

    あなたぞのおすすめ