
教師を辞めてから、「一生懸命」な人が眩しくなった。
俺は学校運営とか、不祥事の後始末に頭悩ましてるお前より、授業に熱いお前が好きだったよ
いつものバイト終わり、退勤直後に友人の深井から電話がかかってくる。飲みの誘いだった。すぐに折り返し、日程を調整することになったが、思えばこの深井との出会いも数奇なめぐり合わせだった。
青い時代

私の大学は教職課程に力を入れている。とは言うものの、社会科はそこまででもなく、実際に採用試験を受ける人は少なかった。また、大体の大学では三年生頃になると、教育法という名で模擬授業を実際に行うことになる。班で行ったり、個人でやったりして、授業のセンスを磨くっぽいことをする。
そうはいっても、所詮大学生。文系大学生なんてお金を持っている中学生みたいなもので、形だけで模擬授業を終わらせたり、授業案を使いまわして終える人も多かった。そんな中、私はとことん授業力も教科の専門性も磨き上げたいと思い、毎度一から作り直したり、教員から一コマもらって模擬授業をさせてもらったりすることもあった。そして、その授業に批判的にコメントをくれたのが深井だった。
他学部であったものの、教育法の中で積極的に質問や発言をする彼はかっこよかった。冷笑でもなく、真っ直ぐな教育への熱意を感じたからである。きっと同じ教員で同じ職場なら、絶対に楽しくなる人物だろうと思いつつも、結局当時は進路の違いもあり、深く人間関係を構築する前に別れてしまった。
天文学的再会

大学を卒業して三年経って教員採用試験に合格した翌年、初任者研修でグループで取り組む研修があり、なんと深井とそこで再会することになる。大学も同期、採用年も同じ、更に同じ研修グループになるなんて、とんでもない確率だろう。数年ぶりに会ったものの、やはり教育、授業への熱は凄まじく、妥協しない姿勢は変わっていなかった。
それから、所属する管轄は違うものの、深井の地域で行われている授業の勉強会の誘いを受けて参加した。そこで実感したのは、教科の専門性をいかに武器として子どもに伝えるか、そして教師自身がいかに教科に精通しているかの重要性だった。
私が勤務していた自治体では、専門を聞かれると部活を答える人が多かった。また、授業も成績を出すためだけのルーティンとしか考えていない人が多数だった。授業がうまいと自負している先生は、いかに指導書通りの授業ができるかどうかだった。だからこそ、ここでの勉強はとても有意義だった。
尊敬したい先生

しかし、次第に勤務校の事件対応に追われて研修にも足が遠のく。そして、現任校について相談
※詳しくはここ
した際に、返ってきた台詞が冒頭の言葉だった。思えば、ここでいくらでも道を修正できたのかもしれないが、退職に至る。
その後、バイト終わりに深井から飲みの誘いを受けて、久しぶりに再会することになる。そこには、「勉強のために」と連れてきた後輩の姿もあった。
後輩は、圧倒的に優秀な先生だと思う。一発で試験に受かり、今年はやんちゃな子が在籍するクラスを担任している。しかし、教員だと言われなければ、そうとは見えないほど落ち着いた聡明な人だ。そして日々、前述の勉強会に参加し、授業の力を磨いている人だ。
そこで、一旦教職を離れてすっかり気持ちが冷めていること、バイト先でやりたいことを貫き通す人たちを見て刺激を受けていたこと、自分自身も再度立ち直りたいからこそ、なぜ二人は教職をやりたいのか聞いてみた。
俺はうまくいかなくなったときに、アプローチして、成長しなくても前を向けるようになったら、それが嬉しいよ。
小学校と違って、初めて経験する感情や気持ち、経験があって、凄い揺れ動く時期が中学校だと思うんです。だからこそ、子どもが壁とぶつかって、壁の先から支援するんじゃなくて、一緒に壁にぶつかって、一緒に揺れながら壁を乗り越えたいんです。だってそれって今しかできないから。
忘れないように、一筆もらう。

やはり、二人ともかっこいい人だと思う。深井は今の時代に珍しく、熱血を文字通り体現した先生だ。
一方で、後輩は静かで落ち着いている人ではあるものの、子どもや教育への凄まじい熱を持ち、言語化している姿を見て、はたして自分にその熱はあったのか、あっても貫き通すことはできたのだろうか。それと同時に、いつか「一生懸命はかっこいい」と子どもに話したことを思い出した。
ムカデも大縄も全然うまくいかなかったね。
でも、誰かのことを笑ったりするわけでもなく、皆で本気に取り組んでた姿を見てかっこよかったよ。一生懸命な皆が一番かっこいいよ。
自分は今、一生懸命になれているんだろうか。大体の人は、そんなこと考えもしないかもしれない。それでも、この半年間は教員であるか否かを問わず、熱意を持った人達と沢山会って、心のガソリンをもらっているのは事実。でも、ガソリンを散々入れても、どこかに穴が空いていて、全て消えていく。気がつけばガソリンを入れる度にタンクに傷がついていく感じがする。
自分がかつて誰かを励ますために口にした言葉が、いつの間にか自分を締め付けるものになっていた。それでも焦る気持ちを抑えつつ、少しずつ前に進んでいきたい。