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Photo bycozy_quokka1514

【短編 童話】外伝 Ⅴ(最終章)『あの青空へゼフィロスと一緒に』| 落ちこぼれ魔女ターナ

    天将と往く空のお出かけ


    ベルリン市の郊外の空き地で、
    ターナは天将ゼフィロスと
    待ち合わせていた。

    シエラを連れ立って二時間弱、
    ようやく到着すると、
    既にゼフィロスは
    その巨体の翼を休め、待機していた。
    体躯は十五フス(1Fuß≒30㎝)ほど、
    鶏冠と尾羽根は虹色で
    全身を碧瑠璃の美しい羽根が纏う。
    象牙色の嘴と
    綺羅星が宿る涼やかな双眸が見つめていた。


    画像
    天将 ゼフィロス


    「ごめんね。待った?」
    「いや、大丈夫。
    慌てなくて構わない。ターナ、シエラ」

    丘の上からゼフィロスが語りかける。

    「髪の毛は伝えたとおりに纏めたかね?」
    「うん、見ての通りヘアピンで。
    あと、マカッサル油でカッチカチ」
    「あゝ、ほんとだ。
    ほのかに薫る丁子と檸檬が、良い香りだ」

    そして傍らにターナたちが立つと、
    頭を下げて伏せるゼフィロス。

    「では荷物を置いたら、乗って。
    しっかり私につかまれよ」

    ターナたちが器用につかまりながら、
    ゼフィロスに跨がる。

    「髪は纏めて貰わないと、
    乱れて視界不良になるのでな」
    「私は大丈夫。ターナは?」

    ゼフィロスの首の後ろに乗り
    しっかりと羽毛につかまるシエラは、
    滑らない為の革の手袋と
    丈夫な革のジャケット、
    乗馬用のドロワーズを整える。
    ターナはそのシエラの後ろ、
    同じようにゼフィロスに跨がり、
    後れ毛の見えるうなじを目の前に
    シエラの身体に腕を廻して抱きつく。

    「私も準備できた!」

    それを聞いたゼフィロスが
    頭を持ち上げて翼を拡げる。
    折りたたんで隠れていた翼端は
    鮮やかな金密陀色で魅せる。
    拡げた翼長は三十フスに及ぶ。
    その巨体が助走もなく羽ばたき、
    軽々と飛び立つ。

    「覚悟は良いかな?
    では行くぞ!」

    地上を離れたゼフィロスは
    ぐんぐん空へ空へと駈け上がる。
    丘の近くにあった小屋の屋根を上から望み
    小屋、空き地、近くの街、ベルリン市郊外、
    地上の景色がみるみる小さくなって、
    なおも上昇し続ける。

    ターナもシエラもそれまで、
    身体が下へ下へと引っ張られるのを感じていた。
    腰掛けていた内腿が羽毛に沈み込む。
    通り過ぎる風がヒューと鳴り
    耳がジンジン痺れてきた。

    さらに上昇を続けるゼフィロス。
    其処で一旦、羽ばたいて留まり
    青い空に浮かんでいる。

    ゼフィロスが宙に浮いた途端に、
    それまで下に引っ張られていた重さが
    フッと消えて身体が浮かび上がる。
    身体を支えようと踏ん張ろうにも
    足下にはなにもない。
    浮遊感と放り出されそうな焦りで、
    跨がって挟む内腿と羽毛をつかむ手が
    自然と力んだ。

    ターナが温もりを感じるのはシエラと
    跨がるゼフィロスの身体。
    流れる気流は冷たく強く頬を打ち、耳を切る。

    「ぜぇぜぇ」と息が上がり、
    自分の荒い呼吸の音だけが耳に障る。
    さらに耳の奥がツーンと詰まり、
    話しかけるゼフィロスの声が
    どこか遠く感じるターナ。

    「この高さになると、
    魔女もなかなか飛んでこない。
    どうかな? 
    ターナ、シエラ。
    感想は如何に?」

    「くぅうぅ、イェ――イ!!」

    この高さにあって
    余裕の雄たけびを上げるシエラ。
    一方でターナはというと、


    「……」


    ターナの視界に入るのは
    シエラの背中とゼフィロスの羽ばたく翼。

    だが、その向こう。
    二人の身体越しに視える彼処あそこ。
    遠くまで真っ直ぐ続く地平線、
    その上に広がる雲ひとつない
    澄み切った濃い青空を
    ぽつねんとただ、凝視していた。


    「……」


    「ターナ?」
    「……ターナ?」


    黙っているターナに、
    ゼフィロスとシエラの
    二人が呼びかける。

    「……ぁあ、ごめんね。
    大丈夫」

    「もう降りるかね?」

    「ううん。大丈夫だよ。
    もっと飛べる?」

    「判った。
    二人とも、しっかりつかまってて」

    そしてゼフィロスの遊覧飛行は
    半時ほど続いた。


    地上に降りてきたゼフィロス。
    時間も午後遅くになっていた。

    ゼフィロスの背中から降りた二人。
    力んでいた脚がガクガク震え腰を抜かして、
    しばらくヘタり込んでいた。

    「――ァ゙ァ、げほ。
    はしゃぎ過ぎた……声が出なひ」

    奇声を上げ続けていたシエラは
    喉がガラガラ。
    掠れた声しか出てこない。

    ゼフィロスがターナを見ると、
    ターナは半ば惚けている。
    心配したゼフィロスが
    再度、ターナに語りかける。

    「どうだった? 
    空のお出かけは。
    ターナ?」

    見つめるゼフィロスと目が合うと、
    ターナは指先を高く空に突き上げ、云った。

    「もおぉ、さっいぃっ高おぉ〜〜っ!!

    いつか……

    いつか、絶対に飛んでみせる!
    あの空へ私は戻りたいっ!!」

    ゼフィロスが笑って答えた。

    「ワハハハ!
    それがターナの全てを物語る。
    空は、
    世界は、
    いつまでもターナを待ってるよ」




    <#21 The World>

    Tony Ann - ICARUS


    落ちこぼれ魔女ターナ


    完