
【短編 童話】外伝 Ⅳ『優しい鬼 鍾馗』| 落ちこぼれ魔女ターナ
侠気溢れる落第生
昔、科挙の試験に不合格となり、
生命を自ら絶った鬼がいた。
その名を『鍾馗』という。
鍾馗は、何かにつけてはターナを気にして、
悩みを聞いてくれる鬼神である。
ターナが落ちこぼれ、
鍾馗も落ちこぼれ。
だから話が合うのだろうか、
鬼神とは思えないほど
にこやかに話し相手をしてくれた。
今日も今日とて待ち合わせて
二人で話こむターナと鍾馗。
「ターナ。どうかね。
少しばかりは飛べるようになったのか?」
「ううん。ぜんぜん」
「……そうか。
こればかりは、気合いでどうにかなる
ものでもなかろうしな」

鬼神と謳われる猛々しさはない
ベルリン旧市街の石畳に
鍾馗の異国情緒溢れる容姿が、
道行く人々の好奇の眼差しを誘う。
だが、そこは鬼神であるし、
ターナも魔女である。
二人とも、一向に気にする様子も
まるでなかった。
鍾馗が話を続ける。
「厄祓いならばな、
儂にもなんとか出来んこともないが」
気を遣うのか、鍾馗の言い草に
ターナも大きく首を横に振る。
「そんなことない、ない。
気持ちだけで嬉しいから」
「左様か」
眉間に皺を寄せて、真剣な顔つきの鍾馗に
ターナは笑顔で尋ねる。
「鍾馗さまも、本当は科挙の試験は
首席で受かったのでしょ?
私とは月とすっぽんだよー」
鍾馗が左右に首を捻り否定する。
「いやいや。
儂は、この見た目なのでな。
高祖皇帝陛下に酷く忌み嫌われてな」
「えー!
それだけのことで?」
「如何にも。
それで無念の余り憤死したのだ。
後に憐れに思われた陛下に
手厚く葬って頂いた。
そして玄宗皇帝陛下の夢枕に
鬼として現れ、
ご挨拶に伺ったのだよ」
鍾馗の話には説得力がある。
「シエラがおるではないか。
良き友であり、師にもなる」
「うん」
「見倣うべきところも、
数多くあろうな。
良き手本として、教えを乞うが良かろう」
「うん!」
やや、顔つきを厳しくして
鍾馗がターナを諭す。
「未熟だからと許されることではない。
ただ、ターナが努力していることは、
儂も含め、皆が知っている。
努力が足りないとも思わん。
こういうことには、時代の趨勢、
時の運、風向きなどもあろうと思う」
「……うん」
「くじけるでない。
いつか、報われることがあるだろう」
「うん!」
道を歩きながら話し続ける二人。
その前を一人の老婆が足を引きずり、
重そうな荷物を両手いっぱいに抱え
歩いている。
「でも――」
ふと、足を止める鍾馗。
ターナの目の前に手をかざし、
話を止める。
鬼神が見つめるその先には
一人の老婆がいた。
佩刀した剣の柄を揺れないように
抑えると、鍾馗は小走りに
老婆のもとへ駆け出していた。
後を追うターナ。
追いついたそのときには、
鍾馗は老婆に親しげに
話しかけていた。
「では、そのお住まいまで
持って歩くつもりかね?」
「ええ。
仕方ありませんから」
鍾馗は手を差し出して、
荷物を二つ自ら抱え上げた。
「お持ちするから、ご案内下され。
ご一緒に参りましょうぞ」
「いえいえ、それでは申し訳……」
鍾馗は「カッカッ」と高笑いして
老婆に語りかけた。
「ご遠慮なさるな。
困ったときはお互いさまと
申しますれば」
老婆が嬉しそうに、
「異国の方に
こんなにも親切な方がいようとは
思いませんでした」
鍾馗はまた愉快そうに話しかける。
「では、参りましょうぞ」
そしてターナに目をやると、
大きく頷きひと言、声をかけた。
「ターナ。
そんな訳だ。
今日のところは、ここまでとしよう。
またな」
ターナは鍾馗に頷いて返した。
「……鍾馗さまらしいな」
老婆はしきりにターナを気にしていた。
「あらあら、お連れさまは
よろしかったのかしら?」
老婆が遠慮がちにターナを見て
鍾馗に話しかける。
「カッカッ」と声をあげて笑う鍾馗は
老婆を促し先を急ぐ。
そして答えた。
「問題ない。
お友だち、なのでな」
<#11 Justice>
つづく
OPA TSUPA - mamma mia(Valse Ver.)
次回 外伝 Ⅴ(最終章)
あの青空へゼフィロスと一緒に