
【短編 童話】外伝 Ⅱ『病にめげるジークフリード』| 落ちこぼれ魔女ターナ
発熱、咳が止まらない不死身の勇者
シエラが思いもかけずに
ターナから聞いた、その話。
剛毅ジークフリードが風邪をひいて、
居城の自室で寝込んでいるそうだ。
季節は初夏を迎え、
ますます心地よい風が吹く頃だというのに、
まさかのダウンである。
「お見舞いに行こうかしら」
シエラは身支度を整え、
ジークフリードの城へ顔を出した。
城の庭園では、
ブラウレーゲンが満開に咲き誇っている。
その美しい花々を眺めながら、
シエラは寝室へ通された。
「ゲホゲホ……。
ふ、不覚……済まない、シエラ。
熱が収まらなくてな」

竜の血を浴びて不死身となり、
幾多の死闘を繰り広げた勇者。
そんな男が今や、
額に手をあててベッドの中で
力なく横たわっている。
「ゲホゲホ……。
あの……庭のブラウレーゲンを
見たかい?」
「ああ、綺麗に咲いてるわね」
「ゲホゲホ……。
来年も同じ景色を
見られるのだろうか……?
……まさか、見納めになるなんて……」
ジークフリードは、
悲哀の表情を浮かべる。
彼には、花の香りが風の底で遠くに
聞こえていた。
「竜の焰の息よりもこの発熱は厄介だよ」
意気消沈するジークフリード。
その背中を、
シエラが思い切り叩いた。
「バッカじゃないの〜〜!!
来年も大丈夫!
栄養取って、温かくして、
汗かいて、たっぷり寝なさーい!」
「は、はい……ゲホゲホ」
どうやら不死身の勇者も、
風邪をひけば弱気になるらしい。
その日、シエラは
ターナから預かった白パンで
ミルク粥を作り、
ジークフリードに食べさせた。
そして三日間。
ジークフリードは、
ひたすらぐっすり眠った。
すると四日目には――
「いやあ、よく寝た!」
すっかり元気になっていた。
「ほら、云ったでしょう?」
シエラの表情も呆れたように綻ぶ。
二人は庭園へ出た。
そこには初夏の爽やかな風に揺れる、
満開のブラウレーゲン。
薫風は二人の頬を撫でていく。
「来年も、きっと見られるさ」
小さく拳を握り、
細やかに決意するジークフリード。
清々しい笑みを浮かべる彼の
あの憂いは何処へやら。
どうやら今年の花見にも、
当然、無事に間に合った。
かくも人間というものは
こんなものなのか。
不死身の勇者とあれど、
それは変わらない。
<#7 The Chariot: Rev.>
つづく
Berliner Philharmoniker -
Rossini: Il barbiere di Siviglia: Overture
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