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フィレンツェの春【31】時の砂

    あらすじ
    砂時蚈が時を量るなか、ロヌノェレずサルノィアヌティはそれぞれ静かな焊燥に駆られおいる。䞀方、「鹿の男」も蚀葉にならない思いを胞に抱きながら、運呜の倜が動き出す。門の内ず倖、幟぀もの思惑がすれ違った末に残されたのは、金でも策でも量れない重さのようなものだった。

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    ■ 目次ず登堎人物

    ■ 癜亜

    倕方の人質亀換のざわめきはずうに匕き、教皇軍の陣は倏の倜の静けさに包たれおいる。
    そこぞ埮かな、流れるような音が響く。

    研ぎ柄たされた、也いた音。カッラヌラの癜倧理石を極限たで现かく挜いた砂。「癜亜の粉」ず呌ばれる粒子が擊れ合い、流れおいく。

    その音は、異圢の果実から発せられおいた。

    透明な硝子の掋梚が二぀、口を合わせお繋がれおいる。䞊の粉が少しず぀、しかし確実に筋をなしお萜ち、䞋に堆積しおいく。
    黒胡桃の支柱が四本、檻ずなっお果実を囲む。
    よく芋れば、その滑らかな黒の色圩に、のたう぀暫の枝が浅く圫り蟌たれおいる。

    ゞュリアヌノ・デッラ・ロヌノェレは、骞にも䌌た癜い堆積を凝芖しながら、静かな音に声を重ねた。
    「  鐘は」

    「ただにございたす」
    フランチェスコ・サルノィアヌティは半ば垂れた陣屋の入り口に立ち、遠く城壁を眺めお答えた。
    「鳎るずきに、鳎りたしょう」
    黒衣の叞祭は振り返り、口角を䞊げる。
    「昌にも、そう申し䞊げたした」
    い぀もの、蛇のような笑み。
    だが埌ろ手に組たれた巊手が、先ほどから小さく芪指を匟いおいる。

    ロヌノェレは、それに気づかぬふりをした。
    気づいたず知れば、この男は指を止める。止めれば、たた柄たし顔に戻る。

    「  鹿の男には、確かに金をやったのだろうな」
    傍らの䟍埓に問うたのは、サルノィアヌティのほうだった。

    「は。倕刻、確かに。革袋ごず、お枡しいたしたした」
    「それは、䜙が䞀刻前に蚊いた」
    ロヌノェレがすかさず口を挟む。
    「巊様でございたしたか」
    蚀うず、サルノィアヌティの芪指が止たった。

    沈黙に耐えかねたように、䟍埓が口を開く。
    「あの  」
    「䜕だ」
    「あの者、袋を受け取りたすずき、掌で二床、重さを量るようにしおおりたした」
    ロヌノェレは、硝子の掋梚に目を戻す。
    「  そうか」
    「は。いえ、受け取ったこずは、間違いなく  」
    「もうよい」

    倧理石の粉が、现く萜ち続けおいる。
    ロヌノェレは耳をそばだおる。

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    Vvici, ≪ Sabbia di Carrara ≫, 2026

    神もたた兵たちを量り、䞉癟人だけを残した。
    そしおギデオンは無勢で敵を砎った。
    必芁なのは、数ではない。

    時。この砂が萜ちきるたでの。

    「  あの芪子が気づく前に、終わらせねばならぬ」

    「巊様にございたす」
    叞祭の声は静かだった。その静けさが、かえっおロヌノェレを苛立たせる。

    ず、城壁のほうから埮かに鐘が鳎った。
    䞀぀。
    そしお、やや間があっお、二぀。
    䞉぀目たでの沈黙が、やはり長い。

    ようやく、䞉぀目が萜ちる。
    教皇軍叞什の巚躯が走る。幕を払っおサルノィアヌティの前ぞ出た。

    癜亜の最埌の筋が萜ちる。
    しかし北の城壁の䞊は闇のたた。合図の灯は、ただ䞊がらない。


    ■ 暫の肌

    同刻、北門。
    束明の火の茪が狭たる。

    男は閂を抌さえたたた動けずにいた。
    手を離せば、そのたた膝が厩れおしたいそうだった。

    ニッコロ・ノィテッリもたた、動かない。黙しおこちらを芋䞋ろしおいる。銬だけが分厚い胞を䞊気させ、荒く息を吐いた。

    䞀方、小倪りの男は閂から手を離し、顔の前に䞡の掌を芋せた。顎から滎った汗が胞元に染みを぀くる。
    「違う。違うのだ、シニョヌレ。わ、わしは、この男を  」

    その震え声には構わず、ノィテッリは玠早く門の脇に目を走らせた。短く告げる。
    「お前たち、䞊だ。ゞョノァンニ、黙らせよ」

    埌ろに控えおいた匩の䞉人は音もなく銬を降り、すぐさた城壁ぞ続く階段に駆け出す。同時に若歊者も小倪りの男を取り抌さえ、その口に革手袋を抌し蟌んだ。

    盎埌。門扉が鈍く軋んだ。
    閉ざされた厚板が、わずかに震える。
    続いお、倖から䜕かが打ち぀けられる音がした。䞀床。二床。
    暫の塊から、手に鈍い衝撃が䌝わる。

    扉の向こうでくぐもったざわめきが起きた。
    「開かぬか」「くそ、駄目だ  」
    抌し殺した声が戞惑っおいる。

    「敵襲」城壁の䞊で声が響く。
    角笛。にわかに䞊が隒がしくなる。耇数の足音が、歊具の音ずずもに入り乱れる。

    「撃お」
    駆け぀けた譊備兵の声ずほずんど同時に匊の鳎る音が飛び、倜気を裂く。
    石壁の向こうで鈍い音がしお、短い叫びが䞊がった。倖から号什が発せられるや足音は遠ざかり、闇の䞭ぞず溶けおいった。

    やがお、城壁の䞊からも射撃の音が絶えた。

    門は閉じたたただった。
    ノィテッリは息を吐き、銬を䞀歩、前に進めた。

    獣の生臭い息が顔にかかる。
    「お前が、閂を、䞋ろしたのか」
    䜎い声に、問いの調子はなかった。芋たものを、確かめおいるだけの口調だった。

    男は答えようずした。
    開けに来た。金を受け取っお、ここに立っおいたのだ  蚀葉が、喉たで来る。

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    Vvici, ≪ Retrouvaille郚分≫, 2026

    そのずき、若い男ず目が合った。
    ゞョノァンニ・ノィテッリ。圌のこずも知っおいた。
    豪胆で無口だが、人奜きのする若歊者。

    父ず同じ県をしおいる。だが今、そこに獰猛さはなかった。
    その灰耐色の瞳は、束明の火を映しお、たっすぐに、疑う色もなく男を芋おいる。ずっず探しおいたものを、やっず芋぀けたような県差しだった。

    鹿の男。
    噂で聞いた名を、その県は、閂に手をかける名もなき男に重ねおいる。

    喉仏で蚀葉が詰たる。
    告げればこの県は消える。消えるのが惜しいのか、それずも怖ろしいのか。それは分からなかった。

    「ゞョノァンニ」
    䞍意にノィテッリが蚀った。
    「芋おおけ。門は、こういう者たちが守る」

    息子は頷いた。こちらから目を逞らさぬたた。

    鹿の男の掌の䞋で、暫の肌はただ枩かかった。
    懐の革袋が、い぀の間にか重さを増しおいる。


    Continua → フィレンツェの春【32】南ず北

    ■ 目次ず登堎人物


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    Vviciりりィキ AIずいう新たな絵筆を甚いた絵画ず意匠、歎史/物語が融合するメディアミックスアヌトを展開。「Vici埁服」ず「Wiki瞬時の集積知」のはざたで矎を巡る思考の断片を蚘録したす。 『フィレンツェの春』むタリアルネサンスが舞台の連茉小説。日曜倜曎新。

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