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AX成功の鍵は「エース人材の放出」にあり —— 経営トップの覚悟がもたらす企業変革

    はじめに

    生成AIの急速な進化を背景に、多くの企業がAIを活用して企業価値を高めようとしている。

    私自身、これまでコンサルタントとしてさまざまな企業の経営層や現場のリーダーとAI活用について議論してきた。その中で強く感じるのは、AX(AI Transformation)には、現時点で誰もが認める「正解」が存在していないということである。

    どの業務にAIを適用すべきか。どこまで既存業務をAIに置き換えるのか。組織や人材をどう変えるのか。AIを前提とした新規事業をどのように生み出すのか。

    企業ごとに事業構造や組織、人材、システム環境が異なる以上、単一の成功パターンをそのまま適用することは難しい。多くの企業が、PoCや業務へのAI導入を繰り返しながら、自社にとってのAXのあり方を模索しているのが実情だろう。

    しかし、だからといって経営としてAXへの取り組みを先送りしてよいわけではない。

    AIによって生産性や意思決定のスピード、顧客への提供価値が大きく変わる可能性がある以上、競合企業がAIを前提とした事業・業務モデルへ移行していく中で、自社だけが従来のやり方を続ければ、数年後には容易に埋められない差が生まれる可能性がある。

    では、正解が見えない中で、企業はどのようにAXを進めればよいのか。

    現時点で私が重要だと考えているのは、**「全社一括」ではなく、「経営の意思を持ったボトムアップ型の変革」**である。

    AXは「AI導入プロジェクト」ではない

    AXの難しさは、AIという一つのテクノロジーを導入することにあるのではない。

    AIの影響範囲があまりにも広いことにある。

    経営戦略、組織構造、業務プロセス、業務基盤・システム、人材、組織文化——AIはこれらすべてに影響を及ぼす。

    例えば営業部門に生成AIを導入する場合でも、単に「営業担当者が資料を作る時間を削減する」という話だけでは終わらない。

    営業担当者の仕事そのものを見直せば、資料作成だけでなく、顧客情報の収集、提案内容の検討、社内調整、商談準備、商談後のフォローアップなど、さまざまな業務にAIを組み込める可能性がある。

    さらに進めれば、「営業担当者は本来何に時間を使うべきなのか」という、より本質的な問いに行き着く。

    つまりAXとは、既存業務にAIを追加することではなく、AIを前提として業務そのものを再設計することなのである。

    問うべきは「AIで何ができるか」だけではない——「価値」の再定義のススメ

    AXを進める際、私は二つの問いを分けて考えることが重要だと考えている。

    一つ目は、

    「現在の業務のうち、本当に価値を生み出している仕事は何か?」

    という問いである。

    二つ目は、

    「その価値を最大化するために、AIをどのように活用すべきか?」

    という問いだ。

    AI活用の議論では、ともすると「このAIツールを使えば何ができるか」という技術起点の発想になりやすい。

    しかし、AIで業務を効率化した結果、その削減された時間が別の付加価値創出につながらなければ、企業価値へのインパクトは限定的である。

    重要なのは、業務を分解し、「残す仕事」「変える仕事」「AIに任せる仕事」を見極めることだ。

    そのためには、二つの知識が不可欠になる。

    一つは、業務への深い理解である。

    現場の仕事を理解していなければ、AIをどこに組み込むと最も大きな価値が生まれるのか判断できない。

    もう一つは、AIツールへの深い理解である。

    AIの能力や限界を理解していなければ、業務のどこまでをAIに任せられるのか、どこに人間の判断を残すべきなのかを具体化できない。

    AXでは、「業務を知っている人」と「AIを知っている人」の双方が必要になるのである。

    なぜ「ボトムアップ型」のAXが有効なのか——アジャイルな組織への転換

    AXの対象が全社に広がるからといって、最初から全社横断で一気に変革しようとすると、巨大なプロジェクトになりやすい。

    対象業務の洗い出し、システム刷新、データ基盤、人材育成、ガバナンス、組織変更——すべてを同時に進めようとすれば、投資額も意思決定の負荷も大きくなる。

    そして何より、AIの進化が極めて速い現在において、長期間をかけて「完成形」を設計すること自体が難しい。

    そこで有効なのが、AICoE(AI Center of Excellence)を中心とした小規模・アジャイル型のアプローチである。

    ただし、ここでいうAICoEは、単なるAIの専門部署ではない。

    業務部門、IT、データ、AI、変革推進など、複数の能力を組み合わせ、「AIによって業務をどう変えるか」を実際に形にするチームである。

    まず社内で課題認識の強い領域を特定する。

    次に、その領域について業務を深く理解し、AIを使って業務を再設計する。

    そして、小さな単位で実装し、効果を測定する。

    うまくいけば横展開し、うまくいかなければ素早く軌道修正する。

    この**「小さく始め、学習し、成果を確認しながら広げる」**というサイクルが、現在のAXには適している。

    重要なのは、ボトムアップだからといって経営戦略が不要になるわけではないことだ。

    むしろ、経営は「どこを変えるべきか」という方向性を示し、現場は「どう変えるか」を探索する。

    この役割分担が重要なのである。

    経営トップが担うべき最大の仕事

    最後に、AXを成功させるうえで最も重要な要素の一つについて触れたい。

    それは、経営トップのコミットメントである。

    これはDXの時代から繰り返し言われてきたことであり、AXにおいても変わらない。

    ただし、AXの初期段階では、特に重要な意味を持つ。

    それは、誰をAXの推進チームにアサインするかである。

    初期のAICoEは、必ずしも大規模な組織である必要はない。むしろ、少数精鋭のチームがアジャイルに施策を進める方が効果的なケースも多い。

    その際、メンバーには少なくとも三つの能力が求められる。

    第一に、自社の業務を深く理解していること。

    第二に、AIの可能性と限界を理解していること。

    第三に、変革を実現するために組織を動かすリーダーシップを持っていること。

    問題は、このような人材が、多くの場合、既存組織における「キーマン」でもあることだ。

    その人材をAXにアサインすれば、当然ながら既存組織の業務に一時的な負荷が生じる。

    「この人を抜いたら現場が回らない」という理由でキーマンを既存業務に固定し続ければ、短期的には合理的でも、長期的にはAXが進まない。

    ここで必要なのが経営トップの意思決定である。

    「現在の業務効率を一時的に犠牲にしてでも、将来の競争力をつくる」

    という意思を、経営トップが明確に示す必要がある。

    AXはテクノロジーの問題であると同時に、経営資源の再配分の問題でもある。

    外部の力をどう使うか

    もちろん、自社だけですべての能力を揃える必要はない。

    不足する能力を外部から調達することも、AXを加速する有効な手段である。

    現在では、多くのコンサルティングファームやテクノロジー企業がAX支援を提供している。

    ただし、パートナー選定において、「AXの支援実績が豊富だから」という理由だけで選ぶことには注意が必要だ。

    重要なのは、自社の業務や課題をどこまで理解し、その課題を解決するために必要な能力を本当に持っているかである。

    AIの技術力が必要なのか。業務改革の能力が必要なのか。システム実装力が必要なのか。組織変革を推進する力が必要なのか。

    自社の現在地によって、必要なパートナーの能力は変わる。

    おわりに——AXの本質は「AI」ではなく「変革」である

    AXについて議論するとき、つい「どのAIツールを導入するか」「どのモデルを使うか」といったテクノロジーの話に目が向きやすい。

    しかし、企業経営の観点から見れば、本質はそこではない。

    AIを使って、どのように企業価値を高めるのか。

    そのために、

    「何が本当に価値を生んでいるのか」

    「その仕事は人間がやるべきなのか」

    「AIに任せることで、どのような新しい価値を生み出せるのか」

    を問い直すことが、AXの出発点になる。

    現時点でAXに唯一の正解はない。

    だからこそ、最初から完璧な全社計画を作るのではなく、経営が明確な方向性を示し、業務とAIの双方を理解する少数精鋭のチームを組成し、重要領域から小さく始める。

    そして、実践から得られた学びをもとに、徐々に全社へ展開していく。

    私は、これが現時点におけるAXの現実的な方法論だと考えている。

    AXで問われているのは、AIを導入する能力ではない。AIを使って、自社の仕事そのものを変える能力である。

    そして、その変革を始める最初の一歩を踏み出せるかどうかは、最終的にはテクノロジーではなく、経営の意思にかかっている。

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