
ドメーヌ ジャン・マルク&ユーグ・パヴロ Domaine Jean-Marc & Hugues Pavelot ─ サヴィニー・レ・ボーヌの静かな品格
ブルゴーニュを訪れる人の多くは、まずジュヴレ・シャンベルタンやヴォーヌ・ロマネといった名高い村の名に心を躍らせる。しかし、長くこの地に暮らし、季節ごとに畑の表情を見つめてきた私にとって、本当のブルゴーニュの魅力は、むしろ静かな村々に宿っているように思える。
その一つが、サヴィニー・レ・ボーヌ
コート・ド・ボーヌ北部、グラン・クリュを擁するコルトンの丘の麓に広がるこの村は、古代ローマ時代にまで遡る歴史を持ち、中世には修道院や貴族たちによって大切に守り継がれてきた。ロワン川が刻んだ小さな谷に沿って畑が広がり、多様な土壌と穏やかな起伏が、繊細で表情豊かなワインを生み出している。
華やかな名声を誇る村々の陰に隠れがちではあるが、その奥ゆかしさこそがサヴィニー・レ・ボーヌの魅力なのかもしれない。ブルゴーニュを深く知る愛好家ほど、この村の真価に惹かれていく。

村を代表する生産者、
ドメーヌ ジャン・マルク&ユーグ・パヴロ
数世紀にわたりこの地に根を下ろしてきたパヴロ家は、代々受け継いできた畑と真摯に向き合いながら、その土地の声をワインへと映し出してきた。現在はユーグ・パヴロ氏が弟ピエール・イヴ氏とともにドメーヌを率い、伝統を尊重しながらも、現代的な感性を織り交ぜたワイン造りを行っている。
ブルゴーニュには、多くの優れた生産者がいる。しかし、その中でもパヴロ家が特別なのは、サヴィニー・レ・ボーヌという一つの村に深く根を下ろし、その土地とともに歩み続けてきたことだろう(ペルナン・ヴェルジュレス村のドメーヌ・パヴロとは異なる)。
現代のブルゴーニュでは、他村へ畑を広げる生産者も少なくない。しかしパヴロ家は、代々サヴィニーのテロワールと向き合い、その多様な個性を表現することに情熱を注いできた。その姿勢からは、単にワインを造るという以上に、「この地を守り、次の世代へ受け継いでいく」という静かな決意が感じられる。

中世の騎士
私はユーグ氏に会うたびに、その穏やかな語り口と揺るぎない信念に心を打たれる。そして時折、彼を単なるヴィニュロンではなく、中世の騎士(シュヴァリエ)のように感じることがある。
だが、それはユーグ氏個人の資質だけではないのかもしれない。
もしかすると、長い歴史の中で畑を守り続けてきたサヴィニー・レ・ボーヌという村そのものが持つ品格が、彼の佇まいを通して静かに表れているのではないだろうか。
※ドメーヌ・ロランゾンの畑、醸造、各キュヴェについては、以下のWINE no KAORIの紹介ページにまとめています。
ピノ・ノワールのタンニンの美しさ
パヴロの赤ワインを口にしたとき、まず印象的なのは、タンニンの質の美しさである。
ピノ・ノワールの魅力は、しばしば香りの華やかさに語られる。しかし、本当に優れたブルゴーニュは、香りだけではなく、口中に残るタンニンのきめ細やかさにこそ、その真価が宿る。
パヴロのワインに触れるタンニンは、決して力強さを誇示するものではない。絹のようになめらかでありながら、ワインに静かな骨格を与え、余韻の奥行きを生み出している。その繊細な質感は、時間とともにさらに調和し、熟成によってより一層の気品をまとっていく。

パヴロ家のプルミエ・クリュ
パヴロが手掛けるプルミエ・クリュは、それぞれが異なる表情を見せる。
「ラ・ドミノード (La Dominode)」は、しばしばサヴィニー・レ・ボーヌ最高峰の一つに数えられる区画である。深みと気品を兼ね備え、熟成によって複雑な香りを花開かせる。その姿は、どこかコルトンに通じる風格を感じさせる。
「オー・グラヴァン (Aux Gravains)」は、より繊細で端正。赤い果実の純粋さと透明感が際立ち、サヴィニーらしい優雅さを映し出す。
「オー・ゲット (Aux Guettes)」は丘の上部に位置し、緊張感のあるミネラルと引き締まった骨格を備える。若いうちはやや控えめだが、時間とともにその真価を現す。
同じサヴィニー・レ・ボーヌでありながら、わずかな地形や土壌の違いが、これほどまでに異なる個性を生み出す。その奥深さこそ、ブルゴーニュという土地の魅力だ。

ガストロノミーとの相性
パヴロのワインが愛されるのは、愛好家だけではない。フランスの三つ星レストラン(レストラン・ケイ、ピエール・ガニェール、レジス・マルコン、ラムロワーズ等)においても、その繊細な表現力と料理への寄り添い方は高く評価され、長年にわたり食卓を彩ってきた。
偉大なワインとは、時に主役として輝くのではなく、料理とともに一つの世界を完成させる存在でもある。パヴロのワインには、まさにその品格が備わっている。
繊細な果実味と透明感を備えたその味わいは、日本料理とも見事に調和する。焼鳥、鴨料理、出汁を活かした和食、そして鰻。食卓に寄り添いながら、料理とともに新たな表情を見せるのもまた、ブルゴーニュの魅力である。
グラスを傾ければ、そこにはサヴィニー・レ・ボーヌの風、土、そして人々の営みが静かに広がる。パヴロのワインは、そんなブルゴーニュの本質を教えてくれる一本なのかもしれない。
日本でのお取り扱いについて
WINE no KAORIでは、生産者への取材および現地での経験に基づきこの記事を制作しています。取扱情報を掲載する場合は、読者に正確な流通情報を提供することを目的としています。
正規輸入元
株式会社アルカン