
航空業界からフランス・ブルゴーニュへ|世界を飛び回って見つけた「本当の豊かさ」 『日経xwoman Terrace』寄稿文
※本記事は、2021年1月9日付『日経xwoman Terrace』に寄稿した記事を転載・改訂したものです。
空と大地の狭間で
21歳で航空業界に飛び込み、世界中を飛び回る日々を送った。しかし、その後の人生は思いもよらない方向へと進んでいった。最先端技術と都会の洗練に囲まれた世界から、フランス・ブルゴーニュの自然と共生する田舎の暮らしへ——。
このブログでは、二つのまったく異なる世界を経験した私が、それぞれの環境で感じたこと、学んだこと、そして「本当の豊かさ」とは何かを考える過程を綴る。都会の便利さと田舎の素朴な生活、そのどちらにも価値があり、どちらにも挑戦と発見があった。
空から大地へ—私の人生の転換点を、ここに記したい。
空を駆け巡った日々
21歳で技術の最前線である航空業界に飛び込み、約13年間、世界の空を飛び回る生活を送った。毎日が刺激的で、まるで映画のワンシーンのようだった。
世界を飛び回る日々
ある日は東京で友人とお茶をし、翌日はニューヨーク・マンハッタンの話題のレストランで高級フレンチを堪能。次の週はモスクワでボリショイバレエ団の歴史的公演を鑑賞し、その翌週はブリスベンでクルージング。そしてミラノでは高級ブティックでショッピング……もちろん、すべき仕事を終えた後の話だが。
当時、日本経済は力強く成長し、トヨタ、ソニー、東芝、キャノンといった企業が世界市場で確固たる信頼を築いていた。精密で高品質な日本製品は国際的な評価を得るとともに、和食や日本文化もブランドとして確立されつつあった。日本航空もその波に乗り、世界一の航空会社を目指し、最高のサービスを提供することに力を注いでいた。
私たちは、機内でお客様に世界最高の空間を提供するために、海外で一流のサービスに触れるように求められた。さらに、感性を磨くことの重要性も強調され、世界屈指の美術や音楽といった文化に積極的に触れる機会が与えられた。
前述の通り、私は航空会社に入社するまで化粧をしたこともなく、日々スポーツに打ち込む生活を送っていた。知っているブランドといえばルイ・ヴィトンくらい。それが、世界へ飛び出す第一歩となる、真剣な国際社会勉強の始まりとなった。
目まぐるしく過ぎる時間
東京の自宅にいるのは月の3分の1ほどで、残りは飛行機の中、バスやタクシー、そして滞在先のホテル。昼も夜も関係なく、1か月がまるで10日間のように過ぎていった。飛行機の窓から地球を見下ろしながら、世界の多くの国々が平和を享受しているように感じる一方で、人類の科学技術の限りない可能性と、自然の持つ偉大な寛容さに思いを馳せた。
華やかな出会い
機内では、世界を股にかけるビジネスマンたちと最先端の話題や洗練された会話を交わす機会も多かった。同じ年に入社したセミ同期の中には、アメリカの長者番付に名を連ねるVIPと国際結婚し、会社経営を任され、日米をファーストクラスで往復している人もいた。まさに華やかな世界だった。
ブルゴーニュでの新たな生活
しかし、ボルドー大学留学後に、縁あって、ブルゴーニュのワイナリーで暮らすことに。都会の喧騒とは無縁の田舎の生活は、また別の刺激に満ちていた。
自然に囲まれた暮らし
築200年以上の温かみのある石造りの古民家。毎日決まった時間に食事をし、同じ時間に眠る。広がるブドウ畑に囲まれた田園生活は、最先端の科学技術とは対照的な、自然と共生する質素な暮らしだったが、私にとっては最高の贅沢だった。
田舎ならではのリズム
田舎では、季節の移ろいや一日の流れがはっきりと感じられる。朝早くから活動し、ランチは決まった時間に、夕食は家族全員で囲む。そして夜10時頃には就寝。日が沈めば辺りは静寂に包まれ、真っ暗になる。近所にコンビニやファストフード店などの便利な施設はなく、夕食に足りない食材があれば親戚やご近所に借りに行く。こうした人とのつながりが、暮らしの質を支えていた。
都会の便利な24時間社会しか知らなかった私にとって、この“田舎モード”の生活に慣れるには時間がかかった。
農業の現場で学んだこと
農業の現場では、チームワークが不可欠だ。作業の質が向上すれば、農産物の出来にも反映され、それが農家の経済を支える。そして、農作業そのものだけでなく、それを円滑に進めるための裏方の仕事も非常に重要となる。全員がそれぞれの役割を果たしてこそ、農家は回っていく。
裏方の役割とその重要性
大都会から来た農業初心者の私は、“もうやる人は決まっているから”という理由で、花形である畑仕事や醸造作業ではなく、裏方の業務を任された。ワイン蔵でお客様を迎え、試飲を提供する。メールや電話で世界中からの注文に対応し、出荷や輸出作業を行う。そして時には、パリの華やかなレストランやワインショップを訪れ、自社のワインを紹介することも。
「あなたが仕事をちゃんとしているからからこそ、私達は美味しいワインが飲めるのよ!」
何度もそう言われるうちに、この裏方の仕事こそが自分に合っていると感じるようになった。そして、自分の役割が誰かの役に立っているという充実感も得られるようになった。