
ボルドーの山火事の煙がブルゴーニュへ|7月26日、霞んだコート・ド・ボーヌの朝
私はこの時期、我が家から見えるコート・ド・ボーヌの丘の様子に、毎朝のように目を凝らしている。
なぜなら、そこには収穫が近づいていることを知らせる、小さな合図が現れるからだ。
夏の終わりに向かい、収穫が近づいてくると、丘の表情が少しずつ変わる。
そして収穫直前になると、早朝、斜面に霧が現れるようになる。
私にとって、それはブドウの収穫が近づいたことを感じさせると同時に、暑く長かった夏の終わり、そして秋の最初の訪れを知らせる風景でもある。
ところが、今朝は少し様子が変だった。
いつもなら澄み切って見えるコート・ド・ボーヌの丘が、薄い霞に包まれていた。
「何だろう?」
最初はそう思った。
外に出てみると、空気の中に、ほんのりと焦げたような匂いがする。
息子が言った。
「ボルドーからじゃない?」
まさか。
それが私の最初の考えだった。
しかし、調べてみると、本当に南西フランスからやって来た煙だった。

数百キロ離れた山火事の煙が、ブルゴーニュへ
南西フランス、ジロンドとランドで続いている大規模な森林火災。
そこで発生した煙が、西から東へ吹く風に運ばれ、数百キロ離れたブルゴーニュまで到達していた。
7月26日未明のブルゴーニュの現地報道によれば、煙と焦げた匂いは前日の夕方からシャロレ地方に入り、ディゴワン、パレ=ル=モニアル、グーニョン、さらにモンソー=レ=ミーヌ、ル・クルーゾへと広がった。
そして深夜には、シャロン=シュル=ソーヌでも焦げた匂いが確認された。
翌朝。
その先にあるコート・ド・ボーヌの丘も、いつもとは違う薄い霞に包まれていた。
Atmo Nouvelle-Aquitaineも、ジロンドとランドで続く火災の煙によって、大気中の粒子状物質PM10の濃度が上昇し、煙が風によって移動していることを確認している。
数百キロ離れた場所で燃えている森が、ブルゴーニュの朝の風景を変えている。
その事実に、私は驚いた。
その煙の向こうで起きていること
しかし、ブルゴーニュまで煙が届いたことを「珍しい現象」として眺めるだけではいけないと思う。
その煙の向こうでは、今まさに人々の生活が脅かされている。
7月26日朝の報道では、南西フランスの火災によって焼失した面積は約4万2,000ヘクタールに達し、25万人規模の住民や観光客が避難を余儀なくされている。
火災はボルドー都市圏にも接近し、道路の閉鎖や大規模な避難が行われ、消防士、軍、航空機などが投入されている。
ジロンドだけではない。
ランド県のビスカロッスやパランティス=アン=ボルン周辺でも大規模な火災が発生し、多くの住民が避難している。
この文章を書いている今も、現場では消火活動が続いている。
被害に遭われた方々に、心よりお見舞いを申し上げたい。
そして、厳しい暑さと危険な状況のなかで消火活動を続けている消防士をはじめ、住民の避難や救援に携わっているすべての方々に敬意を表するとともに、一日も早く火災が収束することを心から願っている。
気候変動と山火事、「暑いから燃える」だけではない
今年のフランスの夏を見ていると、今回の火災だけを切り離して考えることは難しい。
ブルゴーニュでも猛暑が何度も訪れ、雨が降っても、その後再び高温と乾燥が続いている。
そして昨日には、私たちの身近なリュリー村周辺でも火災が発生した。
ここで、「地球温暖化によって山火事が起きた」と単純に書くのは正確ではない。
気候そのものが火をつけるわけではないからだ。
しかし、フランス政府は、気候変動によって干ばつや熱波がより頻繁に、より強くなっており、それによって植生が乾燥し、火災が発生・拡大しやすい気象条件が増えていると説明している。
Météo-Franceの研究でも、森林火災に適した気象条件の日数は1960年代以降増加しており、今後も増えると予測されている。
そして重要なのは、火災リスクの「場所」も変わりつつあることである。
森林火災といえば、かつては南仏や地中海沿岸を思い浮かべることが多かった。
しかし現在、フランス政府は、気候変動によって火災リスクが国土のより広い地域へ拡大し、火災シーズンそのものも長くなっていると警告している。
つまり、ブルゴーニュも例外ではない。
南フランスの出来事ではなくなってきているのである。
9割の森林火災は、人間が原因
そして、もう一つ忘れてはならない数字がある。
フランス政府によれば、国内で発生する森林火災の約9割は人為的な原因によるものだという。
さらに、その約半数は不注意から生じている。
たばこの吸い殻。
森林や乾いた植生の近くでのバーベキューや焚き火。
草刈り機や工具などから発生する火花。
野外での焼却。
花火。
普段なら大事にならないような小さな火種でも、植物が極端に乾燥している状況では、一気に大きな火災へと広がる可能性がある。
だからこそ、猛暑と乾燥が続く時期に森や山へ出かける際には、私たち一人ひとりの行動が重要になる。
フランス政府は、高リスク時には森林へのアクセス制限を確認すること、森の中やその周辺で火やバーベキューを使わないこと、たばこの吸い殻を絶対に捨てないことなどを強く呼びかけている。
そして火災を発見した場合には、18または112へ通報する。
気候そのものを、私たちが今日すぐ変えることはできない。
しかし、火を出さないことはできる。
この違いは大きいと思う。
ブドウへの影響はあるのか
ワインに関わる者としては、これほど広範囲に煙が運ばれてくると、ブドウへの影響も気になるところである。
ただ、煙が見えたからといって、直ちにブドウやワインの品質に影響が出るわけではない。影響の有無は、煙の濃度や曝露時間、火災との距離、ブドウの成熟段階など、さまざまな条件によって異なる。
したがって、現時点で2026年ヴィンテージへの影響を論じるのは早すぎる。
今は何より、南西フランスで続く火災が一日も早く収束することを願いたい。
秋を告げる霧ではなかった
それよりも今朝、私が強く感じたのは別のことだった。
私は毎年、この季節になるとコート・ド・ボーヌの丘を見る。
そして収穫が近づくころ、早朝に現れ始める霧を見つけると、
「そろそろ秋が来る」
と思う。
ところが、7月26日の朝、丘を覆っていたものは、秋の訪れを知らせる霧ではなかった。
数百キロ離れた南西フランスで燃えている森から運ばれてきた煙だった。
遠くで起きていると思っていた災害が、一晩のうちに自分の目の前の風景に現れる。
ボルドーの森と、ブルゴーニュのブドウ畑。
地図の上では遠く離れている。
しかし同じ空の下にあり、同じ気候の変化の中にある。
そして、一昨日はブルゴーニュでも火災が起きた。
山火事は、もう「どこか遠くで起きていること」ではないのだと思う。
畑を守ること。
森を守ること。
そこに暮らす人々の生活を守ること。
そして、私たち一人ひとりが火を出さないよう注意すること。
今朝、霞んだコート・ド・ボーヌの丘を眺めながら、その意味を改めて考えさせられた。
石黒かおり
ブルゴーニュワインスペシャリスト
BELLEVUE FRANCE 代表 / WINE no KAORI 主宰
ブルゴーニュ在住20年以上。ブルゴーニュのドメーヌでヴィニュロンとしてブドウ栽培やワイン造りに携わるとともに、国際事業責任者として輸出・ブランド戦略を担当しました。
現在は、BELLEVUE FRANCE代表として生産者と日本市場を結ぶワインビジネスを展開するとともに、WINE no KAORIを主宰し、フランスワインの文化と価値を伝えています。
講演・執筆・取材・監修などのご相談を承っております。
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