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伊月一空の心霊奇話 ーそのいわく付きの品、浄化しますー 第14話

    ◆第1話はこちら

    第1章 約束の簪

    13  遠い約束と誓い

     早春を告げる、しだれ梅の香りが甘く漂う。
     二人の男女がその梅の木の下に立っていた。
     秘密の逢瀬を隠すように、垂れた梅の枝が二人の姿を幕のように覆った。
    「楓さん、すまない。君を妻にはできなくなった。僕が不甲斐ないばかりに。本当に」
     すまない、と男はかすれた声を漏らしうなだれる。

    「真蔵しんぞうさん……」
     私を妻にしてくれると約束したのに、どうして? と、喉まで出かかった言葉を飲み込み楓は唇を震わせた。
     けれど、落胆はそれほどなかった。
     この人と夫婦になることは、きっと叶わない願いだと、心のどこかで思っていたから。

     なぜなら、彼は村でも権威のある地主の家の若さま。
     一方、自分はしがない貧乏百姓の娘。
     家柄が違いすぎるのだ。
     どんなに互いが心を寄せ合っていても、彼の家が自分とのことを認めてくれない限り、結婚は許されない。
     そして、認めてくれる可能性はない。

     そもそも彼には、幼い頃から決められている許嫁がいた。彼の家に相応しい、立派な家柄の娘が。
     楓もその許嫁の姿を何度か目にしたことがある。
     美しく楚々とした女性で、彼女も彼のことを心から慕っているのが、端から見ていても分かった。

     涙を流し、謝罪の言葉を繰り返す真蔵を、責めることなどできない。
    「たとえ、他の女性を娶ることになっても、僕の心は生涯変わらず楓さんを愛する」
     そう言って真蔵の手が楓の手を握りしめる。
    「だから、この世では無理でも、あの世で結ばれよう。あの世で二人幸せになろう。そうだ!」
     真蔵は懐から簪を取り出し、楓の髪に挿した。

    「君に贈ろうと思っていた。楓さん、もし、年老いて死んでも僕のことを今と変わらず思っていてくれるなら、この簪を持っていて欲しい。君が簪を手にしていたなら、僕は必ず迎えに来ると約束しよう。そして、二人であの世へ一緒に旅立とう」
     愛する人が贈ってくれた、梅の花を模した簪に触れ、楓は涙を流しながら何度も頷いた。

    「はい。私も……私も一生あなたを愛すると誓います。この簪も一生大切に。だから、その時は必ず迎えに来てください」
    「ああ、必ず。そして、あの世で幸せになろう」
     真蔵の胸に引き寄せられた楓は、彼の胸に顔をうずめ、涙を流しながら何度も頷いた。

    ー 第15話に続く ー 

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