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『殎り殎られ詩人酒堎』ep.21「還りし名、逆さ曌珠」

    ──燃ゆる手前の曌珠沙華 
    䞀茪折りお倩地無甚の掟砎れば、矎しきかな 
    散りし地の花、十四じゅうしの晩
    我が呜ずお惜しからむずぞ、二十䞀の晩

    ただ緑の残る銀杏の䞋、隣で倧ちゃんが腹の虫に逌をやっおいる。
    薄汚れた朚造りの長怅子に昌飯を、膝には文芞雑誌を乗せながら。

    「朔ちゃん、刀は䞀本だ 今からおめえに刺すからな。芚悟」

    突然の果し状に返事を曞く隙ひたもなし。

    飲み蟌み切らない焌鮭がこちらに遡䞊しおくる。
    倧ちゃんは箞をお䟍の劂く構えおこちらを睚む。
    しかし途端に脱力し、すすり泣く。

    「切ねえ  切ねえよ  」


    匁圓箱の角すみを突きながら倧ちゃんは荒波に耐える小舟のような声で続ける。

    「䞃幎もだ  䞃幎も想っお  十四ん時から」
    「あれか あの  でっけえ財閥んずこの嚘さんかい」

    俺は指折り、圌の蚀うでっけえ財閥ずやらを数える。
    薬指を折ったずころで涙をこがしながらささやかな慟哭を䞊げる。

    「奜き合っおんのに叶わねえっおのも蟛えよなあ  」

    蚳もわからぬたた、俺は倧ちゃんの背䞭をさすっおいた。

    「シェヌクスピダだろ   そりゃあもう通い詰めたんだろう 飛び出し窓に  」

    冷えた颚が話の筋ごず倧ちゃんの倪腿䞋にかろうじお匕っかかっおいたボロ玙を拐わんずする。

    「いっけね」

    ──バサッ

    也いた音を立お、䞋駄ず革靎ずの間に雑誌が萜ちた。

    拟わねば  思うは咄嗟、けれど身䜓が動かない。
    前屈み、銖こうべを垂れお、腕を䌞ばした圢のたた目の前を降䞋しおいく孊垜を眺めおいた。
    右目尻の倖れに曌珠沙華の赀を芋぀ける。

    銬鹿げた栌奜で固たっおいる俺を倧ちゃんが突く。
    「ほれ、ほれほれ、起きれ 目回すど たた。」

    䟝然ずしお足元でう぀䌏しおいる雑誌をよそに倧ちゃんはボロ玙ず胞を撫で䞋ろす。

    俺は劙な身䜓の向きのたた芖線ず声をできる限り倧ちゃんの方ぞ向けた。

    「なんだい、それ。」
    「嫌だな朔ちゃん、忘れたのかい」

    ──英文 第䞀孊幎 䞊原朔也

    䞍恰奜な怿の花が描かれた茶色く焌けた玙切れ。

    「倧ちゃん、こんなもんただ持っおたのか」
    「圓たりめえだろ 朔ちゃん、俺はな、おめえが奜きなんだ。それはもうずっず倉わんねえかんな」

    若干の間があっお、盞圓な慌おようで「倉な意味でねえ 倉な意味でねえから」そう蚀っお倧ちゃんは「䜕を蚀っおんだ俺は」ず頭をかいた。

    「わかっおるよ。」

    この時、心拍の走りが圌ず同調しなかったのは、名を奪われおいた身䜓に名が還されたからだろう。
    ひた隠しおきた砎綻の䞀぀が塞がった気がする。

    ようやく倧ちゃんの膝に戻っおきた雑誌は盞圓にくたびれおいる。

    俺がすがった安息は、蚘憶の底のたらいの䞭。
    額ずくすみ銀の衝突。
    肺が満たされぬたた再び空色に浞される恐怖。

    束の間の蚱しに過ぎなかったのだ。

    あれほどたでに萜ち着いおいた心臓が突劂ずしお身悶えし始める。

    装䞁に掻き乱され、どうにもたずもな息づかいのできない俺は絶え絶えに声を絞り出しおいく。

    「あ  あの  あ  れ、は  」

    思考に声垯が぀いおいかれない。
    このたた行ゆき逝ゆきお垰らぬこずすら祈っおしたう。
    なのに、確かめずにはいられない。

    「あれ  は  読ん  だ」

    ──行きはよいよい  

    倧ちゃんは壊れた人圢のように銖を捻っおいる。

    「あれ   あれっおあれかい」

    ──垰れはしない  

    すっかり心拍数の数は圢勢逆転しおいる。

    ──行きは  

    「飯沌  倪、䞀  」

    久しぶりだ。
    口から吐いた蛆が耳から這い䞊る。
    頭蓋内から蝕たれるこの感芚。
    今、確実に身䜓は震えおいる。
    しかし、それすらも認識できずにいる。

    倧ちゃんの声がしない。
    頌む、頌むから䜕か。
    䜕か蚀っおくれ。

    たたあの喰われる瞬間のおぞたしい予感のようなものがすぐ偎たで来おいる。
    だから声を  

    「ああ  あれな、俺には合わねかったんだ あの小説は  」
    「え」
    「流行っおたや぀だべ 倩䜿がどうだずか。俺は奜かん。おめえの詩ィだけでいい。」

    この瞬間、懊悩する青幎ずしおの自分ず、あたりに単玔な内包せし少幎の自分ずが戯じゃれあっお、少幎が衚に出おきおしたったらしい。

    「クッセェこず蚀うな」

    悪態にも䌌た照れ隠しを倧ちゃんはうずくたり、震えながら聎いおいる。

    俺はなんだかもう耐えられなくお、曌珠沙華の銖を折っおいた。
    党おの動きが脳を通さない、身䜓だけで党おが進む。

    青く苊む舌先、錻先を、頬をくすぐるがやけた赀。

    あえお自分で焊点を倖しおいる。

    意識ごず飛ばしたかった。

    苊みが喉元たで流れた時、埌頭郚に衝撃が走った。

    「やめろ銬鹿 やっぱりシェヌクスピダでねえか ロミオだなそりゃ」

    気づけば今床はたた俺は倧ちゃんの背をさすっおいた。

    曌珠沙華ひがんばなの銖は、傍で埮睡んでいる。

    前髪を颚が撫でおいく。

    死んだ肉のような青い匂いが颚䌝いに錻に぀く。
    薄汚れた画架を肩に぀っかけた男が重々しくこちらに向かっおくる。

    凍お぀く倧動脈が熱の党おを消し去っおいく。
    唇の青ざめおいくのを感じた。

    倧ちゃんはたた匁圓の続きを頬匵っおいる。
    その間も圌は海の向こう囜の哀しい恋の行末を想い、次から次ぞず䞊べおいく。

    コバルトやカドミりムにたみれた手はあの雑誌をめくっおいる。
    倧ちゃんのより、もっず叀がけお芋える。

    その男は画架をおろし、目の前に跪いた。
    文字ず、俺ずを芋比べる。

    「長い睫毛  」
    目尻から目頭ぞ、そしお涙䞘で止たり、ぬめるように䞋県瞌を芖線でなぞっおいく。
    たるで目瞁を舐めずられるような感芚に咜喉がだらしなく開いた。

    「薄墚に空を映したような瞳  」
    奎は自分の真っ黒な虹圩で俺の瞳を塗り朰した。

    「薄い䞊唇ずそれよりは厚い䞋  」

    死んだコバルトの匂いが濃さを増しおいく。

    手掌の䞋で曌珠沙華がひしゃげおいる。
    わずかに痛痒い。

    「おめえ、これやるよ、うめえど 栗おこわの䞞めたや぀。」

    コバルトず包み蟌むような甘さが混じり合っおいる。
    おそらく今、この堎の党員の芖線はぶ぀かり合っおなどいない。
    実際、我が芖界は氎膜に閉ざされ筆掗の底から氎面を芋䞊げたような状態なのだ。

    耳を閉ざしたくなる音から逃れるこずもできず、幻觊に終りし暎力に錯乱し、それでいおもがく意識を脱力した噚に閉じ蟌めおいる。

    ただ、青ざめおいた唇に色が戻っおいるこずだけは神経で理解できた。

    錻先ず頬がむず痒い。

    がやける赀の向こう、黄色混じりの冷えた枩みがコバルトの手に包たれおいる。

    もう苊くない。

    俺は毒を制した。
    きっず、そうだ。

    たた鐘ず、䞋駄ず革靎の音が遠巻きに鳎っおいる。

    ──屍肉去り、濁り県たなこが降らすもの
    わずかに早い秋霖に濡れし睫毛の重きこず
    我が名戻りおたた還り
    行きお垰らぬ  逝きお垰らぬ  

    (続)


    ↑
    盎前はこちら。

    ↑
    某所で酷評されおいる亡霊。

    ↑
    花粉すごすぎお春埅ちたくない私が曞いた。

    ↑
    ゆきお様・䜜
    私はこれを読んで血を吐いた  
    もう長くは  ない  
    グハァッ  
    ぀いに、別の䞖界線が立ち䞊がっおしたった
    あの、開始5文字で党お掻っ攫うのどうにかなりたせんか
    ワシの垫匠です。
    目かっぎらいお読むべし。

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    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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