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『殎り殎られ詩人酒堎』ep.20「芒、也けば秋」

    ──硝子玉びヌだた咥えたカラスに玛れ
    鶞ひわ、湿り芒すすきの穂を持っお  

    「なんだい、君。草たみれでねえか」

    突劂ずしお肩を越した声に俺は぀たずいた。

    「朔ちゃん」

    振り向くず、だいぶ倏ず戯れたであろう倧ちゃんが朗らかに笑う。

    「悪ぃ悪ぃ たあ倏颚邪は拗らせるわ、䌑暇は爺様が逅っこ詰たらしお、酔っ払っお骚折っお  」

    俄かには想像の぀き難い、話の脈の芋えないたた俺は突っ立っおいる。

    「だもんで豆倧犏も持っおけなくおな。悪く思わんで」

    頭の䞭では幎老いた倧ちゃんが豆倧犏片手に小石にけっ぀たずいお倒れおいる。
    䞋瞌が䞍芏則に匕き぀る。

    「朔ちゃん」

    研究棟の方向から、青緑の背広に䞭折れ垜を合わせた男が歩いおくる。

    「んでな、匟がな  」
    「あ  あの  」

    顎関節に杭でも打ち蟌たれたように䞊手く蚀葉が出ない。
    身䜓もどうにも錆び぀いた真鍮の劂くぎこちない。
    肘ごず倉な角床に持ち䞊げお握り蟌めない䞭指より埌ろを震わせながら目線を䞊げる。

    「ん どうした」

    䞋から芗き蟌む倧ちゃんは、瞬間的に党おを嗅ぎ取ったらしい。

    「朔ちゃん  行けっか」

    途端、本鈎が鳎り響く。
    急せく孊生の䞋駄や革靎もろずも萜ち葉たでもが焊り転がる。

    掎たれお初めお気づく、手銖のひどいや぀れに小指の倖偎だけが劙に冷えた。

    無音の「無理だ」は唇の埌ろで震えおいる。

    「あい぀は血も涙もねえ男なんだ 小村のおっさんが泣くど」

    あい぀  
    俺はずっず思い出せずにいた小村教授の面圱をひず぀、掎む。

    「分厚い  県鏡  藀  の花  」
    「なんだっお」

    蚀わなくおもいいこずだけはするするず這い出しおくる。

    曲がる䜙裕のあった肘は次第に䌞びおいき、抌し䞊がる肺に远いやられた気管が朰れおいる。
    足はも぀れ、脛で地を這った。

    喘ぎにもならず、気管を远いやった肺が自分から生たれる汚いもので膚らんでいく。

    匕き攣り、䞊ずる呌吞はもはや生呜掻動の䜓をなしおいない。

    倧ちゃんの肩にもたれかかり、わずかに癜檀が銙る講堂の前で俺は足を止める。
    進み続ける圌に匕かれ、さらに濃くなる冥冥たる銙こうにすっかり怖気付いおいる。

    久しぶりの朚造りの床は盞倉わらず軋んでいた。
    開け攟たれおいる前の扉を通れば空気の湿り気が䞀段ず増す。
    ムワッずくる脂ず綿の混ざり合う匂い。

    俺は俺の垭を芋぀けられないでいる。
    衆みなの顔もわからない。

    隒めきの音のあるこずを網膜で理解する。
    音は真空管の䞭、遠ざかっおいく。
    錓膜に靄の匵り付くような劙な感芚の䞭で、䞍芏則に速床を萜ずしおいく心拍だけが茪郭を持っお頭蓋の内で鳎っおいる。

    「ほれ、こんなずこ眮くんでないよ」

    倧ちゃんの声が片隅で聎こえる。

    「これ、おめえのか オノトでねえか ブルゞョワかい」
    「ハハ この倏にな。 すたんすたん。」

    埃すら被れない机の端を芋぀めたたた、暙本の虫の劂く立ち尜くしおいた。

    「垜子ずれ」

    戻っおきた倧ちゃんが背䌞びをする。
    行ったり来たり忙しないこず。

    俺より先に垭に぀いた垜子。
    身䜓から離れおいったものは、途端に他人事に倉わっおしたう。
    あれは本圓に俺の  

    「邪魔だ。」

    廃墟の䞀番奥で響くような冷たく、蔑む声に俺は振り向くこずができない。
    ただ、曇りの窓に映る青緑のがやけた圱が無抵抗な芖神経を締め付けた。
    肩甲骚のやや巊寄り、心臓の背埌を䜕か鋭利なもので抌されおいる。
    胞を芋䞋げれば、その先端から滎り萜ちる最期たでを焌き付けられそうでたたらず芖界を闇ずした。

    「自垭に぀きたたえ。」

    ただ自分たちずさしお倉わらぬような声に鞭打たれ、俺は恐らく自分のであろう空・垭ぞず身をおさめた。

    ──起立

    䞀拍分、出遅れた。

    ──瀌

    十五床深過ぎた。

    ──着垭

    二拍、遅かった。

    俺は抌し黙っお朚目を蟿っおいる。
    行き止たるたびにたた巊の隅から始めた。
    そうだ、迷路だ。

    やめよう、やめよう、やめろ。

    ──盞川、赀平、秋谷  

    しかし止たらなかった。

    ──石川、䌊䞹  

    止められなかった。

    ──怍束  

    音も意識も遠のいおいった。
    それでも怅子は䞍自然なたでに均衡で、机は  

    身䜓より先に自分を自分たらしめるものが飛び出しおいった。
    その埌ろ姿を空になった身䜓で远いかけた。

    そうだ、俺だけが空癜だったのだ。
    䞖界は  俺以倖は、塗り぀ぶしおいたのだ。
    日垞ずいうマス目を。
    はみ出そうが裏移りしようが、掠れおいようが取りこがすこずなく。

    藀の滑らかな足元を颚が吹き攫っおいく。
    生なき蔓が揺れおいる。

    どこで重なったのだろう。
    ひず塊りになった俺ず俺は研究棟の前、猛烈な癜檀に肺胞を朰されおいる。

    枇きの䞭で溺れおいく。
    目尻の偎が现かく明滅する。
    睫毛に぀く雚粒にも䌌た透明が䞀粒、土の䞭ぞ匕きずり蟌たれおいった。

    瀺趟ししの長い、䞍気味なたでに癜い足がだらりず垂れ䞋っおいる。

    しかし、次の瞬間には土を螏む䞋駄の足を芋る。
    そしおたた垂れ䞋る足を芋る。

    したった喉からは呻めきすら挏れない。
    喉を掻きむしる。

    喘鳎は劄想を拭い去り、俺はふらふらずただ緑の残る銀杏の巚朚を目指した。

    ──拝啓 小村教授
    先日は曞きかけにお倱瀌したした。
    すっかりず季節は進み、講堂前の倧銀杏も脳倩あたりは黄色く倉わっおおりたす。
    先生はもう、あちらに到着なさった頃でしょう。
    曞物は棚に玍た  

    終鈎が分厚い雲の䞋でこもり、濁りながら土に染み蟌んでいく。

    「朔ちゃん」

    解けた靎の玐を螏んづけおいる倧ちゃんは危うくひっくり返りそうになっお笑っおいる。

    「おめえ、そらなんだい」
    「え」

    ふず手元を芋お俺は面食らう。

    「鳩みおえな顔しおっず、そこの怋むくになめられっぞ」

    確かに頭の䞊では怋鳥が譊戒音を出しお怒っおいる。

    「督促の裏に字曞くんでねえよ。おめえ前も怒られたべ」

    俺の代わりに倧ちゃんの腹の虫が盞槌を打っおいる。

    圌はぞなぞなず俺の暪に座り蟌んで、嘆く。

    「俺、あい぀苊手だ。」
    「あい぀」
    「芋たべ 小村のおっさんの埌釜  いんや。釜に倱瀌だ あのアオミドロ」

    俄かにはアオミドロが思い出せず芖線は蜻蛉のあずを远いかけた。

    「なんだんべ、あのォ  むタミィ、り゚マツゥっお り゚マツゥっおな」

    唇を尖らせおは人差し指を空に向け、「぀」を釣り䞊げる倧ちゃんに俺は぀いに声を出しお笑った。

    「り゚ハラァ」
    「なんだい」
    「り゚ハラァ 小生、ハラァが空いお仕方がねえ」

    倧ちゃんは顔を真っ赀にしお呌吞をおかしくしおいる。

    「ほれ、朔ちゃん。埌ろ芋おみ 犏が倧行列しおやがる」

    俺には䜕も芋えなかった。

    「たた調子のいいこずを  」

    督促状を鞄の奥底に抌し蟌んだ。

    「み぀豆、食いに行かねか」

    倧ちゃんの手は鞄の䞭で冒険しおいる。

    「だども今  ぜんざいに栗でも入っおるんでねえか」

    二床ず䜕も食えなくずもかたわない。
    どうか我を牛にしおください。
    そしお、この幞犏ずきを臌歯で食はむだけの呜をお䞎えください。

    仏の前で神に祈った。

    隣からは、炒り卵の銙ばしい匂いが挂っおいた。

    (続)


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    始たりっお倧抵終わりだっお知っおたしたか

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    殎り殎られシリヌズ初の番倖線。
    䞻人公・䞊原朔也から故・小村憲䞀郎ぞの手玙。

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    偏芋しかない゚ッセむ。

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    ゆきお様・䜜
    蚀葉の重なりを操れば、モノの本質がかえっお鮮明になる。

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    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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