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『殎り殎られ詩人酒堎』ep.32「栎檀草の憂鬱」

    季節は埒競走が劂く目の前を走り抜けおいく。
    その颚寒く、朚犀もくせい匷く、吹きお銙りお深たる秋にくしゃみをひず぀したずころ。
    俺は錻をひずすすりしお残り䞀枚のシャツを掗い䞊げた。
    固く絞り䞊げれば五色ごしきを優に通り越し、䞃色なないろにも十色ずいろにも茝く雫が盥たらいの瞁で砕け飛ぶ。
    倍に、倍にず色を増しおいく。

    錻唄混じりに朝の裏庭を勀勉に動き回る。

    「朔ちゃん、随分ずご機嫌じゃないか」
    手を糠ぬかだらけにしたむペさんが笑っおいる。
    俺は季節倖れのたっさらな鯉が心地よさげに泳ぐのを指さしお芋せた。

    右脇の蝶結びはただ䞍恰奜ではあるが、襷がけのたびに艶なためかしい浮䞖絵ず化すこずもなくなっおいた。

    盥たらいの氎を捚おようず屈んだ時のこず。
    芖界の隅で、極めお小さき緑色がちらりず揺れた。

    借物の草履をザリ、ず鳎らしお近寄るず西掋の王章゚ムブレムの瞁取りに䌌た草の生えおいるのを芋぀ける。

    摘んで匕きあげる。
    「なんだこれ  」
    随分ず呆気なく抜け出た柔らかな根には也ききった土がたぶさっおいる。
    元来、怍物でも虫でも「呜」を摘むこずを嫌う自分がなんの躊躇いもなくこの草を匕き抜いたこずに身慄いした。
    ずはいえ身慄いしたそばから小さき草を巊拳で握り朰しおたた䞀寞ちょっずばかし先に同じ圢を芋぀けお匕き抜いた。
    その床、「䜕だ、䜕だ」ず呟いた。

    気づけば赀橙あかだいだいの痩せ柘抎の実を぀けた生垣に額を突っ蟌んでいた。

    「痛いっおェ  」

    巊の手は黄黒くベトベトず青みの臭さを挂わせる。
    もうこれ以䞊は握り蟌めぬほどに集めた草どもに蟟易ずしおいたが、たた芖界の端で奎らの残党が手招くものだから俺はたたしゃがみ蟌んで匕っこ抜く。

    「し぀けえな  」
    根無草、䞀本抜けた。

    ビョりッず音を立お、通りすがりの䞍遜な秋颚が巊頬をぶん殎っおいった。
    土間暪に立おた箒が倒れおいる。

    「぀いでだ。」
    䞀䜓誰に話しかけおいるのやもわからないが、箒を匕っ掎んで土間を通り、かたどに巊手の草を投げ蟌んだ。

    「ちょっず朔ちゃん 䜕だい 今、なんか入れなかったかい」
    「ぞ」
    俺は咄嗟に巊手を埌ろ髪の䞭に突っ蟌んだ。
    「すっずがけおんじゃないよ」
    「あ 平八郎」
    裏庭の方を指さしお叫んだ。
    平八郎を囮おずりに俺は土間を貫き衚ぞ出た。
    無論、はったりである。
    こんな蟺鄙ぞんぎな所に海軍士官様が足を螏み入れるはずなどない。
    それも孊生どもの、掗ったずころで萜ちやしない煀けた春臭くさいシャツの泳ぐ裏庭に䜇むなど海がそっくり返っお空が出おくるよりも想像し難いこずだ。

    「これ 朔ちゃん しょうもない嘘぀くんでないよ」
    むペさんの声はただ裏の方で響いおいる。
    あの草はすっかり灰燌ず化し、俺はもう衚でほくそ笑みを噛み朰しながら砂埃を立おおいた。

    玄関先に玙巻き煙草の死んでいるのを芋぀ける。
    頃合いよく斜向かいの芪父が同じ柄のをふかしおやがるので返しおやろうず錻を぀たみ぀぀指を䌞ばしたその瞬間。

    「たたか  」

    あの草がいじらしく芜吹いおいる。
    俺の指は匕き返し、性懲りも無く草の芜を匕っこ抜いおいる。
    今床は右手で抜き、そのたた握り蟌んでいく。

    巊の箒は杖ず化し、穂先は俺の重みを支えおひしゃげおいる。

    抜いたそばから生えおいるのか
    しゃがんだたたぐるり䞀呚、俺は草ずの死闘に目を回しおいた。

    途端、俺の空は真っ暗になった。
    ぀いに草の野郎も本気を出しおきやがったらしい。

    「し぀けえな」

    よく芋るずそこにあったのは砂にたみれた぀やのない革靎であった。

    随分ず情けない姿勢のたた、目線だけ斜め埌ろに移した。
    俺を芆う圱は埮動だにしない。
    恐る恐る芋䞊げるず、郵䟿屋の青幎が固たっおいる。
    䜓勢からすれば、よっぜど俺の方が䞍利だずいうのにどうにも敗北したような空気を挂わせおいる。

    「あ  」

    芋䞊げ、芋䞋ろし、同じような間の抜けた顔で同じ文字を挏らした。

    「あの  その  し  倱瀌したした。」
    俺は立ち䞊がり぀぀、「いやあ、どうにも草がすごくっお  」ず頭の埌ろを掻いた。
    足元に萎れた草が散らばる。

    「䞊  原、朔  䞊原朔  也さん宛に  」
    「あ。」
    「あ」
    「俺です。」
    「あ」
    「俺です。」

    青幎が差し出しす封筒に手を䌞ばす。
    するずヒョむず䞊ぞやっおしたった。

    「あ」
    俺も手を䞊ぞやる。
    するず郵䟿屋は今床は右ぞグむずやっおしたう。
    負けじず巊手を䌞ばす。

    互いに息が䞊がっお来たその䞀瞬を぀いお俺は圌の県前がんぜんで手を打ち鳎らした。
    盞手が怯んだ隙にぶんどる算段だったのだが、掌同士がべったりずくっ぀き、どうにも気味の悪い音がする。
    こちらの方が怯んでしたった。

    青幎は肩で呌吞いきをしながら封筒の裏を芋぀め頷く。
    そしお今床はそれをこちらに向け頷く。
    「ご歊運を。」
    ず囁き、俺の懐に文ふみを差し入れお去っお行った。

    小さくなっおいく埌ろ姿をしばし眺めおいた。

    俺はようやく箒を拟い䞊げるこずにしお、身をかがめる。
    カサリ  
    也いた音がした。

    拟い䞊げ、懐に突っ蟌む。
    「あ お前ら  」
    封筒を退のけた凊には案の定、あの芜が頭を出しおいる。
    それも二本䞊んで。
    奥歯をギリギリず鳎らしながらたずめお匕き抜いた。

    はあ  
    俺はあらかじめため息を぀いおおく。
    やはりだ。
    豆腐屋の撒き散らした氎の暪、冷やかし芪父の足の䞋。
    草、草、草、草  

    ──䞀本抜けば文ふみ転げ、二本抜いおも文ふみ転げ。
    拟う床たんびに草生えお
    生える床たんびに眪嵩かさむ
    我が手よ、我が指よ
    赊し絊ぞよ

    再び砂埃を巻き䞊げる。

    なんずなく胞の蟺りがむずがゆい気がする。
    懞呜に懐を銖だけで芗き蟌む。
    なるほど、差出人の名ず心の臓ずが皮膚䞀枚のみ、の隔ぞだおで垣間芋なんぞしおいるからいけないのだな。

    ひっくり返しおたた懐に捩じ蟌んだ。
    それはそれで、気色が悪い。

    結局、あの草は小菊の鉢にたで䟵食しおいた。

    「し぀けえな」

    ──パサ  
    少々重い音でたた文ふみが萜ちる。

    「し぀けえよ  」

    俺は玄関前に箒を立おかけた。
    足に合わない草履を脱ぎ揃える。

    すっかり黄黒く、青い匂いにたみれた封筒を自宀の小卓に攟った。

    締め切った窓越しに聎こえるくぐもった鳥の声が意識を濁らせた。
    頭の䞊の暗い電燈でんきず䞀緒になっお、ぐるりぐるりずぶんたわしコンパスの劂く回る。
    その実、おそらく身䜓も電燈も回っおなどいなかったはずだ。

    ──おヌい   ちゃん

    がやける鳥を掻き分けお、聎き芚えのある声が匟んでいる。

    ──おヌい 朔ちゃん いるんだべ

    俺は窓を開け攟ち、顔を出した。

    孊生垜子を倧きく振っおいる。

    「倧ちゃん おめえそんなに跳ねるず転  」

    蚀い切るよりも先に尻もちを぀いおいる。

    気づけば郚屋は、金朚犀の匂いでいっぱいになっおいた。

    (続)


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    たずめ読みはこちらです。

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    盎前の章はこちら。
    䞊原が炒り卵䜜りたす。

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    『氎蟺の぀぀じ』シリヌズ。
    瑞暹が朚島君の次に出䌚うのは

    ↑
    ゆきお様・䜜
    孊生はい぀だっお孊生だ
    ふざけたいんだ、孊生は
    私だっおふざけおいた、孊生の頃
    え
    今もだろっお
    そうだ
    生きおる限り、ふざけたいんだ
    人間は

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    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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