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『殎り殎られ詩人酒堎』ep.31「虎喰らい、孊びたたえ」

    ──月を芋る間も無く眠っおいたやうだ。

    われはたた枯草色の着物を着お、今朝は倜も明けやらぬうちから卵を炒いっおおる。
    雪平の鍋底の黒、卵に移ろいお虎の劂く勇たしくなれり。
    「やい、文士ぶんし。貎様、我らが朝食に没食子酞もっしょくしさんにお挫ろ蚀すずろごず曞き連らぬずは䜕事ぞ。」ず咆同ほうこう掻かき連぀らねし黒衣くろごろもどもに我が心憂こころうさ深たれり。

    小卓の䞊の癜玙原皿はただ、朝の光を济びおいない。
    䞇幎筆はそのたっさらなマスをいく぀も䜿っお莅沢に睡ねむりを貪っおいる。

    今朝も俺は枯草色の着物を着蟌むず、襷の䞀端を咥え階段を駆け降りた。
    「おはよう、朔ちゃん。よく寝たかい」
    「ぞ はあ  」
    ただ暗い䞭、かたどに火を入れるむペさんは背䞭だけで蚀っおのける。
    「朔ちゃん、あんたね、芋かけによらず足音でっかいんだよ」
    「ぞ」
    俺は自分の足を眺め䞋ろし぀぀、胞の高さに䞊げた巊腕に玐を絡めおいた。

    「さっきから䜕だい その気の抜けた返  」
    突然振り向いたむペさんに俺はたじろいだ。
    「今日はなんだい 枓斎英泉けいさいえいせんかい 朝っぱらから艶なためかしいこずだね」
    そう蚀い぀぀、やはり瞬く間に俺を健党に瞛り䞊げた。
    「ほれ、できた ボサっずすんでないよ、この倩䞋のスケコマシが」
    「あ、むペさん、それはよくねえべ」
    「やめないかい、朔ちゃん 笑わせるんでないよ」
    むペさんは昚朝たでの居候を、俺は無二の芪友を想い笑い合った。

    シュりシュりず音を立お、カタカタず暎れる蓋。

    「ああ」
    「いけない」

    二人で勢いよく土間ぞず駆け出した。
    ずは蚀え走るほどの距離もなく、転げ萜ちるように進んだに過ぎない。

    癜黒写真の四十男は今朝も朗らかに埮笑んでいる。

    少しず぀倖は癜み始めた。
    俺の火吹竹の吹き方がなっおいないず音倧の奎が熱心にやっお芋せるものだから、仕事がひず぀なくなった。
    持ち䞊げた挬物石を足の甲に萜ずしかけたのを法曹の成り損ないに救われる。
    あたりの情けなさに絶句した。

    そしお俺は今、雪平鍋に溶き卵を投じんずしおいる。
    「朔ちゃん、あんたそれい぀たでそうしおるんだい 火噎くよ」
    「え」

    掎たれた巊手銖はひるがえり、ゞュッずいう音ず共に卵は固たり始めおいる。

    「え え」
    「右手 右手しっかり動かすんだよ」

    俺は四本の菜箞で必死に鍋底を掻いおいる。
    しかし、卵は焌け぀きこびり぀くばかりだ。

    「朔ちゃん、なんだい その屁っ攟り腰は もっず腰 腰入れる しっかり立぀」
    「痛いっおェ」
    「料理は呜 呜懞けおやるんだよ」
    これじゃいくら呜があったっお足りねえや
    ずいう叫びを飲み蟌みながら、痛む尻にも構わずがむしゃらに右肩ごず動かす。

    「ほれ 巊手 巊を振るんだよ」
    右だの、巊だの、腰だの、䞀䜓俺はどうすればいいのだろうか。
    身の振り方  吊、もはや蚀葉の意味合いすら朧げになるほどに混乱しおいる。

    「朔ちゃん、あんたどうにも巊手が怠ける癖があるね  」

    かろうじお出来䞊がった炒り卵の぀もりのものを皿に盛る。
    黄色、耐色、黒色、黒色、黒色、黄色、耐色  
    雪平の底をこそげる俺の背埌で皮肉屋の腹っぺらしの黒衣が唱えおいる。
    劙に腹が立ったのは、その実況があたりに的を射抜きに射抜いおいたからだ。

    「文士様の䜜っおくれた飯なんざありがおえな。」
    などず嫌味ったらしく笑っおいる。

    「嫌なら食うな」
    皿を取り䞊げんずしたずころ、奎らは涎を垂らしおすたぬすたぬず詫びおくる。

    土間ではむペさんが鍋底のこびり぀きをこそげ摘んでひょいず口に攟り蟌んだ。

    「党く物曞きの先生たちには参っちたうね 叶わぬ恋に珟う぀぀を抜かしおる暇があったら、蒲公英たんぜぜの倩ぷらの䜜り方のひず぀でも曞いずいおくれたらいいじゃないか」

    瞬間その通りだ、ず思った。
    しかし、同時に人生の春に悶々ずした青幎が校舎の庭の黄色い花に手間をかけるなんおものは䞍毛な恋よりよっぜど虚像たがろしだずも思った。
    ずもすれば、あの茎の粘っこい癜汁にも構わず食っちたったず蚀う方が䜙皋よっぜど珟実だ。

    「なにぶ぀ぶ぀蚀っおんだい」
    途端、口の䞭に黒いものを突っ蟌たれた。

    「こういうのを物曞きの先生方は、なんお蚀うんだい」
    むペさんはおちょくったような顔で芋䞊げおくる。

    「我が青幎の日の焊がし胞の匂ひ 過ぎたる哀しき情欲の味  」
    「いやあ、けったいなもんだ」
    「おお 苊い 苊い」

    䞋宿の朝は隒がしい。
    舌の付け根の苊味に心を歪めながら、俺は腕を組みしばらく黒衣どもの笑うのを眺めおいた。

    昚日たでの金朚犀の予感の銙は䜕凊ぞ  
    俺は焊げ鍋を盥ぞず沈めた。

    ちゃぜ  ず泡あぶくがひず぀、穏やかに砕ける。

    あくびを堪えお、぀んず錻が痛む。

    ──物憂げなる朝の陜射し。
    秋の日に蒲公英を思ひお胞の苊々しきを叫ぶなど、愚、極たれり。
    されど黒衣、虎食ひお勉孊に励むなど、愉快哉。
    愉快哉。


    (続)


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    たずめ読みはこちら。

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    盎前の章。

    ↑
    窓偎の垭に座っおはいけない理由。
    新倧孊生、心しお垭をお遞びください。

    ↑
    小泉八雲も出おくる゚ッセむ。

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    ゆきお様・䜜
    おっず、文孊はいずこぞ
    最も文孊で、文孊の倖ぞず誘わんずする展開に手に汗握る
    ゆきお様に翻匄されおみるべし

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    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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