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『殎り殎られ詩人酒堎』ep.38「八角圢の硝子倩井」

    ──柱みなき蒌穹、我が憧憬。

    八぀の刻、かたどの薪は燃えおいた。
    裏庭では早垰りの詩人気取りが䞀un、二deux、䞉troisず竹刀を振っおいる。

    俺は葱ず猪口什糖チペコレむトの混ざり合う匷烈な匂いに嘔気はきけを催し぀぀、「行っお参りたす。」ずむペさんに声をかけた。
    「なんだっお急にそんな  どこ行くんだい」
    「孊校。」
    俺は振り向きもせず、䞋宿を出た。

    前をゆくセキレむに倣っお、足早に。

    掃き残しの楓の葉がすれ違う巡査の車茪の䞋で砕ける。
    その音に驚いたか现き・・・鳥は姿をくらたした。
    手本を倱くした俺の足はも぀れにも぀れ、芪を探す迷い子の劂くすっ転んだ。
    倕焌前の黄色い倪陜の灯る瓊斯灯を芋䞊げる。
    その鋳鉄の柱にすがり立ち䞊がり振り向けば、玺の詰襟が拳銃ピストル構えお远いかけおくるのが芋える。
    遁走はしらねば  

    俺は走った。
    幟床ずなく転んでは起き䞊がり、肺を吐きそうになりながら走り続けた。

    ──誰か
    そこの孊生・・を  

    巡査の口は呜什の圢を瀺した。
    通行人は皆、同じ顔で同じ服を着お迫り来る。

    䌞び過ぎた襟足は銖筋に黒く波打぀筋を䜜る。
    背を冷え切った汗が぀たう。

    ──やめろ
    この䞉文字は俺の䞭のみで鳎る。
    揺れぬ声垯、凪の空。

    再び向き盎り走り出そうずした瞬間、肩に衝撃が走った。
    気付けば尻を地に打ち぀けた圢で身䜓は固たっおいる。

    倖套の裟を螏み぀けられおいる。
    䞇事䌑す  か。
    額に圓たる冷たく固い金属。
    ああ  俺はここで死ぬのか  

    「倧䞈倫け え 朔ちゃんかい おめえ䜕しおんだ」
    「  倧ちゃんかい」
    「芋たらわかるべ こんな男前、俺しかい  」
    蚀い切るが早いか笑うが早いか俺の顔目掛けお飛沫しぶきが飛んできた。
    抱腹絶倒の舞に勀しむ友を前にしおもなお、俺はただ虚像うそず実像たこずの刀別ができずにいる。

    玺の詰襟は、亀番の前で少幎に朗らかに敬瀌しおいる。
    道には赀ん坊をおぶった女や、茶色の犬がいお、ボサボサ頭のバンカラが虚ろな目をしお歩いおいる。

    「で、朔ちゃん。䜕しおんだ」
    「孊校。孊校行くんだ。芋ればわかるだろうよ」
    俺は孊生垜子を指差した。
    「もう終わったずこだど それにおめえ  」
    「なんだい」
    「たあ、うん。」
    「なんだ はっきりしねえか、倧ちゃん」
    倧ちゃんはやや眉尻を䞋げた埌、小指で錻を掻いた。

    「気にすんでねえよ。んなこずより今からおめえんずこ行こうかず  」
    倧ちゃんが俺に觊れるたび、赀や黄色の朜ち果おた葉の砎片が地に舞い萜ちる。
    「おめえ䞀䜓どこ通っおきたんだい」
    倧ちゃんが俺の垜子のおっぺんを払わんずした時、栎檀の金释が足りないこずに気いた。

    俺は释のないずころに觊れた。
    「倧ちゃん、おめえこれ  」
    「孊校着いお気づいたんだけんど  おめえんずこの䞋宿出た時はあったから。」

    背骚の浮き立぀感芚に、俺は振り向く。
    䜕も、ない。
    䜕もないこずが、かえっお恐ろしい。

    「だから朔ちゃんずこ行こうずしおたんだべ そしたら急に飛び出しおきたもんで」
    「いや、だめだ。倧ちゃん。孊校だ。たず、孊校。」
    「んだよ  散々枋っおたのに。なんだい」

    怪蚝そうな顔の倧ちゃんの背を抌し、俺は歩いた。
    亀番の巡査に敬瀌しお、ずにかく歩いた。

    孊校の倧銀杏はおっぺんたで黄色く染たり、黄金こがねの雚を降らせおいる。
    倧ちゃんず俺は奥ぞず進み、研究棟を目指した。
    建物の前の藀棚もたた、金色の窓垷カアテンのように芋える。

    「え  」
    「ん どうした」
    「これ、本圓に研究棟かい  」
    「䜕寝がけたこず蚀っおんだ んだべ おめえだっお小村のおっさんの頃来たんでねえのか」
    「  」
    確かあの頃は  
    廃墟のような、もっず仄暗い灰色で蔊が絡たっお  
    倖階段を十五段登り、鍵のかかっおいない扉を開ける。
    「なあ、倧ちゃん ここ鍵かかっおないん  」
    「いちいちかけないべ」
    倧ちゃんのごもっずもな蚀い分に、俺の海銬は完党に信甚を倱った。

    研究棟の䞭ぞ足を螏み入れた俺はいよいよ銖が䞀回転しかねないほどである。
    「なあ  倧ちゃん   なんだい、このカフェヌみおえなのは  」
    煉瓊や色硝子で装食された八角圢の倩井に俺は狌狜うろたえた。
    「え 前からこうだべ」
    「もっずこう、しけおなかったかい」
    「おめえ、適圓蚀っおっず叱られんど」

    適圓なこずであるものか。
    俺は䞍服の顔で倧ちゃんのやや埌ろを歩く。

    「やべ 朔ちゃん、こっち」
    「え」
    急に腕を匕かれる。
    「そこ そこの隙間入れ おめえなら入れんべよ」
    「え」
    「がさっずすんな」
    たさか、無二の芪友ず信じお止たぬ男の無慈悲なたでの蹎りを喰らうこずになるずは。

    「  なんだっおこんな  」
    「シッ」
    倧ちゃんは極めお真剣な顔で人差し指を唇の前に立おた。
    圌の目は揺るぎなく䞀点を芋぀めおいる。
    俺の研究棟にた぀わる蚘憶がおかしいのはさおおき、他の孊生たちが平然ず歩いおいる䞭で倧ちゃんはなぜこんなにも怯えおいるのだろう。
    そしおなぜ俺を隠しお自分は  
    ん
    自分は壁ず䞀䜓化しおいるのだろう。

    ずもすればやはり俺は小村教授を  
    この建物の倖芳や内郚構造は俺の劄想が芋せた虚像うそであったずお、ここにた぀わる血生臭い蚘憶のみ真実たこずなのか

    䜕もわからないのだ。
    その実、俺は小村教授に察し特段なんらかの思い入れがあったわけではない。
    圌の研究に関しおも、圌自身に関しおも。
    第䞀に教授に関しお思い出せるのはぶっかく前のぶっかき氷ほど分厚い県鏡ず藀の花に぀いお語る声だけだ。
    どうしたっお顔だけが出おこない。

    俺は人の脚の高さの芖点から、青緑の背広に䞭折れ垜の男の暪顔を芋た。
    倧ちゃんの身䜓が壁にめり蟌みそうなほど䞋がり、拳が震えおいる。
    「倧ちゃん  」
    「アオミドロだ  」
    「アオ  」
    「おめえ忘れたのか」

    思い出した。
    あの日、俺の名を読み䞊げなかった男だ。
    それ以䞊でもそれ以䞋でもない。

    「なんかされたのかい」
    「いんや ただあい぀が嫌いなだけだ。」
    「たたどうしたっお  」
    「ずにかく嫌いなだけだ。」

    アオミドロはくるりず向きを倉え、俺たちのいるのずは反察ぞず向かっおいった。

    倧ちゃんがふうず安堵の息を吐く。
    俺は尻をさすり぀぀、倧ちゃんの脚の間をくぐり立ち䞊がった。

    俺はたた八角圢の倩井を芋䞊げた。
    吞い蟌たれそうで恐ろしい。

    「銬鹿 朔ちゃん来い」

    俺の右腕はちぎれかけた。
    再び身を朜めれば、冷えた靎底の音が脳の奥で響く。

    倧ちゃんの震えの埌ろで俺はただ、蚘憶ず珟実ずの察照コントラストに混乱しおいるのだった。

    (続)

    ↑
    倧正時代の孊生だっお萜第もすれば乖離もする。
    たずめ読みはこちら。

    ↑
    小村教授に぀いお。

    ↑
    『殎り殎られ詩人酒堎』史䞊初、番倖線
    小村教授ぞの手玙。

    ↑
    【屁ッセむ】
    曞店にお屁をこいおしたった話。
    (特倧反省文)

    ↑
    最近曞いおいる恋愛小説のあんたり恋愛じゃない章。
    䞻にバむト先の䌑憩宀の話。

    ↑
    ゆきお様・䜜
    「かっこう」ずいう鳥はあの朗らかな鳎き声からは想像も぀かないほどえげ぀ねえ奎ですが、もはやそれ蟌みで朗らかに思えおくるのですから  

    この蚘事が参加しおいる募集

     
     
    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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