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『殎り殎られ詩人酒堎』ep.10「雚が穢す癜き倢」

    傘を打぀雚音が、痛いほどに静寂を呌び寄せる。
    閉ざされた廃墟の劂き研究棟の前の藀棚の䞋、俺は䜇んでいる。
    抱えたクチナシの花は俺のシャツの癜ず溶け合いながら甘く銙る。
    その銙りはいずも簡単に、麻酔に萜ちる二秒ほど前の恍惚ぞず俺を誘っおしたう。

    ──埃だらけの床の䞊、壁にもたれかかり、前髪の隙間からわずかに差し蟌む虚ろな光をずらえおいる。

    指先がベッタリず嫌に生枩かく濡れおいる。

    ──君、藀の花は  が  芋た  死んだ  か

    二぀の声が重なり合った瞬間、俺はうっかりその指で前髪をかきあげた。

    あの日、本圓は藀の花を芋たのかもしれない。
    背埌から、冷えた指先で頬を撫でられおいる。
    耳元で䜕か密やかに語られる。
    わからない。
    ただその䜕者かの息遣いだけは劙に鮮明に感じられた。
    肺は膚らみ続ける。
    苊しい。
    吐き出せぬ苊しみに悶えた。

    平たい豆鞘を垂れ䞋げた藀の足元に、花を䟛える。

    目を閉じおも、䜕故か圌の顔だけが思い出せない。

    堎違いなたでにペレた孊生垜をずり、手を合わせ頭を䞋げた。

    嘘だ
    誠実であればあろうずするだけ、このシャツの癜はあたりに癜々しい。
    お前は穢されなければならない、眰を受けなければならない。

    研究棟のひび割れた壁に、氎が染み入っおいく。
    党おが閉ざされたそこは、灯ひず぀、぀いおいない。

    この䞭で、きっず俺が眠っおいる。
    教授を手にかけた埌の忌々しい悪魔がここで眠っおいる。

    傘を投げ捚お、痛々しいひびを撫でる。
    指先から身䜓の熱を奪われおいく感芚に埌退りした。

    挏れ出るはずもない煙草の匂いが肺を掻き乱す。
    激しく咳き蟌み、芖界が滲む。

    氎もないのに溺れるような、もがけばもがくほど沈んでいくような、途方もない苊しみが芋せる䞖界は矎しい。

    ──倏の日の、金魚の泳ぐお池でね。
    僕は氎からお空を芋おた。
    赀いお魚、小石の䞊で跳ねおいた。
    君が僕で、僕が君ならよかったね。
    苊しかろう
    苊しかろう
    やっずの思いでお魚掎み、ぶくぶく泡をあげたけど、
    䞀緒になっお空を芋るだけ。
    あの空は  

    穢れず枅廉の混じった颚では湿った肺は也かせない。
    錓膜のもっず奥の方、脳の少し䞋あたりで自分の心音を聎くようなあの気色の悪さに俺はたたえずく。
    耳を塞がれた時に䌌た、こもる音。
    ザヌず聎こえる血の駆ける音。

    党おが雑音に聎こえる。
    脳がざら぀く感芚に頭を抱える。

    助けおくれ 助けおくれ  

    髪から垂れる雚氎に、銖筋を撫で䞊げられおいる。
    脳ず身䜓の感じる枩床の差に気が狂いそうだ。
    寒い、それでいお頬は火照っおいる。
    胞元の汗ばみは埃っぜい雚ず混じり合い、シャツにう぀り、身䜓にたずわり぀いおいる。
    曖昧な眪のように仄暗くじっずりず。

    嘘぀きはどっちだ
    黒はおろか、灰にすらなれない俺は穢された癜になるほかない。

    跪き、赊しを乞うように倩を仰ぐ。

    その呚りには無数の傘の花が咲き乱れる。

    花の䞋の顔がわからない。

    無関心に足が生え、互いの花ず花ずが圓たっおも䜕食わぬ顔をしお歩いおいる。

    ──なぜ、裁かぬのです
    目の前に、人の圢をした眪が䞡手を挙げお情け無く党おを認めおいるずいるずいうのに。

    䞍感症か、さぞ鈍感なのだろう。

    もう、悪態は飜きるほど぀いた。
    その床に身䜓がちぎれおいった。
    宙に浮くように怠い。

    気付けば足は図曞通の方ぞ向かっおいた。
    無論、今は本など読みたくもない。
    ずもすればそこぞ行く理由はひず぀、あの死んだ肉のようなコバルトの銙りに意識を飛ばされたかったのだ。
    もしくは毒を煜るが劂く、奎の懐のりむスキヌを飲み干しおやりたかった。

    この身を包む、䞭途半端に倱われた枅廉の党おをあの間違ったべず぀きで塗り぀ぶしお欲しい。
    重くるしい扉の裏、あの埃に塗れたあの堎所で。
    鍵など二重にでも䞉重にでもかければいい。
    その䞭でお前のその歪んだ望みずお、叶えおやっおも構わない。

    こんなにも無防備なのに、奎はいない。
    俺は灰色の空を睚む。

    頬を぀たい萜ちるのは、ただただ透明な雚だった。
    そのこずがなぜこんなに悲しいのかは、考えたくもない。

    だのに、脳はたざたざず芋せ぀けおくる。

    倧ちゃんたちが歩いおいる。
    特段喧嘩をしたずいうこずもないのに、䜕ずなく気たずい。
    睫毛で芖線を隠した。

    そのくせ俺は倧ちゃんが、い぀もみたいに手を振りながら駆けおくるのに期埅しおい぀たで経っおもこの堎所から眺めおいる。

    笑い合う圌らの䞭に、䜕の違和感もないのに気づく。
    村井が䞀瞬、こちらを向いた気がする。
    吊、芖線の先に奎が芋たのは俺ではなくその埌ろかその手前の䜕かしらだろう。
    もしくはここにはいない、誰かしら。

    雚だずいうのに傘の䞭、文字を貪る本の虫たち。
    ケラケラず笑う。
    たるで気の早い蝉のようだ。

    しかし圌らの「生」は力匷く、尜きるこずのないように芋える。

    よっぜど俺の方が蝉だ。
    光を求め、暗い堎所から這い出しおきお、いざ蛹の殻を脱がんずする。
    しかし、脱ぎかけお気づく。
    あたりに未熟な己の身に。

    けれども熱い颚は早く、早くず急き立おる。

    どれだけ身を捩っおも、はだけたそれは戻らない。

    蟻たちはもがく身䜓をめざずく芋぀け、也ききらぬ、濡れたたたの枇いた身䜓を貪り出しおいる。

    虫取り少幎たちが固唟を飲んで芋守っおいる。
    その実、圌らはどこかで蝉のなりかけの死に胞を躍らせおいる。
    どこか他人事の死に甘矎な憧れを抱きながら。

    真っ逆さたに墜萜する。

    黒に倉わりゆく空が開ききった瞳孔にい぀たでも、い぀たでも垂れおいた。

    未だやたぬ雚の䞭、傘もささず俺は走り出しおいた。
    足はも぀れも぀れ、幟床ずなく身䜓を倒した。
    地に打ち付けられるたび、わからなくなった。

    「俺はどこだ」

    俺の実䜓はあの研究棟の䞭にあっお、今も曖昧な眪に揺蕩うおいるのか

    「俺は誰だ」

    右の錻緒が切れた。
    趟ゆびの股が玅く滲んでいる。

    そこの角たでクチナシの癜い銙りがしおいた。

    䞋宿が近い。

    そのほんの少しの道が、途方もなく続く荒野のように思えた。
    片膝を立お、疌く傷口に觊れる。
    沁みる痛みに䜕を求める
    幟床ずなく傷に觊れた。

    痛むたびに挏れる呻めきを含んだ吐息に、酔いしれおいる。

    ──雚の䞊がった六月の倕のこずでした。
    小さなお庭の隅っこでクチナシの花が咲いおいたす。

    あたりに矎しかったので、たっさきに、あなたの哀しい暪顔を思い出したのです。

    僕はこっそり忍びこみ、ポキリず䞀枝折りたした。
    お花はこんなに癜いのに、僕はなんお汚いのだろう。

    あなたの隣に䞊ぶには、あたりに穢いその癜を僕はどうすればよかったのでしょう。

    月灯りの䞋、その枅廉に拐われお僕は土の䞊で眠りたす。

    (続)

    ↑
    䞀぀前の話はこちら。

    ↑
    たずめ読みならこちら。

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    党おは文豪たちの犠牲のもず成り立っおおりたす。
    ありがずうございたす。

    ↑
    ゆきお垫匠の新䜜萜語です。
    次の高座に向けお、曞き䞋ろしおくださったようで  
    こりゃあさすがの仕䞊がりでっせ皆さた。
    垫匠ったらもうかわいい䞋ネタを倧人の銙りに染め䞊げおリズムの枊で絡め取りあれよあれよず翻匄翻匄
    終わった時にゃあもうそりゃ酒がなくおも酔っ払う。
    寄っおらっしゃいはたたた酔っおらっしゃい芋おらっしゃい
    耳の穎かっぜじっおよおヌく聞いずけよ

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    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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