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【完結済】お好きにどうぞ『ラテックス、そして夏』ep.3/9

    「好きなとこ、座って」
    「では、失礼して」

    白石は西側の窓の下、クローゼットとCDラックの間に腰を下ろした。
    この部屋で唯一、床板が剥き出しになっている部分だ。

    「……そこ?」
    「他にどこかありますか?」
    白石は膝立ちになり、窓の外を眺め始めた。

    ──ベッド。
    たいていの奴がそこに座る。

    奴らは挨拶もそこそこに玄関に靴を脱ぎ捨て、ドタドタと階段を駆けあがり、「お前の部屋どこー?」と叫んでおいて、答えも待たずに片っ端から扉を開けていく。

    「突き当たって右奥!」
    そう答えた時にはもう妹の悲鳴が空を裂き、半径五キロメートル圏内の家々の窓ガラスは木っ端微塵に吹き飛んでいる。
    奴らは騒ぎを尻目に俺の部屋の扉を開け放つ。
    俺が妹に土下座をかます、その隙に。

    そして部屋の主人あるじたる俺が到着した時にはもう──
    奴らは座っているのだ。
    ベッドに。
    何食わぬ顔で。

    学校の埃まみれの踊り場に悪ぶって座ったその尻ケツ
    公園の滑り台を拭き掃除したその尻ケツで。
    お前の尻ケツは慈善事業そのものなのか?
    とにもかくにもベタベタベタベタそこらじゅうに座った尻ケツで!

    挙げ句の果てには、
    「えー、麦茶? しけてんな。オレンジジュースとか、コーラとかないわけ?」
    なんて言い出す始末だ。
    そもそも呼んでもいないのに──なんならいやだと断ったにも関わらずやってきて、
    「お前んち、プレステねぇのかよ。つまんね」
    なんてほざいて、小指でほじった鼻くそを四方八方縦横無尽に弾き飛ばす。

    そういう人間はこの瞬間にはもう、我が物顔でベッドに横たわってやがるんだ。

    俺はそれが許せない。

    白石は首を傾げたまま、俺を見上げている。
    「あー、いや、違う。違うよ? 何でもない」

    「俺、飲み物とってくるから。好きにしてて」
    「お構いなく」

    俺は扉を閉める。
    階段を二段降りたところで引き返した。
    ──どうせ……
    そんな諦めと、幾許かの意地悪な思いで。
    なるべく音を立てないよう扉を開ける。

    白石は「お構いなく」と言った時の姿勢のまま、壁にもたれかかるでもなく、膝を抱えて座っていた。

    今度はなるべく音を立てないように扉を閉めた。

    階段を降り、玄関に目を遣った。
    白石のローファーの爪先は行儀良く、扉を向いて並んでいる。
    その隣、俺のは剥がれかけた靴底を露わにして横たわっていた。

    「ああ」
    正体不明のため息が、季節性の湿り気の内に溶け消えた。


    本日も【習作】です。

    毎日暑いな。
    私はオーブンでじゃがいもとかさつまいもを焼いたり、魚焼きグリルで魚ならざるものを焼いては酢と出汁に浸して食ろうておる。
    「夏休み」っちゅうもんはかえって休めねェもんで。
    詩人酒場は廃業したのか、つつじは枯れ腐ったのかという問い合わせを多数頂いておりませんが、あちらは鋭意ストック製作中ですのでね、忘れないでやってください。
    上原朔也も貝原瑞樹も皆さんにお会いできるのをうずうずしながら待っておりますんでね。
    朔也なんぞは「なあ、そろそろインクがねェから買いに行ってもいいかい?」とか言っていますし、瑞樹に関して言えば寝つきが悪くて目の下くまだらけにしていますから。
    はい。

    【習作シリーズ】

    【いつもの長編】

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    ゆきお様・解説
    これを読めば、自分の中のもやもやとした感情が少しずつ解けます。

     
     
    ラブラドールの匂いで肺を満たしたいアラウンドサーティ。 9歳児に親育てされている本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、しつこく文字を掻き集める滑稽な姿を東京の片隅からお送りしております。 ※連載小説も基本的には一話完結として読める構成を目指しているので、おじけづくことなかれ。

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