
All-In Podcast 解説:米科学政策の刷新と対中競争──OSTP「新黄金時代」と研究開発改革(ゲスト: Michael Kratsios氏)
2026年8月25日
概要
ビジネスやテクノロジーの最前線を議論するポッドキャスト番組All-In Podcastの今回のエピソードでは、ホワイトハウスのOSTP(Office of Science and Technology Policy=大統領科学技術政策局)ディレクターを務めるMichael Kratsios氏を迎え、米国の科学技術政策の抜本的な刷新と対中競争戦略についての議論が行われました。
政権に対する「反科学」という批判への反論から始まり、新たに発表された政策報告書『Science, a New Golden Age(科学の新黄金時代)』の狙い、NIH(National Institutes of Health=米国立衛生研究所)やNSF(National Science Foundation=全米科学財団)における研究助成制度の構造改革、そしてAIを活用した科学研究の加速構想「Genesis Mission」などが詳しく語られています。
さらに、研究開発投資や論文数で急速に存在感を増す中国との技術覇権争いを見据え、米国内のSTEM(Science, Technology, Engineering, and Mathematics=科学・技術・工学・数学)人材パイプラインの再建や、基礎研究への回帰といった国家戦略の全体像が明かされています。
「反科学」批判への反論と科学の政治化からの脱却
科学雑誌『Nature』の読者調査で研究者の大多数が民主党を支持するなど、科学界において政権が反科学的であると見なされがちな風潮に対し、Michael Kratsios氏はその見方を明確に否定しました。同氏は、過去数十年の間に科学コミュニティ自身が本来のあり方を見失い、過度に政治化されてしまったことが根本的な問題であると指摘しています。
特にCOVID-19パンデミックにおいては、Anthony Fauci氏らの見解に異を唱える者が一律に反科学とレッテルを貼られるなど、科学が本来持つべき「疑問を投げかけ、データを集め、検証を繰り返す」という科学的方法が教条主義に置き換わってしまったと批判しました。
米連邦政府は毎年約2000億ドル(約31兆7820億円。1ドル=158.91円換算)に上る科学技術予算を支出していますが、従来の議論は単に予算総額を増やすことばかりに固執してきました。新報告書『Science, a New Golden Age』では、予算の規模そのものよりも、その資金が真に画期的なブレークスルーを生み出すために正しく配分されているかを問い直す姿勢を打ち出しています。
研究助成の見直しとエネルギー・気候変動政策
連邦政府の研究助成においては、資金の配分先を抜本的に見直す取り組みが進められています。2025年には約30億ドル(約4767億円)の未執行グラントの凍結や打ち切りが実施されましたが、その背景には科学の本来の目的から逸脱した助成への反省があります。
代表的な例として挙げられたのがNSFの年間80億〜90億ドル(約1兆2713億〜1兆4302億円)の予算配分です。上院の調査によると、前政権下の助成金の約25%にあたる年間約20億ドル(約3178億円)、4年間で約80億ドル(約1兆2713億円)がDEI(Diversity, Equity, and Inclusion=多様性・公平性・包括性)関連の要件に費やされていたとされ、こうした政治的な枠組みを排して純粋な科学的卓越性に基づいた助成に戻す方針が示されました。
気候変動研究についても、従来重視されてきた極端な排出シナリオ「RCP 8.5」がIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change=気候変動に関する政府間パネル)の予測から除外されるなど、過度な危機感を煽るシミュレーションへの過剰投資が是正されつつあります。政権としては、経済活動を制限して過去へ逆戻りするのではなく、2035年を目標とする核融合発電の実用化や原子力エネルギーの推進など、豊富でクリーンなエネルギー供給を可能にする新技術への投資を優先する姿勢を強調しています。
イーロムの法則と研究開発効率の停滞打破
米国の科学研究における深刻な課題として、研究費の増額に対して画期的な治療薬や発見の成果が比例して増えていない「イーロムの法則」が議論されました。NIHの予算は1998年の140億ドル(約2兆2247億円)から2003年に270億ドル(約4兆2906億円)、2024年には470億ドル(約7兆4688億円)へと拡大したものの、1ドルあたりの創薬成果は1950年比で約80分の1に低下し、9年ごとに半減しています。
この停滞を打破するため、NSFやNIH内に科学研究の進め方そのものを実験・検証する「メタサイエンス」部門を新設し、資金配分モデルの実験を開始しています。
審査員が合議を経ずに独断で採択を決定できるゴールデンチケット制度の導入
従来の18か月一律の助成期間を改め、短期集中や長期枠を設ける助成期間の柔軟化
組織ではなく優秀な個人の自由な研究を支援するフェローシップ制度の拡充
Slackの創業秘話として知られるStuart Butterfield氏が残金300万ドル(約4億7673万円)から事業転換して300億ドル(約4兆7673億円)の企業を生み出した例のように、ベンチャーキャピタル的な発想を取り入れ、失敗を許容しながら大きなリスクを取る研究を後押しする仕組み作りが進められています。
国家主導の大型プロジェクトと「ジェネシス計画」
基礎研究の底上げと並行して、かつてのアポロ計画やヒトゲノム計画のような国家主導の大型科学プロジェクトにも再び注力しています。具体的には、2028年の有人月面着陸と宇宙原子炉の配備、2030年の月面基地建設、さらにDOE(Department of Energy=エネルギー省)を通じた2028年までの科学的に有用な量子コンピュータの開発などが進行中です。
その中でも最大のフラッグシップ構想として位置づけられているのが「Genesis Mission」です。この計画は、材料科学、化学、物理学、数学などあらゆる科学分野にAIを適用することで、米国の科学的成果を実質的に倍増させることを目指しています。
民間企業が巨額の資金を投じる商用AI開発とは競合せず、政府はあくまで自然科学の難問解決にAIを活用するための基盤と支援を提供する役割を担います。また、FRO(Focused Research Organization=特定研究組織)や独立系研究所など、大学以外の多様な研究主体へも助成の門戸を広げる方針が明確にされました。
対中競争の激化と米国のSTEM人材パイプライン再建
中国との科学技術競争は、国家安全保障と経済的優位性を左右する最重要課題となっています。中国の研究開発費は2000年の330億ドル(約5兆2440億円)から2021年には6700億ドル(約106兆4697億円)へと19倍に急増し、学術論文の出版数でも米国を逆転してリードを広げています。
この競争に対抗するため、Michael Kratsios氏は米国内のSTEM人材パイプラインの再建が急務であると訴えました。現在、米国の大学でコンピュータサイエンス等の博士号を取得する学生の約7割が外国人留学生となっており、30年前の構成比から完全に逆転しています。
初等・中等教育における英才教育プログラムの復活や、大学入試におけるSAT(Scholastic Assessment Test=大学進学適性試験)などの標準テストの重要性の再認識、さらに低賃金にあえぐ若手研究者への直接的支援を通じて、米国内で育つ次世代の科学者を大幅に増やすことが不可欠であると強調されました。Google($GOOGL)傘下DeepMindのDemis Hassabis氏のような優れた科学者が社会的に尊敬される環境を再構築し、科学の探求心を再び国民的な活力につなげることが目指されています。
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