
おやつの時間No.6 シロクマ文芸部 待つ時間
待つ時間さえ、ほんのり甘くて温かい時間でした。
小さな女の子は、いつの間にか通学路の途中に、
ミモザの花咲くお家ができている事に気づきました。

いつもは人通りの多い道ですが、今は周りには誰もいません。
キレイなミモザに見とれて足を止めると、その家の庭に、ポテポテと歩いてくるブルドッグに
気付きました。

その女の子の前に来ると、ブルドッグはそのまま
寝そべります。
まるで女の子がここに来るのを待っていたかのようです。
女の子は近寄りたかったのですが、人のお家には
勝手に入ってはいけません。

女の子はしゃがんでブルドッグを見つめます。
今日あった出来事を思い出して、涙が出そうになるのをこらえます。
そのままじっとブルドッグを見ていました。
ブルドッグはまるで女の子に起きたことを分かっているよと言いたそうな顔をしています。
そしてキョトンと小首をかしげてきます。
ふふふと、女の子は握ったこぶしを口に当てて笑いました。

それから女の子は、学校の帰りに、そのミモザの
お家の前で足を止めるようになりました。
入口前で少し待っていると、いつもポテポテと
ブルドッグがやって来ます。
時々ブルドッグはふわあーとあくびをします。

お家に帰って、ミモザのお家とブルドッグの話を
お母さんにしようとしました。
でも、そんな家は見たこともないと一言だけ
返されて終わってしまいました。
女の子は学年が上がっても、ずっと毎日ミモザの
お家の前に行きました。
そこのお家は、いつ行ってもキレイなミモザが
咲いていました。

冬に小雪がちらつく中、セーラー服が汚れる心配もしないで、女の子はミモザの花咲くお家の前の道にしゃがんで、ブルドッグが出てくるのを待つ日も
ありました。

お家の周囲はいつも人がいません。
女の子を冷たく無視する人も、罵倒してくる人も、教科書を隠す人もいません。
ブルドッグがポテポテ歩いてくるのを待つ時間
さえも、女の子にとっては、ほわりと気持ちが
ゆるむ時間となりました。
それからまた時がたち、女の子はスーツケースを
持って、ミモザのお家の前に行きました。
今日の待つ時間は、いつもとは違う時間でした。
春になったとはいえ、まだ寒さの残る日でした。
ブルドッグがポテポテと歩いて来ました。
女の子は一つ深呼吸して、思い切って初めて
ブルドッグに話しかけました。
「今までありがとう。また会おうね。」
ブルドッグは、黙って女の子を見上げていました。

それからー
ミモザの花咲くお家に、昔は女の子だったママが
立っています。
「お待たせ、ホヨヨン。」
ブルドッグのホヨヨンは、ポテポテとママをお迎えに行きました。
ママは両手を広げて、ホヨヨンを抱っこしようと
待っていました。

この物語は前作の【小さな手】と対になっています。
【小さな手】は、ブルドッグのホヨヨンの視点、
この【待つ時間】は女の子の視点です。
良かったら、【小さな手】も読んでみて下さいね。
