メインコンテンツへスキップ
見出し画像

⚪️企画作品|シェアハウス殺人事件

    第1話 住人たち

     どうしたって生き急ぐ者というのは、後から遅れてやって来る自分自身を待つ時間が必要になる。

     たとえば、子供の頃の鬼ごっこやらかくれんぼやらをスキップして、つまりやらずに大人になっちまったとしてもだ、それをそのままにするということがどうも人間には出来ないようなのだ。

     学校帰りの駄菓屋で、パチパチ爆ぜる飴を買って食べたりしたか。あんこ玉や、きなこ棒はどうだ。今になってそういったものを箱買いするのは、ようやく子供時代が追いついて来たってことなのさ。

     ──A氏(38)男性・会社員・4年11ヶ月

    ***

     腹が立って眠れない。おかげで睡眠不足が解消されない。あいつのせいで。

     キタガワは自分勝手なやつだ。10時に開場だから客を待たせろと言ってたくせに、行列が伸びて客が騒ぎ出したらわたしを怒鳴りつけた。

     わたしが現場を仕切れなかったのはトワ子先輩が持ち場を離れたからで、インカムが故障して使えなくなったせいだ。

     頭ごなしに、何やってんだっていきなり怒鳴られ、時計を確認したら返事しろってまた怒鳴られた。「わかった!わかった!もうお前はいらないからどっか行け」って酷すぎる。

     わたしはその場では言い返せないタイプだから、仕事が終わってからじっくり考えて、どうやって言い返すべきだったかをメモ帳に書いた。

     今度同じことをやられたら必ず言い返せるように。それを持ち歩いている。

     ──B氏(32)女性・フリーター・2年1ヶ月

    ***

     人生は常に二択だ。三つ目を考えるのは、まあ俺に言わせればノロマのやることだ。

     例えば今日の昼飯なら、サンドイッチにするか500円弁当にするか、そのどちらかを考えれば良いのであって、前から行きたかったラーメン屋だとか、とにかく腹が減ったから一番近い牛丼屋だとか、そんなものをいちいち持ち出すのははっきり言って意味のないことだ。

     ちなみに今夜は鳥貴族で一人飲みか、帰って缶チューハイにするか、そのどちらかだ。何でもかんでも細分化したがる今の世の中は間違ってるのさ。

     ──C氏(29)男性・俳優・1年6ヶ月

    ***

     今まで推し活なんてことしたことがなかったわたしの、初めての推し活。それがグーちゃん。

     グローグー。正式名は、ディン・グローグーといって、このディンというのはグーちゃんを自分の子として引き取ってくれたディン・ジャリンの姓なのね。ディン・ジャリンは最強のマンダロリアンで──

     おっと、いけない。ついつい語り出したら止まらなくて。そうそう、グーちゃんの話ね。

     グローグーの呼び方は大きく分けるとグーちゃん派、グロちゃん派に分かれると思うのだけれど、わたしはずっとグーちゃん呼び。先日の応援上映でも、出て来た瞬間に「グーちゃあん」って叫んだわ。

     グーちゃんの可愛さを知らない人はよく「つまりさ、小さくって可愛いってことでしょ」て言うのだけど、そういうことでもないのよね。それだけじゃないのよ。

     ──D氏(44)女性・編集者・3年3ヶ月

    ***

     お客さん、肩、凝ってますねぇ。

     そう。当たり前と言えば当たり前で、だからこそみんな朽ちた大木みたいな体を引きずってうちを訪ねてくるのだ。凝ってないなんてことは、まずない。

     にも関わらず、いやだからこそ、口を衝いて出てしまう。その言葉。魔法の言葉だ。

     とにかくね、凝り固まった肩というのを見逃せないのよ。お金を貰うとか貰わないとか、仕事だとか仕事じゃないとか、もう関係ないのよ。

     きみ、肩、凝ってそうだねぇ。いいえ大丈夫です。そうかい。ほぐそうか? 結構です。遠慮しなくて良いんだよ。警察呼びますよ。あははは。そうなるわな。でもそうじゃない。この世界から肩こりを無くしたいだけなのよ。

     ──E氏(51)男性・整体師・6年6ヶ月

    ***

     このハウスを選んだのは叔母さんから紹介されたからで、私はまあ、寝に帰るだけだから気にはならないけれど、普通じゃないような気は確かにする。

     でも実家暮らしは不便だったし、単純に都心から遠いというだけじゃなくて、飼っていた猫が亡くなって落ち込んでいたりとか、でもひとり暮らしは両親が反対するし、それに私もひとりは……そんなとき叔母さんが。

     亡くなったハチワレ猫にそっくりのチャームが付いたストラップをくれて、いろいろ相談にも乗ってもらっているとき、そう言えば知り合いがやってるシェアハウスがあるよって教えてくれて。

     ──F氏(19)女性・大学生・4ヶ月

    ***

    「殺人扇風機?」

     警視庁犯罪捜査課の刑事、鰐渕咬介が叫んだ。

    「何だそりゃ!」


    (最終話はこちら)

    #第1話だけ書いてみた
    #ミステリー小説書いてみた
    #なんのはなしですか

    🟡1860文字


    #シロクマ文芸部
    #待つ時間
    #木曜日は3ースデイ
    #睡眠不足
    #サンドイッチ
    #鳥貴族
    #缶チューハイ
    #500円弁当
    #せりふ三題噺
    #扇風機大木ハチワレ
    #きなこ棒細分化ストラップ

    つまりさ、小さくって可愛いってこと
    肩、凝ってますねぇ
    わかった!わかった!!!

    あなたへのおすすめ