
🟡掌編小説|四千姉妹[3月]
前作からの続き
助手席はハルの席だ。
ぼくが免許を取ってからというもの、まるで最初から決まっていたかのようにそうなっている。
しかも、どういう訳かアキちゃんとナッちゃんはハルがいなくても後部座席に座る。
会議でもしたのだろうか。そうまでして助手席を空けておく必要はないと思うけれど、ハルに気を使っているのか、それとも後部座席のほうが落ち着くのか。
「ねえそれじゃあまるで運転手みたいだよ」
「違うの?」
まあそういうことだよね。
ナッちゃんを成田に迎えに行ったときもそうだった。でっかいスーツケースをふたつともぼくが受け取ると、ナッちゃんとアキちゃんは卒業以来久しぶりに再会した女子高生みたいにはしゃぎながら、そのままの勢いで後部座席にどっかと座った。
まあ確かに、ぼくが悪いと言えなくもない点があるにはある。
以前フユが何の気なしに助手席に座ろうとしたことがあった。ハルはいなかったし当然フユにもその権利はある。どの席に座ろうと自由なのだから。でもぼくは一瞬「あっ」という顔をしてしまったのだ。
フユの良くないところは、それ以来わざと助手席に座ろうとすることだ。そして「あっ」と言いながら後部座席に座り直す。別に揶揄ってるとかじゃなくて、無表情でそれをやるんだ。何かの儀式みたいに。
***
ぼくはいつものようにハルを助手席に乗せて買物に来ている。ホワイトデーのプレゼントを買うためハルにお伴をお願いしたのだ。
後ろには何故かフユとフユの女友達が座っている。ダブルデートみたいだ──そう口走ったのはフユの女友達で、ぼくじゃない。ふたりは手を繋いでいる。
ボクもツユ兄さんと呼ばせてもらっても良いですか、とその女友達は言った。ボクのことはどうとでも。フユちゃんはユキって呼びます。
そう、よろしくね。ユキちゃん。ぼくもそれで構わないよ。
***
フユが退院した日のことを思い出した。
いつものようにぼくがハンドルを握り、みんなでフユを迎えに行ったのだった。
その帰り道。隣に座っていたハルがねえ少し遠回りしない?と言った。フユは後ろの真ん中で少し窮屈そうにもじもじしていたっけ。アキちゃんとナッちゃんは両側から愛おしそうにフユの腕を抱えていた。
何を思ったかフユが靴を脱いで両足をでんと前に投げ出してきた。ぼくとハルは顔を見合わせ、同時にフユの足をコチョコチョした。
ルームミラーに映ったフユはクスリともせず、けれどどこかしら満足そうな表情を浮かべていた。
***
モールに着くとフユが「ランチするとき呼んでね」と言い残してユキちゃんとどこかへ行ってしまった。ハルが「あいよー」と応えた。
「じゃあ行こ。まずはあたしのものからね。実は前から欲しかったものがあるんだ!」
最適解が常に安上がりとは限らない。
ハルがぼくに腕を絡めた。
(つづく)
🟡1152文字
【附記】
本作は四千姉妹シリーズの第2弾。パイロット版から数えると3作目になる。