
🟡掌編小説|四千姉妹[4月]
前作からの続き
急遽ナッちゃんの転居が決まった。
四月一日付の人事で都心部の社宅に大量の入れ替えが発生し、また管理職向けの枠にも空きが出たらしい。ここを逃すと一年後になりかねないということで決断したようだ。
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昨年十月、海外勤務から東京本社へと帰任したナッちゃんはその後もしばらく実家で暮らしていた。
元々使っていた部屋はそのまま残っていたし、通勤に多少時間を取られようとも久しぶりの日本である。家族と一緒にいることを選んだのだと思う。
だがそういうことは敢えて口にしないのがナッちゃんらしい。寮が空いてないからとか、慌てて引越すこともないし、とか言いながら家族の空気を誰よりたっぷり吸い込んでいる。
それでいて、いざ家を出るとなったら呆気ないほどの身軽さでサラッと出ていってしまうのだ。
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ナッちゃんのために細々とした生活用品の買い出しをしたり、ついでに新居の掃除やなんかを手伝っているとまず最初にアキちゃんがソワソワし出す。
そしてハルがイライラする。無論、言葉に出したりはしないけれど、ハルがぼくに甘えたり不満があるとすぐに分かる。ぼくの呼び名が「もにーちゃん!」になるからだ。
フユは変わらない。
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管理職用の社宅として会社が借り上げている都心のマンションは、しかしナッちゃんの一人暮らしには明らかに広すぎる。かと言って単身者用の寮にナッちゃんを入れる訳にもいかないらしい。
広大なリビングでナッちゃんが呟く。
「ここにベッドを持ってきて、1Kとして使おうかな、残りの部屋は物置にでも──」
「ナッちゃん、良くないよ?」
だって、それは流石に雑すぎじゃないか。面倒ならぼくが手伝ってあげるからさ。
「はいはい。では仰せのままに」
***
引越し当日はアキちゃんが家で「お見送りパーティー」を、ハルが新居で「お迎えパーティー」をしようと画策している。
ハルが新居でお迎えとはどういうことか。余った部屋にせっせと自分の部屋着やなんかを運び込んでいたから避難所にでもするつもりなのだろう。
それにしても、ナッちゃんは湿っぽいのが苦手だからなあ。
ぼくはフユにメッセージを送った。
「フユ、悪いけどちょっと頼まれてくれないか?」
***
さて、ぼくたちは今ナッちゃんの新居で「お見送りお迎え合同パーティー」をしている。
どういうことか。
ナッちゃんのことだから、大方、何だかんだ言い訳を考えて前日の夜にでもこっそり引越しを済ませてしまうんじゃないか──そう読んだぼくは、念のためフユとフユのガールフレンドに頼んでナッちゃんの行動を見張ってもらった。
すると案の定、家に戻る様子がないという。
そこでぼくらは計画通り、ナッちゃんの新居でパーティーの準備をしながら彼女らの帰宅を待ったという訳だ。合鍵を預かっておいて正解だった。
***
新居で待ち構えるぼくたちの顔を見るなり「やれやれ」という顔をしたナッちゃん。そして、その後ろからフユが顔を出す。もうひとりの功労者は遠慮して帰ったらしい。出来れば参加してほしかったけれど。彼女にも今度お礼を言っておかなくちゃ。
何はともあれ、ぼくらは夜通し、アキちゃんの手巻き寿司とハルのタコ焼きを食べながら、ほどほどに飲んで、語り合い、ナッちゃんを送り出しながら迎え入れたのだった。
食べ疲れ飲み疲れ喋り疲れてうたた寝するみんなに毛布を掛けてやり、ハルは寒がりだからさらにぼくの上着を乗せてやった。
それから静かに後片付けをして、この部屋もやがて実家と同じ匂いになるのだろうか、なるのだろうなと思った。
もうすでに、なりかけてる。
(つづく)
🟡1475文字
【附記】
シリーズ第4弾の今月はナッちゃん回でした。