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バズの時代に現実を愛するということ

    SNSを開けば、今日も景気の良い言葉が踊っています。


    「たった3ヶ月でFIRE達成」
    「行動しない人間は一生、労働の奴隷」
    「こんな私でも毎月100万稼げたのだから、みんなもやろう」


    こうした発信を目にするたび、私の心の中には、ある種の羨望と焦り、そして静かな違和感が湧き上がってきます。

    もちろん、彼らがリスクを取り、最初の一歩を踏み出した勇気は本当にすごいことだと思います。

    実際にマネタイズを成功させ、新しい経済の形を作っているのも事実でしょう。その努力や成果自体を否定するつもりは毛頭ありませんし、彼らもまた、変化の激しいプラットフォーム上で懸命に戦っている人間なのだと思います。


    ですが、「行動しない人間は労働の奴隷だ」という、あの特有の極論的なスタンスを目にするたび、今の世界を成立させている前提への想像力が、少しだけ抜け落ちてしまっているのではないかと感じてしまうのです。


    ものすごく極端な話をしましょう。


    もし、彼らの言う通りに全員が会社を辞め、全員がSNSで毎月100万円を稼ぎ、自由なノマドワーカーになったとします。では、一体誰がこの国のインフラを整備するのでしょうか。

    誰が毎朝、分刻みで安全に電車を走らせるのでしょうか。誰が深夜にタクシーを走らせて酔っ払いを家まで送り届けるのでしょうか。誰が学校で子供たちに勉強を教え、誰が私たちが暮らす建築の図面を引き、資材を調達してコンクリートを打つのでしょうか。


    彼らが優雅にMacBookを開いて「映える」写真を撮っているそのお洒落なカフェの空間すら、誰かが図面を引き、職人さんが汗水たらして色んな汚れにまみれながら工事してくださることで、初めて存在できているのです。

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    建てる人がいて、運営する人がいて、料理をする人がいて、色んな人がいておしゃれなカフェが成立しています(撮影:筆者)

    私たちは、ネット上の画面だけで完結する世界に生きているわけではありません。この物理的な世界を根底で支えている人間への敬意なくして、どんなビジネスも立ち行かないはずです。


    とはいえ、SNSで飛び交う景気のいい数字に、心が揺らぐ日もあります。自分のボロボロになって働く毎日がちっぽけに思えて、隣の芝生が青く見えてしまう夜もあります。

    情けないですが、行動できない自分が悪いだけですし、人間なのだから、そんな感情を抱くのは至極当然のことです。


    しかし、私が日々向き合っているのは、クリック一つでコピーも削除もできない、圧倒的な質量を持った「現実」です。

    決められた時間に起き、満員電車に揺られ、理不尽な現場のトラブルに耐えながら、ゼロから立ち上げた空間が、数十年先まで誰かの居場所として都市に残り続ける。

    この重力を伴った物理的な世界を、1ミリずつ確実に前に進めている無数の「一般人」の営みだって、尊く、美しいものなのです。

    それは、お金という物差しでは測り切れないものだと信じています。


    だからこそ、過激な煽り言葉に心まで消耗させられる必要はないのです。 他の誰かを否定して引きずり下ろすのではなく、自分は自分で、労働という誇りを胸に抱きながら、同時に自分の資産も作っていけばいい。

    他人の声に振り回される必要はありません。

    これからも私は、時に迷い、時に葛藤し、厳しい現実を愛して歩き続けていこうと思います。

    そして、同じようにこの現実世界で戦い続けるあなたも、どうかご自身の毎日に誇りを持ってほしいと願っています。



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    aulora

     
     
    建築を通し、世界の解像度が少し上がる 一級建築士|設計事務所勤務 全国47都道府県・海外8カ国を巡り、建築を通して出会った景色や気づきを綴ります。 名建築の空間や差し込む光、その土地の歴史。設計業界の実情や、仕事と人生についての思考も。 世界を少しだけ美しく整えるための備忘録

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