
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #149
「自分が、穏やかで幸福な最期なんてものを迎えた時、果たして今まで通りの生き方を貫けたか、それが確信できなかったんだろ? 丸くなってただのババアになるのが怖かったんだろうがッ!!」
「お前がそう思いたいならそう思っておけばいいさ。アタシは何も他人の内心の自由にまで干渉する気はないよ。グズは嫌いだけどねェ」
血を振り乱しながら、ライフルを回避し続ける。銃身が長く、精度も高い銃器は、銃機勁道の認識においては非常に回避が容易い。射線の予測を立てやすく、そして寸分違わず予測線の通りに弾が進んでくれるからだ。
だが、攻勢に転じる手段がない。勁力弾は黄金の罪業場に囚われ、理屈はよくわからないが散弾に変えられてしまう。
手詰まり――否。
ひとつ、状況を動かせるであろう要素がある。
「少なくとも反論はしねえってわけだ。だったらアンタの不変さを試してやろうか……!」
腕を振り上げる。
銃口を、そこに向ける。
「はッ。なにをするかと思えば」
老婆は、鼻で笑った。
拳銃は、頭上で拍動する三つの巨大な肉塊に狙いを定めていた。
「あのサイズを潰すには、どうしてもお前自身の予備動作が必要になるだろう。その間にお前を三度は殺せるよ」
「だからなんだよ」
「あ?」
「逆だよ。テメーが俺を殺してる間に、俺はテメーの人生の結晶を潰せるって言ってんだよ」
「で? そう思うならさっさとやればいいだろ。なんでわざわざ宣告した? 命が惜しいのかい?」
だが、それでも。
ギドは引き金を引く手を止め、こちらの出方を待つ挙に出た。
岐路が来た。ゼグはそう感じる。
「跪けよ、ババア」
ギドは、切れ長の目をすがめ、こちらを見ている。
「這いつくばって、赦しを請いな。そしたらあの肉饅頭を潰すのは勘弁してやるよ」
「お前ねェ、アタシが今さらそんな程度のことを躊躇するとでも思ってんのかい? 「青き血脈」の腐れ子を産み育てることに比べたら屁でもねえってことがわからないと? だがしないよ。する必要がない。お前は撃たない。なぜかわかるかい?」
肉塊の拍動が、拍子を変えた。
みりみりと何かが裂けるような、あるいはぐつぐつと煮え滾るような音が、三つの神臓から鳴り響く。
――ア……ア、ア……
声が。
か細い声が。
「う……」
呻く。あれの核となったものがなんであるか――誰であるかを考えると、何一つ愉快な想像ができそうにない。
「今日のおつとめが始まったね。おぉ、いい子だ。そのナリになってからのお前たちは本当に可愛いね」
「おつとめ、だと!?」
神臓たちはぐちゅぐちゅと音を立てながら形を変え、生白い女の顔を形作る。シアラと、アメリの半神的美貌が、数十倍のサイズで再現される。
――ア、アー、か、ロ……
青黒い血管が絡みついていながらも、その顔容は戦慄をもたらすほどに美しかった。
――アー、か、ロ、と、さ……ま……
そうして、巨大な瞼から、一斉に白い流砂のごとき涙を流し始めた。
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