
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #148
位相幾何学において、単なるリングと、取っ手のついたマグカップは同じ図形と見做される。
穴が一つ空いている、という点において同じであるからだ。位置や、角度や、形を無視して、空間的な繋がりだけを論ずる学門。そのような観点から、同位相のまま触れた物体を変形させる罪業場。
ギドの脳髄に移植された二人の「青き血脈」のニューロンより発現した力が、それであった。
物体を変形させるエネルギーは、物体そのものが持つ運動エネルギーを転化することで賄われる。
勁力を帯びた銃弾は、見た目の印象を遥かに上回る運動量を有しており、それだけ変形も劇的だ。
無数の棘が生えた帽子のような形状に変じた。
「アンタら銃機勁道の使い手どもは、自分で思っているほど無敵じゃァない。アーカロトほどの技量があればわからなかったが、お前ならこれで十分すぎるよ」
無造作にライフルの銃口を棘の集合物に押し付け、引き金を引く。撃ち放たれた完全被甲弾がすべての棘に運動エネルギーを伝え、爆散せしめる。
ゼグの小さな体が、血煙の包まれた。
機関銃のように一発ずつ連射される武器が相手ならば特に問題なく回避できる銃機勁道も、まったくタイムラグなく同時に飛来する無数の破片は避けられない。回避する空間的余裕がないからだ。
「長生きはしねえと思っていたよ。女の勘ってやつだねクソガキ」
「――あいつらはよ」
ギドは、眉をしかめた。
血煙が晴れると、そこには血みどろの少年がいた。底光りする目で、睨んでいた。
「あァ?」
おおかた、硬気功とかいう奴であろう。ライフルなら抜けるだろうが、そうそう当たりはすまい。
「テメーに利用されることは承知してた。テメーがいざとなれば自分たちを切り捨てるだろうこともわかってた」
「そりゃあ、アタシは常々そう言っていたからね。で? なに? 意外な切り口の恨み言をほざいて隙でもつくりたいのかい? 別にいいけど攻撃は続けるよ?」
速射。しかしそこにゼグの姿はない。床に散る血痕から回避方向を察し、銃口を向ける。即射撃。
「ダリュがよ――言うんだよ。ババアの一番嫌がることってなにかなって。いつかババアがトシで動けなくなって、利用価値がなくなった時に、みんなでババアの世話をして、くそ大人どもから守って、ぽっくり死ぬ瞬間まで騒がしくしてやるって。切り捨てるつもりのガキどもから施しを受けたら、きっとババアの面目丸つぶれだってよ」
「へェ、そうかい。頭のネジが緩みまくってるようで結構なことだね。永遠にアタシに食い物にされたいってわけだ。知ってたけどね」
射撃。射撃。射撃。
口を開いている間も引き金を引き続ける。あの出血量だ。そのうち動けなくなるだろう。
「――恐れたんだな、テメー」
「あ?」
「別にさ、あのジャーキーキチガイに殺させるなんて確実さに欠ける方法なんざ取る必要はないはずだ。あんたが本当に子殺しの罪業を稼ぎたかっただけならよ。だいぶ感情的な対応じゃねえか、ええ? クソババア」
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