
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #150
さらさらと、乾いた、かすかな音を立てながら、三つの巨顔は涙を流し続けた。
足元に、降り積もるものがある。白い、白い、白い白い白い白い、透き通った輝きを帯びた、砂。
小山に成長し、自重で崩れ、純白の領域を広げてゆく。
ゼグの足元まで至ろうとした瞬間、理解不能な恐怖に駆られ、思わず飛び退った。
「おっともったいない。究極の救いが欲しくないのかい?」
老婆の嘲弄に、自分の行動の正しさを悟る。
ギド自身も、白皙の砂からは距離を取っていた。
シアラの顔をした肉塊は、アーカロトの名を呼びながら滂沱と白い粉を流し続けている。
「マジで……シアラなのかよ……」
丹田から力が抜けてゆく。手足の関節から悪寒が広がってゆくようだった。
「……そもそもね、三つの新式罪業変換機関を収集するための狩り生活ってのが茶番だったわけさ。あの詐欺師のデカブツがあれば、そんなもん一瞬で終わる。今まで延々と続いてきたお前らとの暮らしは、全部シアラにメタ罪業を培わせるための三文芝居だよ。さすがにこればかりは、武力でどうにかできる問題じゃなかったからね」
慈愛に満ちた微笑みが、ギドの顔に満ちた。
「第四大罪の穢れを祓う潮垢離。〈トリスケリオン〉。過去と現在と未来を繋ぐウルズの泉。すべてはこのために。このためだけに」
そして、ゼグに目を向けた。
「お前、本当にあれを撃つのかい? あの頭のゆるいクソガキはお前にも懐いてたよな? あ? どうにか助けてやろうとか思わないわけ?」
――ゼグは。
この怪物と言葉を交わす無意味さを痛感した。弟妹たちの惨たらしい死を手引きしたこと、シアラをあのような憂き目に合わせていること。どちらも、謝罪を引き出そうと思えば不可能ではないのだろう。だが、意味はない。プライドの高い女だが、目的のために即座にプライドを捨てられるし、そのことに何の痛痒も感じていないのだ。
だから、全身を脱力した。自らの足下を、蜘蛛めいた形状の物体が多数、〈ウトナピシュテム〉の内部構造を破壊しながら通過していっていることに、ゼグだけは気づいたから。
ヒュートリア・ゼロゼアゼプターとの戦いを、ゼグは覚えているから。
轟音。
踏みしめた震脚は、床を蜘蛛の巣状に砕き、勁力を帯びた衝撃を真下に浸透させる。
そして、絶罪支援機動ユニットを捕らえ、その身に宿る大罪の一部を反動とともに体内に引き込む。
全身の経脈を、昏く熱い力が犯す。神経をやすり掛けされるような苦痛。だが、憎悪でそれをねじ伏せる。気息を乱さず、第五大罪のエネルギーを全身で練り上げ、増幅し、よじり合わせる。
口の端から赤黒い血を溢しながら、踏み込むと同時に腕を突き出す。すでに蜘蛛たちの存在圧は足下から消えていた。基準界面下ではどのような戦いが繰り広げられているのやら。
拳銃に大罪勁力が宿り、その力が最も高まる瞬間、ゼグは引き金を引いた。
赤子の金切り声のような不協和音を発しながら、黒紫の炎を曳く弾丸は宙を引き裂いた。
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