
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #151
罪業的質量差が、圧倒的であった。
ギドの眼窩より漏れ出る黄金の罪業場は、ギド自身の罪業をギドの脳内の夫と孫が受け取ることで発現した特殊なものだ。
だが、所詮は個人レベルの罪でしかない。第五大罪とは比較にならない。機動牢獄の放った規格化罪業場弾体が、絶罪支援機動ユニットに着弾することなくかき消されたように、ギドの眼前に展開した黄金の罪業場は霞と消えゆく。
そのはずであった。
「同じことだよ。上の肉塊どもとね」
弾丸が、止まった。
「アタシと、夫と、孫。三つの意識。一つの罪業と二つのメタ罪業。もちろん並列多元罪業変換機関とは比較にならないけどね、原理を知っていればちょっとした小細工ぐらいはできる」
ギドの夫は「青き血脈」であり、ギドの孫にしてアメリの子もまた優性阻害によってあらゆる観点から言って「青き血脈」と変わらない存在だ。そのためだけに純粋培養されたシアラほどではないにせよ、メタ罪業を脳組織に宿らしめている。
すなわち、構造としては並列多元罪業変換機関と等しいものが、ギドの頭の中には存在している。
「切れ端とはいえ第四大罪。それらを束ねてぶつければ、お前のそれも何の抵抗もなく突破ってわけにはいかなくなるよ」
弾丸が、ぐにゃりと歪む。無数の棘を生やした帽子状の形に変化してゆく。ライフルの銃口が、帽子を被せられるように押し当てられる。
「――あぁ、そうかよ」
瞬間、二つの出来事が同時に起こった。
●
ひとつは、ライフルの発砲と、それに伴う鉛片の飛散。硬気功による防御も、錬気の精度が疲労と消耗によって落ちているせいか、ゼグの全身を打ちのめし、骨を砕いた。
血塗れで吹き飛ばされるゼグ。
まったく同時に、ギドもまた眼窩から血飛沫を噴き上げ、吹き飛ばされていた。
「かッ……はッ……!?」
全身の経絡を貫く、経験したことにない種類の痛みに、ギドは目を見開いた。
「なんだと……ッ!?」
「へぇ……いいザマだな、おい? ババア」
倒れ伏しながら、凄絶な眼でこちらを見てくる少年に、ギドは初めて全神経をもって注視に値する何かを感じた。
「……なんだいお前……あたしたちの罪業場に勁力を通したとでも言いたいのかい……?」
「ざまぁ見やがれ……ようやくあんたが吠え面かくところが拝めたぜ……!」
物理的衝撃を受け止め、それをトラップした物体を変形させるエネルギーにする過程のどこかで、銃機勁道の不可解な功夫が作用した。罪業場を勁力が伝播し、ギドの眼窩の罪業収束器官を灼き切り、全身の経絡を巡っていったのか。
ギドはライフルを杖に、痙攣しながら身を起こそうとする。
「ハッ……やるじゃないか……ゼグ……ッ」
だが、力尽きる。床に突っ伏す。
自分の意識が遠のいてゆくのを、どこか冷静に観察する。
「おい……落ちる前に……答えろや……」
「……なんだい……」
「……なんで……俺とビナを……拾った……?」
ギドは、自嘲に口を歪ませた。
「別に……大した意味はないよ……他の五人と違ってね……ただの……きま、ぐれ……さ……」
「ふざけやがって……クソババア……」
二人は、同時に意識を失った。致命的な昏倒へと。
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