
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #152
《――そして、終焉が来たる。私の予測よりも早く》
基準界面下を、光媒素の音声が波及する。
絶罪支援機動ユニットの群れによって覆い尽くされたカタリスタスに、特段の動きはない。
《終焉だと?》
《愛に生きるとは、どういうことだと思うかネ?》
相手の意図がわからない。物理的にも罪業的にも、いかなる動きもない。
《……他者を慈しむこと》
《それだけでは片手落ちだネ。慈しむために命を懸けること。それを忍耐ではなく喜びをもって成すこと。愛とはそういうことだ。私はシアラにこの狂気を教えた。そこに偽りの心はない》
含み笑いがさざめいた。
《だが、シアラと私はひとつだけ違うところがある。愛に序列をつけているという点だ。シアラの愛は万民に向けて等しく注がれている。遠からず破綻は免れなかっただろう。だが私は違う。万民を愛しているが、等しくはない。きっちりと優先順位を定めている。最大多の幸福を無論求めはするが、状況はそれを許さない》
《さっきから何を言っている》
《「彼女」を愛し抜くために人類には犠牲になってもらおうと、そういう話をしているんだよアーカロトくぅん!》
《……やはり、お前はここで滅べ》
カタリスタスを埋め尽くしている禍蜘蛛すべてに自爆コマンドを送信する。
――その、瞬間。
アーカロトは絶望した。すべての望みを失った。
《……あッ……カッ……!?》
自分がなぜ絶望しているのかわからず、あまりにも不意打ちで訪れた自らの感情の動きに見当識を失った。
アンタゴニアスが有するすべてのセンサーが、異常とエラーを吐き出した。外部情報を一次処理する生体回路が発狂し、中枢制御システムは狂気の伝播を防ぐために一時的に神経系を遮断。システムのアップデートと復旧を同時進行しはじめる。
お腹がすきました お腹がすきました
声。
に、
アーカロトは嘔吐した。
その声が人間の言語を象っていること自体に計り知れない嫌悪を抱いた。
《私は七千年間考えていた。どうすればヴァーライドに掌握された贖罪神機たちを、この世界の殻から引きはがせるのか――と》
悪寒と吐き気と絶望と憎悪が、加速度的に強くなってゆく。何かが近づいてきている。決して関わってはならないモノが。視界に入れることすら厭うべきモノが。
《ミーメーシスは、人間には……意識体には決して操作できないはずのものだった。快と不快の価値基準は、生物のみならずあらゆる活動体に備わってしまうことが不可避の概念だ。それがなければ行動ができないはずなのだから。ゆえに誰もミーメーシスのもたらす苦痛を受容できない。あれは生きている人間への憎悪によって形作られたモノだから。ヴァーライドならば……あの巨大な意志力の怪物ならばどうにかなるのだろうが、もちろん贖罪神機を動かして〈彼ら〉に人類の生存圏を見つけてもらおうなんて企てに、彼が協力してくれるはずもない》
アーカロトは、ソレを認識することへの拒否感から、全身の毛細血管を損傷し、あらゆる個所から血を流し始めた。
《ゆえに、私は創った。快不快以外の基準でもって活動できるミーメーシスの制御中枢を。〈原罪の種子〉を備えた子供たちを、幾人も見守り、幾人も覚醒させた。ヒュートリアちゃぁんは残念な結果に終わったが、しかし彼は――彼は!》
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