
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #126
ジアドの駆る端末もまた受け入れるように接続部を引き出す。
さて。どんな形に組むべきか。
ミーメーシスと繋がる過程で、もともとの肉体と、贖罪神機の形状の違いが、無視しえぬ齟齬となって操作難易度を上げていたことを思い出す。甲零式機動牢獄の着装者とは異なり、「理想とする己」と「現実の自分」の間に一切差がないジアドにとり、ミーメーシスの機体は動かしづらいの一言だった。
ならば、答えは一つであろう。
左右の三角錐型推進機関が分解され、ひとつひとつのパーツが整然と飛び回る。本体の後背で蛇腹状に連結し、遥か上下へと伸びてゆく。
飛来した他の端末たちも、同様に蜘蛛めいた節足を分解し、仮組された脊髄に次々と接続してゆく。繋がるそばから、ジアドの乗る端末より液状罪業場が流し込まれ、本来純白だったそれは闇色に染まってゆく。
「無傷で生存する未来がすでに観測され、確定しているがゆえに、いかなる力をもってしても傷つけられることがない」というジアドの性質が、群体捕食機械ミーメーシスの液状罪業場を汚染し、伝播してゆく。
分解された節足パーツ群が、巨大な骨格へと組み替えられる。芋虫めいた本体たちはぱくりと体を開いて構造材に巻き付き、内部から無数の触手を伸ばし、癒着する。そこから漆黒の罪業場が毛細血管のごとく枝葉を茂らせ、強大なる人型を形作ってゆく。闇色のアウトラインに沿って、最小単位に分離したパーツが複雑に接続し、相互に関連し合い、総和以上の機能を構築してゆく。
●
――この世界に、かつて想定されなかった六柱めの巨神が姿を顕わそうとしていた。
贖罪神機は、本来は熱を罪に変換することで、周囲の人類を狂わせる自律殺戮兵器だった。状況に応じて罪業変換機関を接続し合い、さまざまな形態に合体する機能はあれど、それらは必然的に構造の脆弱化をもたらすため、分離したまま単独で運用されることのほうが遥かに多かったのだ。
だが、ここで状況が一変する。
漆黒の罪業場に侵食され、構造的脆弱さなど考慮する必要がまったくなくなった結果、ジアドが直感的に操作しやすいことだけを優先して機体が組み上げられた。
セフィラ間の虚空を、一柱の禍津神が馳せる。
闇の体液を滴らせ、空間震の咆哮を上げながら。
闇色に輝くたてがみを振り乱し、神は激烈なる空間震を発した。ジアドの性質に汚染された影響で、その装甲は重力場と同じ原理により赤方偏移し、腐った血のごとき色彩に染まってゆく。継ぎ目から黒く濁った帯状罪業場が幾筋も垂れ、うねり、可視光を歪めていた。
それはこの世にあるどのような存在とも似ていなかった。宇宙よりも虚ろで、光よりも迅く、因果よりも無意味で、量子のように不定。その姿を目にしただけで時空間に対する幾何認識を狂わされ、重篤な精神障害を負うことになる。
ジアドという空前絶後の特異点を核にして組み上げられた、紅き厄災――人類種が生み出せし最悪のアポトーシスだ。
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