
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #125
贖罪神機ミーメーシスは胴部にある気門めいた穴から、周囲を満たす液状罪業場を吸い込みはじめた。明らかに体積以上の白い液体が吸収され、機体の内部に収められる。ジアドは己の全身に血液が満ちる感触を覚えた。圧迫感はない。体が軽い。
推進機関を吹かし、丸い出入口に直進。何事もなく通過するにはミーメーシスが大きすぎ、激突。しかし特に衝撃も抵抗もなく突破する。行く手を阻むものはすべて砕き散らしながらひたすらに直進した。ミーメーシスには傷一つつかない。
《異常事態発生/機動不能/原因不明/神経系/駆動系/制御系/構造系/すべて異常なし》
「そうなんですか。参考になります」
あっというまに「地表」へと出る。すると黒紫の蜘蛛が罪業炎を吹かして近づいてきた。
《モノにしたね童貞。条件は覚えているね?》
「はい。もちろんです。僕!」
《お前が入り込んだそれは、端末のひとつに過ぎない。〈彼ら〉が発する探査波とは逆位相の空間震を発生させることで、第五大罪の内部に空洞や構造があることを隠し通してきたわけだ。端末と言っても「中枢」とか「本体」なんてミーメーシスにはないんだけどね。第五大罪の内壁のハニカム構造ひとつひとつに埋め込まれた全端末四十三万機のうち、0.001%のスリープモードを解除してあげる。好きに使いなさい》
「ありがとうございます。お世話になっております」
《で、真っ先に何をするつもり?》
「クロロディスさんが呼んでいるので戻ります。お腹がすいたのでご飯を食べます。あなたを殺します」
《あらそう。頑張りなさい》
「大変お世話になりました。ありがとうございました。殺します」
芋虫の表面に、気泡のように半透明の脂肪の塊が生じた。内部の複雑な構造が蠢き、漆黒の罪光が宿る。網膜を直接斬り裂くような撃発とともに、周囲に溶け込まない不条理な闇色の光線が放たれた。それは、絶罪支援機動ユニットをハックした存在が有する桁違いの罪業質量に引き寄せられ、優美な弧を描きながら命中。超高出力の罪業ファンデルワールス装甲を一瞬で溶解・腐食せしめた。
四散してゆく節足や肉腫を見送ることなく、ジアドは推進機関の出力を上げる。目指すは〈美〉セフィラ。
そこへ、純白の罪業場を涙のように振り乱しながら飛来する多数の機影を感知した。
いずれもミーメーシスと同一サイズ。数十メートルの巨体だ。
いや――同じサイズどころか、それらもまたミーメーシスそのものだ。機体の内部を循環する白き罪業場を通じて接続されたジアドは、贖罪神機よりさまざまな情報を収奪していた。
同一規格のユニット群によって構成される、自律捕食兵器。かつて人類を滅亡の淵に追い込んだ、白き死神たち。だが現代では第一大罪の担い手たるヴァーライドの手に落ち、〈彼ら〉の目から人類の存在を隠す用途に使われていた。
数百機におよぶそれらは、花開くように罪業ファンデルワールス装甲を展開。接続部を露出させる。
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