
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #124
「ミーメーシスさんと言うのですか。お世話になっております。殺しません。あなた!」
ジアドの周囲に、白い粒子が吹き溜まる。それは青年の神経節の電気的興奮に反応し、ジアドがわずかな身じろぎをするたびに形態を敏感に変えてゆく。銀河系の模式図のようであったかと思えば、曼荼羅めいたものを構成し、次の瞬間には枝葉を全方位に広げる大樹のような姿をとった。
贖罪神機ミーメーシスの腹がぱっくりと開き、そこから純白に輝く粒子の奔流が流出してくる。ひとつひとつが意志を持っているかのように動き――ジアドを取り巻く粒子群と交じり合う。
《逃がさない。逃がさない。逃がさない。逃がさない》
瞬間、ジアドは己の肉体が高度に拡張されていることに気づいた。ミーメーシスの内部に蠢く並列多元罪業変換機関の駆動と熱。無限の食欲と情欲。内蔵された、世界に孔穿つ兵装たちの軋みと励起反応。そして全身を巡る罪業エネルギーの循環――悪魔のように黒く、地獄のように熱く、くちづけのように甘い、その代謝。
ジアドはそれらすべてを「体内感覚」として感受した。
《報いを受けろ咎人よ。お前に救いはなく、あるのは苦痛の海で永遠に溺死し続ける末路のみ。逃さない。離さない。報いを受けろ。そのエネルギー落差こそが門を開く》
「そうなんですか。参考になります」
まったく意識していなかったが、全身の痛覚神経がひっきりなしに信号を脳に突き刺し続けていた。さっきより明らかに苦痛が強くなっている。段違いに――桁違いに。
「お腹がすきました。お腹がすきました」
とりあえずジアドは空腹を覚えた。食べ物にありつくにはセフィラに戻る必要があり、そのためには目の前のミーメーシスを乗っ取るのが良いだろうと考えた。
「お邪魔します。お世話になっております。あなた!」
《対象の心拍数、心拍出量、筋肉血管拡張率、呼吸数、気管支拡張率、筋収縮力、血糖値、いずれも有意な変化なし。エラー:接続部品の無力化に失敗。苦痛が強すぎて心因性の麻痺状態になったものと推察。緩急をつけて部品の心理的ストレスの最大化を試みる》
「聞こえていますよ。僕たちはもう繋がっているんですから」
ぱっくり問われたミーメーシスの腹の中に、体を押し込む。身体感覚を拡張された今では、その行いは自分の両手を肛門の中に押し込むような感覚だった。苦痛が波打つように強くなったり弱くなったりしていたが、まぁ別にいいかと意識するのをやめた。
《警告:接続部品が不正規な手段で〈贖罪棺〉に入棺。緊急非常事態。速やかに対象の神経系を切断し、殺害――》
「……ええと、こうかな」
ジアドは蜘蛛に似た節足を動かした。違ったようだ。
「こうかな?」
芋虫めいた胴体がぴん、と背を仰け反らせた。
「こうかな?」
八本の節足たちがバラバラのパーツに分解され、直後に再合体。胎児の左右に三角錐めいた巨大な推進機関が形成される。
うん、きっとこれだな。
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