
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #123
世界の果てを踏みしめて、ジアドは一段ずつ下ってゆく。
光源もないのに、奇妙に明るい。
周囲の壁には意味不明の紋様や、動植物をごちゃごちゃに混ぜ合わせたようなレリーフが刻まれている。意味は分からなかったし、興味もなかった。
重力は、セフィラにいた頃より明らかに弱い。楽しくはないし、「楽しい」がどういうことなのかも理解していなかったが、まるでスキップでもしているような足取りで進んでゆく。
やがて――下り階段が、白く輝く液体に満たされている場所に到達する。
階段はお構いなしに「水中」に続いていた。
足先を液体に浸けると、波紋が広がった。
暖かくも冷たくもない。「濡れた」という感覚もなかった。液体のような振る舞いの罪業場なのだろうか。
躊躇なく足を進める。階段を降りるうちに膝が沈み、胸が沈み、肩が沈み、顔が沈んだ。
水圧による抵抗は感じない。ただ、全身の毛穴から、白く輝く液体が体内に取り込まれて行っていることはなんとなくわかった。目や口や鼻や尿道や肛門からも同様だ。体内を巡り始めている。
そうして、神経網に絡みつき、電気的興奮を感受し始める。
常人であれば即座に発狂に至る苦痛が全身を締め付けるが、ジアドは特に何も思わなかった。
進むごとに輝く液体は密度と比重を増してゆき、やがてジアドは床から足を離し、泳いで進むようになった。
目の前に、円形のレリーフが現れる。現実にはあり得ない特徴を持つ生物たちが互いを喰らい合う情景が、精巧に彫り込まれている。直径は10メートルほどか。他は何もないので、とりあえず触ってみる。
《測定罪業値:知的生命への看過しえぬ無意味な虐殺により981。情状酌量すべき事由:なし。絶望値:0。憎悪値:0。接続部品としての基準値を満たしているものと判断――認証》
触れた場所を中心に、ライトグリーンの光が波紋のように広がっていった。レリーフの凹部分に沿って、全体へと走ってゆく。
《漆黒にして純白なる魂よ、逃しはしない。お前は決して、宿命から逃れられない。ここがお前の終焉の地だ》
「そうなんですか。参考になります」
すると、今まで緊密に絡み合っていた触手がほどけ、退いてゆくように、レリーフだったものが展開し、分解し、円形の周りへと収納されてゆく。
その先に――何かが安置されていた。
さっきまで一緒にいた絶罪支援機動ユニットに、よく似ている。
というより、基幹構造としてはまったく同一の存在であると思われた。だが、いくつか違う点もある。まず、サイズが明らかに大きい。重量にして数十倍はあるだろう。ともなって、中央に浮遊静止する胎児にも芋虫にも似た存在も、絶罪支援機動ユニットを圧倒的に隔絶する巨大さだ。
その頭部には、人間の顔をそのまま模したとしか思えない造形があった。筋肉が剥き出しとなったその顔面に、笑顔が浮かんでいる。赤子のようなフォルムとは裏腹の、彫りの深い嗤笑だった。
《当機は調停者。監獄は欺瞞者。贖罪神機は鏖殺の軍団。大勢であるがゆえ。識別コード:ミーメーシス》
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