
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #122
――これが何なのですか?
《何ってお前……いやまぁいいわ。条件は覚えているね童貞?》
――はい。しかし僕の肉体を機械的に接続することは不可能と考えますが。
《問題はない。死者の技術をナメるな。お前と「それ」を繋ぐのは液状インターフェースだ。お前自身に何の影響も与えず、お前の身体を拡張する》
ふと。
ジアドは、何かの振動を感じた。
ほぼ真空に近いこの領域では、そもそも震える物質が存在しないはずなのだが、しかし身体感覚が確かに何かの震えを感受した。
《空間震だよ。魂を侵す旋律だ。直に浴びれば発狂は免れないが、お前ならどうということはないだろう?》
――それが、僕を待っていた理由ですか。
《虚無と飢餓を抱えながら、七千年、待った。いつか必ずお前のような奇形児が現れてくれると信じたから。人の持つ可能性――クク、今となっては悪くない響きよ》
世界の果てに近づくにつれ、空間震は加速度的に強くなってゆく。精神を千々に引き裂かれ、消えざる汚染と腐敗をもたらす、狂乱の唄声。
だが、快も不快も主観も魂もないジアドにとって、それらは完全に無意味な騒音だった。
やがて、第五大罪の内側に、ジアドは着地した。先に分身を殻の表面で寝そべる形に出現させ、絶対静止基準を殻と等しくさせる。そのうえで十分に減速した本体が分身を踏みつけるように着地し、静止。かくして世界の果てを破壊せずに取り付くことが可能となる。セフィラの内部とは比較にならないほど弱い重力だ。
すぐ傍らに、黒紫の巨大な蜘蛛も着地した。足の裏を通じて振動が伝わってくる。
頭に節足の先端が置かれた。
《――ヴァーライドとの盟約は、小癪に障ることに確かな強制力があった。あの男はいつでも第一大罪を灼き滅ぼすことができる。今でもずっと私たちを見張っている。世界を包み込み、〈彼ら〉の目を眩ますこのシステムを維持しながら。だけどそのせいで、あいつはそれ以外のことが何もできなくなった。最強の絶罪殺機と、神域の知性、そして怪物的な意志力――そのすべてを有しながら、今はもう指の一本すら動かせない。あいつにできるのは、この狂った現状を維持することだけ。状況の変化に対応できない》
節足に、力が込もった。常人であれば頭蓋にめり込んでいるであろう力が。
《最後に勝つのは私だ。あいつはお前のような人間が誕生することを予期も期待もしていなかった。本当に人間の可能性を信じていたのは私というわけだ。笑えるなァ、おい?》
――早く案内してください。あなた!
《風情のない奴ね。いいわ。さっさと来なさい童貞》
ハニカム構造のひとつ。その中心部。
そこに、地下へと通じる階段があった。人間一人が入れるだけの、ごく狭い出入口。
《行きなさい。ここに「それ」がある。もっとも、インターフェースを有した一個体だけね。他も貸してあげる用意はあるけど、ヴァーライドにバレるし、私も〈彼ら〉は警戒している。全部というわけにはいかないわね》
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