
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #171
「えっ……」
思考が、止まった。
「なに……を……」
それは。
その言葉は。
「お前はもう「誰も泣かぬ世界の実現」のためには戦うな。俺が悪い。何もかも。死に際で意識も定かではないまま、お前に無茶な呪いを遺してしまった。一人の大人として、恥ずべき行いだった」
体が震えてくるのを感じた。
「だから、もう、やめろ。もう任務のために心を擦り減らすな」
「ふざけないでくれッッ!!」
絶叫する。
ディムズの襟を掴む。
「ふざけないでくれ……ふざけないでくれ……ッ」
力の限りゆする。
「あなたがそれを言うのかッ! いまさら……いまさら……ッ」
静かな眼が、こちらを見下ろしている。
「何人死んだと思っている……ッ! 死んではならない者が……ッ! あなたは、彼らの生を、死を、戦いを、最初から無駄だったとでも言いたいのかッ!! 僕と出会い、無念のうちに息絶えていったすべての命を、侮辱するのか……ッ!!」
「それでお前を解放できるのなら、俺は何だって蔑しよう」
「やめてくれ……ッ!! 何のために、僕は何のために……耐えてきたんだよッ!!」
襟首をつかみ上げながら、アーカロトは俯く。
「あなたに死なれ……ひとりでこの時代に放り出され……あなたの最期の言葉だけをよすがに今まで歩いてきたんだ……ッ! あなたの言葉があったから、歩いてこれたんだ……ッ! 僕は……何も……守ってやれなかったけれど……歯を食いしばって……それでも前に……前に……ッ! 進もうとしているんじゃないかッ!! それを……それを……ッッ」
肩を震わせる。
「馬鹿にするなよ……馬鹿に、するな……」
「そうやって、お前は自分の窮地も、不甲斐なさも、守れなかったという現実さえも、俺のせいにしつづけてきたのか」
呼吸が、止まった。
「なぁ、アーカロト。もうやめよう。お前は、人間なんだ。たとえ世界を滅ぼせるような巨人を自由に操れようと、たとえ何千年と生きていようと、お前は人間だ。人間以外ではありえないんだ」
ディムズは、横に目を向けた。
つられて同じ方を見ると、過去の記憶の中で、ヴァーライドが常に忙しく行動し続けていた。それを、少年だったアーカロトは目を丸くして見ていた。
およそ彼は、休むということをしなかった。アンタゴニアスの仕様と兵装の設計・開発。あるいは女神と人類の折衝。あるいは急速に失われゆく天然資源の効率的な分配システムの構築。常に重要な案件に向かい続けていた。
自分もいずれ大人になったら、あんなことができるのだろうかと、畏れすら滲ませて、彼の様子を見続けてきた。
「彼は、お前とは違う。本当は、わかっているんだろう?」
それは……そうだ。
ヴァーライドの精神的なバイタリティは、人間の範疇ではない。今この瞬間すらも、ミーメーシス四十三万機がもたらす苦痛のすべてを、たったひとりで受け止め続けている。それは、全人類が感じ続けてきた苦痛の総量を優に上回るであろう。それでも彼は七千年以上、片時も休まず人類の存在を〈彼ら〉から隠し通してきたのだ。
その在り方は、もはや狂気などという言葉で片づけることすらできない。
「彼を基準に考えるな。人間は、他人から押し付けられた目的のために、心の底から本気になることはできない」
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