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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #168

     前 目次

    最初に頭を撫でてもらったとき

    僕はまだ満足に手足も動かせない赤ん坊で

    だから僕を撫でるその手は

    まるで世界を覆い尽くす夜の帳にも見えた

    大きな手の持ち主は手をどけると

    なにか複雑な感情の入り混じった眼を向けて来た

    謝罪 興味 警戒 慈愛 憎悪 憐憫 期待

    およそ一人の人間に向けられるようなものではなかった

    だけど

    少なくとも真摯ではあった

    それだけは

    覚えている

    その人物は不定期ながらも僕の様子を見に来た

    何年も

    何年も

    継続して

    何かを危惧するかのように

    〈静寂機関〉の奉仕者たちに尋ねると

    彼は空前絶後の大罪人で

    同時に人類を救った英雄でもあると言う

    「正直、複雑ではありますが、とても偉大な方なのは間違いありません」

    そのような人物がなぜ僕を気にかけているのか

    僕と会うたびに安堵の表情を浮かべるのはどうしてか

    当時は何もわかってはいなかった

    「少し、話さないか」

    あるとき彼はそう言って

    僕の手を引いて歩き始めた

    その手の力から

    彼の緊張が伝わってきた

    やがて歩幅の違いに苦労しながら

    必死に彼の歩みについていこうとすると

    「あぁ、すまない」

    彼は一言断ってから

    僕を抱き上げて自分の前腕の上に座らせてくれた

    「こんな幼児扱いは、君にとっては不本意だろうが、もう少し歩くんだ」

    だけど僕はいきなり高くなった自分の視点に興奮して

    彼の謝罪などほとんど意識してはいなかった

    やがて彼はとても巨大で刺々しいの建造物へと足を運んだ

    当時は知らなかったが

    ゴシック様式のあまりにも巨きな大聖堂であり

    陰鬱で 荘厳で 退廃的な

    その佇まいに

    僕は身震いした

    「……受精卵が形成された時点で、並列多元罪業変換機関は君に反応した」

    いきなり語られた言葉の意味を

    僕はほとんど理解することができなかった

    「つまり、君が将来、大罪を犯すことは確定しているというわけだ」

    どうして

    あなたは何をそんなに恐れているのですか

    「いったい俺は、このことをどう考えるべきなのだろうか」

    「本当に、偶然で片づけていいのだろうか」

    「君の出生を知った時、目を疑った」

    「あの女が人であった頃、人類種研究資源バンクに卵子を供していた」

    「その遺伝子データが、流れ流れて俺の計画に紛れ込んでいた」

    「もちろん、理論的に考えて、これは偶然以外にありえない」

    「親の罪は遺伝しない。親の性根は遺伝しない」

    「まして、あの女が怪物となった要因は完全に後天的なものだ」

    「君に何ら影響などあるはずがない」

    「だが」

    「こんな偶然などありうるのか?」

    「よりにもよってあの女の子供が、将来大罪を犯すだと?」

    「その事実に対して危機感を抱くことは、本当に愚かな迷妄なのか?」

    言いながら

    彼は大聖堂の中を進んでいった

    やがて

    異様に精巧な神話的レリーフの施された扉に手を触れると

    そこから黒紫の光が凹部分を舐めるように広がっていった

    《ソピア=テオトコス条約機構、〈静寂機関〉所属、特零號調停神祇官主席、ヴァーライド・ジェナナトル猊下の生体コードを確認しました。来訪を歓迎いたします、猊下》

    重苦しい駆動音と共に扉が開き

    その奥に

    僕の運命が鎮座していた

    【続く】

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    小説書きでミニチュアゲーマー。おもにSFを好み、三度の飯よりセンスオブワンダーが好き。小説が面白かったらフォローしておくれ。なにかあればツイッターアカウントのDMからどうぞ。https://twitter.com/shu64737980

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