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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #169

     前 目次

    長く伸びた鼻面に

    複数の眼

    いかめしい装甲部と

    対照的にほっそりとした上腕や大腿

    その素肌にはびっしりと封印主義の教義を暗示する印章が刻み込まれ

    剥き出しの臓物は

    絡みつく青黒い血管に締め上げられるように拍動していた

    僕は思わず目を背け

    ヴァーライドにしがみついた

    大きな手が力強く頭を撫でてくれた

    「怖がる必要はない。あれは君がいなければ何もできない」

    「あれは、なに?」

    「君が将来犯す大罪を喰って動く、君の牙だ」

    「よく、わかんない」

    「そうだな。俺も、君がわからなくて、君が恐ろしい」

    言葉の意味が

    やっぱりわからなかった

    「すぐには理解できないかもしれない」

    僕の両脇に手が差し込まれ

    ヴァーライドは僕を真正面から見た

    「だが、必ず理解しなくてはならない」

    「俺は君に何一つとして嘘も誤魔化しも慰めも言うつもりはない」

    「君が大人になるより前に、〈彼ら〉が来る」

    「きっと俺たちは負けるだろう」

    「人類は、滅ぶだろう」

    「だが俺は最後の最後まで抗い抜くつもりだ」

    「そして何よりも、思考停止には陥らない」

    「抗戦に固執せず、自らの全知全霊をもって人類存続の道を探り続ける」

    「奇跡を、必ず起こして見せると誓う」

    「味方につけているうちは頼もしい奴らも三人いる」

    「だが、正直言って、一人は何を考えているのかわからず、一人は虎視眈々と人を喰らう機会をうかがい、一人はコミュニケーションがまったく不可能だ」

    「俺には背中を預けられるほど信頼に足る仲間はいない」

    僕を抱き上げる指先に

    力が込もった

    どこか

    縋りついてくるような想いを感じた

    「君がそうなってくれると、俺としては本当に助かるんだ」

    「だが、今の君にはまだわからないことだろう」

    「命をかけて人類のために戦えなどと言ったところで、人類が君にとって命をかけるに値する存在かどうか、君にしか判断はできないのだから」

    「いいか、俺は耳障りの良いおためごかしを口にする気はない」

    「君の大罪が何であるのか、今のところまったくわからないのだから」

    「嘘偽りが理由で君が人類に絶望しては、悔やんでも悔やみきれない」

    「せめて人類を色眼鏡なしで正しく知ったうえで、大罪を犯してほしい」

    「俺はこれから、君を洗脳する」

    「人類守護の戦士として、君に人類史と人類認識のすべてを叩き込む」

    「人類が、いかに生き、いかに殺し、いかに慈しんできたか」

    「そして、どうして君という存在が生れ落ちたのか」

    「すべてを学んでもらう」

    「当然、これはまったくフェアな教育ではない」

    「俺は常に君の思想を人類守護の方面に偏らせようとするだろう」

    「だから、俺以外の者からも、人類について尋ねるべきだ」

    「そのうえで、大罪こたえを出してほしい」

    「俺は、君とのコミュニケーションについてだけは後悔をしたくない」

    ほとんど意味もわからなかったが

    彼の思いの深さだけは

    感じ取ることができた

    ゆえに僕は

    こっくりと頷いた

     ●

     青年と、幼児が交わす言葉を、すぐ傍らで聞く者たちがいた。
     一人は、幼児が数年ほど成長した姿をしていた。
     もう一人は、暗い目つきの大柄な男だった。

    【続く】

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    小説書きでミニチュアゲーマー。おもにSFを好み、三度の飯よりセンスオブワンダーが好き。小説が面白かったらフォローしておくれ。なにかあればツイッターアカウントのDMからどうぞ。https://twitter.com/shu64737980

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